文・高橋秀尚 株式会社パンワールド代表取締役、海外情報研究会主宰
今年の4月5日から7日までアメリカ西海岸のリゾート都市アナハイムでRBA(リテーラーズベーカリー協会)の年次大会および展示会が開催された。
筆者は日本で実質的な活動をしている唯一のメンバーとして、ほぽ毎年このイベントに参加している。
今年はイラク戦争の影響で何かと心配の種もあったが、単独で参加した。
その目的はもちろん展示会であったが、現地でなるペく多くの業界人に会い、情報入手と親交を深めることを試みた。
その結果、期待以上の成果を得ることができた。アメリカ旅行には必要以上の危惧は不要との印象を得た事もご報告しておく。
ディストリビューターの努力で材料高騰に歯止 さて、今回いろいろな立場の人々と話をする機会を得たが、その要旨をまとめてみた。読者の方々の参考になればと思う。
◎リテールベーカリー兼界の現状
年商額などはすでに報告済みであるので、業界の人々と話をした内容をまとめてみた。
(1)業界はほぼ安定している。不況、戦争と消費行動への不安はあるものの、リテールベーカリー業界はたいした不安要素もなく、着実に伸びている。
(2)昨年末に原材料価格の高騰が予測されたが、今のところ大きな影響は出ていない。アメリカの業界における食材の販売ルートは、製造者から「ディストリビューター」を経由してユーザーであるベーカリーに物資が供給されるが、そのディストリビューターの役目は重要である。日本式に解釈すれば、これは卸売り業者となるが、その実体はまったく異なる。彼らは商品を供給すると同時に、業態・商品開発、販売戦略の設定などを担当する。
またリテールベーカリーを対象とする製造技術指導も行う。ほとんどの場合テストベーカリーを持ち、定期的に製パン指導を行っている。
さて昨年末の原材料価格高騰時には、ディストリビューターは納入すべき各種の食材価格のバランスをとり、プラスおよびマイナス両面を考慮してリテールベーカリーに対する相対的な納入価格を決めた。これによって上昇気味であった小麦粉価格を抑えることが出来たという。
(3)リテールベーカリーにおける商品開発戦略は、その重要性を増す一方である。また製造方式はスクラッチが70%、ミックス粉使用が10%、冷凍生地使用が10%、仕入れ商品が10%である。また昨年度は冷凍生地の生産量が前年度より減少した。
利益をいかにして確保するか (4)オーガニツク ベーカリー市場は今なおマイナーな市場で、年商額で見れば5%以下である。ただし今後は増加傾向にあると予測される。
(5)今最も重要視されるのは「プロフィットボトムライン」である。つまり利益確保のための最小売上げ確保をどのようにして果たすかである。全米平均値を見た場合は次のようになる。
▼数店舗を所有するリテールベーカリー | 3・6% |
▼単独店舗で付加価値商品を売るスペシャルティベーカリー | 9・2% |
▼多品種目を揃えるフルラインベーカリー | 3・5% |
(6)リテールベーカリーの平均的な営業時間は月・金曜日が午前6時から午後8時まで。土曜日は午前7時から午後7時まで。日曜日は閉店
または午前8時から午後4時まで。
(7)競合するのは誰か?
▼同じ商圏内にある同業他社 | 52% |
▼SMインストアベーカリー | 38% |
▼スーパーセンター | 8% |
▼その他 | 2% |
特化商品開発などが重要項目に (8)自分がオーナーある場合、後継者がいるか?
▼いる | 68% |
▼いない | 22% |
▼わからない | 10% |
(9)リテールベーカリーも含
まれるアメリカの最低賃金規則は守っているか?
(注)アメリカ全土の規定では最低時給は5ドル75セント、カリフォルニアの場合は6ドル75セント。
(10)リテールベーカリーが生き延びるための重要ポイントは何か?(複数回答)
▼特化商品の開発 | 69% |
▼顧客サービスの提供 | 56% |
▼商品のフレッシュネス | 59% |
▼欠品をなくす | 56% |
▼特注商品の技術開発 | 53% |
▼地元密着度 | 49% |
(11)商品開発のための情報はどのようにして入手するか(複数回答)?
▼ディストリビユーターが持ってくる情報 | 68% |
▼所属する団体のレシピー・サービス | 62% |
▼業界紙などのメディア | 53% |
▼契約するコンサルタント | 45% |
▼その他 | 38% |
(12)今最も切実な問題点は(複数回答)?
▼質の良い従業員の確保<>73%
▼販売員の教育<>66%
▼販売員のモラル(売上げ金の紛失など)<>58%
▼製造・店舗スペースの衛生管理<>53%
▼経営者自身が休暇がとれない<>51%
▼将来への不安<>49%
▼良いディストリビユーターがいない<>42%!!>
(13)リテールベーカリーの将来性は?
▼明るい<>58%
▼かなり不安がある<>31%
▼不明<>11%!!>
省力化、IT化への模索が続く なお今回視察したRBA展示会を見ての印象としては次のことがあげられる。
(1)省力化への模索。スクラッチを前提とするリテールであるが、製品冷凍、バーペイク商品との併用も考慮に入れる時代になっ
た。
(2)IT化。小規模企業でも使いこなせるシステムが開発されている。
(3)健康志向商品開発は一段落した感がある。
(4)ベーカリー関連商品開発は売上増の手段として有望。その例としてグルメ・コーヒー、スープ、ハーフ茶など。
(5)やはりドーナツはアメリカ人の永遠の走番商品。冷凍のあとウォーマーに入れてから熱するシステムが開発・展示されていた。フライヤー使用の場合に比べて、25%の省力化が可能という。
なお今回は展示会が終わったあとに東口スアンゼルス地区のリテールベーカリーを3軒ほど見学したが、この地区はメキシコ系住民が多く住んでいる。それぞれの店が独自の商品を持ち、しっかりと固定客をつかんで商売しているのが印象的であった(店舗写真を参照)。
 南カリフォルニア地区でメキシコ系の人々を対象に商品を製造販売するリテールベーカリー。主として甘味パン(パン・ドルセ)を中心とした商品構成で、地元のお客をつかんでいる。 |  店舗裏手の小さな製造スペースでフィリングを手作りしているところ。店を開いて50年、創業以来変わらない確かな味を今なお伝えている。 |
 現在のオーナーと彼の父親。身体が元気なうちは働き続けたいと話していた。 | |