実践的ベーカリーマネージメントの基礎知識(5) - ブランスリー電子版


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実践的ベーカリーマネージメントの基礎知識/2004年8月号

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実践的ベーカリーマネージメントの基礎知識(5)

文・折井英雅
昭和30年に東京農工大学農芸化学科を卒業し、(株)東急フーズ(現サンジェルマン)入社、サンジェルマン開発部長、海外事業部長として国内外約120店舗のインストアベーカリー、レストランベーカリーの企画から開店までをプロデュース。平成3年ハワイ・ディーライトベーカリーでの2年間の社長職の後退社。平成4年から11年まで食糧学院・東京ホテルレストランカレッジ製菓喫茶店経営科(現在、東京栄養食糧専門学校に移管)科長として専門学校の教育に従事。現在はベーカリー会社顧問のほか、名古屋文化短大食生活専攻科講師として製菓製パン理論、フードマネージメント論を講義。所属団体としてはRC・アミカル会副会長、フードシステム研究所主任研究員として「食文化から食マーケティングヘ」の視点から、同研究所の江戸を学ぶ会、新発想開発塾に研究員として参画。



マーケティングリサーチは、目的をはっきりさせて行う

第3章マーケティング活動(続)
第2節 マーケットリサーチ~マーケティングリサーチ
前回のA店の例のように、すでに営業している店でも、「どうも商品が売れなくなった」と考えて、「商品が顧客に合っているのか」を、店の立地から客層を再検討して、考えてみようというのもマーケットリサーチの立派な活動です。
もちろん出店戦略の時に果たして自分の出したい業種業態が予定している物件の場所に合っているかどうか、またその場所に出店したら、どの位の売上があるかの予想をたてるための調査も、重要なマーケットリサーチです。今回はこのマーケットリサーチをどのように認識しらいいのかについて述べ、さらに、店を取り囲む商圏と店の立地の性格についての基礎的な事柄を説明していきます。
1基本的認識
(1)マーケットリサーチとマーケティングリサーチ
厳密にいうならば、マーケットリサーチとマーケティングリサーチは同じ意味ではないといわれます。マーケットリサーチは「現在、市場がどのような状態にあるかの調査」のことで、出店のときの立地調査がこれにあたります。マーケティングリサーチは「市場の状態について知ることにとどまらず、どうアプローチをしていったらよいかまで調査する」ことで、立地の調査をしてからその特性や客層まで考えて、どういうコンセプトの店舗にすべきかまで積極的にリサーチするということです。
ショッピングセンターの開発とか、チェーン店の多店舗展開などを図るようなプロジェクトの時にはオーナー会社が専門の調査会社に出店予定地の情況の調査、いわゆるマーケットリサーチをさせます。そしてオーナー会社は、その報告に基づいて、どのような業種業態にすべきか、商品メニューコンセプトや店舗デザインコンセプトはどうするかなどを決めるために、いわゆるマーケティングリサーチをします。このことからも、マーケットリサーチとマーケティングリサーチの区分ははっきりしています。
しかし小規模のベーカリーでは、商圏や立地の調査をしながら「客層は」「購買動機は」などと考えて、店舗コンセプトの企画も同時にしていると思います。したがって今回の私のベーカリーマネージメントの話ではこの2つを区別せず、マーケティングリサーチで統一します。
(2)マーケティングリサーチの概要
商品開発や出店戦略の企画ではこのリサーチ活動が重要なことはもちろんですが、日常の営業活動においても、関係している市場、消費者(お客さん)、競合相手、取引先等を対象にして、必要とされる種々のデータを様々な手法によって収集、分析、集約し、経営の意思決定をし、発生する問題を解決するための有効的な策を立てる必要があります。こうしたこともマーケティングリサーチ活動そのものです。
これは前回のセンス系統図で説明した「STORY~話題―種々の事柄(物事、情報)を収集、分析、集約して頭の中で有効化できること」と連動したものです。マーケティングリサーチ活動での発想力、企画力の発揮がセンスアップにもなり、またセンスアップした頭でより高い、より深い解決策を導き出すことが出来るのです。

5W1Hで説明すると・・・
マーケティングリサーチの手法の概要をわかりやすく5W1Hで説明します。なお、前回のAベーカリーの天然酵母パンの調査を例にとって考えていきます。
[1]WHO―誰に聞くか
調査の目的によって対象を誰にするかということです。消費財の商品であるパンの場合は消費者(顧客)を対象とする消費者調査が中心となります。
*Aベーカリーでは天然酵母パンの売行調査を店の顧客を対象に行ないました。
[2]WHY―なぜするか
何の理由でするのかをはっきりします。問題意識が明確でないと途中で何を調査しているのかがあいまいになり効果が出てきません。
*Aベーカリーでは新たに発売した天然酵母パンの売行が思わしくなかったので、その原因を調べることにしました。
[3]WHAT―何を目的としてするのか
調査で明らかにすべき課題やテーマを示します。
*Aベーカリーでは天然酵母パンの売行調査で、どこを改良すべきかを明らかにしようと考えました。
[4]WHERE―どこでするか
リサーチが対象とするエリアです。大規模になると全国とか、小規模ですと店のある商圏とかになります。
*Aベーカリーでは店に来る顧客を対象にしましたので店舗となります。
[5]WHEN―いつするか
リサーチの実施時期と期間です。新商品開発では売出しのタイミングを、店舗出店や改装ではその日程を考慮して決める必要があります。
*Aベーカリーでは新商品の天然酵母パンが売れないので、至急に改良品の再発売をしたいと考え、ただちに調査を1週間することにしました。
[6]HOW―どのようにするのか
調査の方法論です。訪問調査、電話調査、観察調査、グループインタビュー、など種々ありますが、テーマとか費用から最適の方法を考えます。
*Aベーカリーでは店でパンの購入者(天然酵母パンの購入の有無にかかわらず)に、アンケート用紙を渡し、天然酵母パンに対する関心の度合いを聞き、天然酵母パンを買った客にはさらにその評価をしてもらいました。これはアンケート調査です。
調査の結果、天然酵母パンには関心が高く一度は買ってもらったものの、確かに健康には良いようだったが、風味が物足りないという回答が数多くありました。そこで直ちに改良して、蜂蜜入りの天然酵母パンを再発売し、売上増に結びつけました。



商圏とは来店する可能性が距離的に高い客が住む地域の広がり。

2商圏、立地
商圏、立地調査は特に出店戦略で重要ですが、すでに営業している店でも商品構成や、価格体系が客層に合っているか、店の環境(商圏、立地)がどういう状態かを知ることが必要です。しかし開店の本などで「近隣商圏」「立地特性」などといきなり出てきてもわかりにくいので、高瀬昌康氏「店舗施設の総合知識」や山下勇吉氏「商業立地のチェックポイント120」などを参考に、私なりに理解した商圏の分析と、立地に対する考え方を述べておきます。
(1)商圏(商圏型、商圏特性)
 商圏とは、小売店舗や外食店舗などの買物施設の集まった商業集積があって、その商業集積に継続的に足を運ぶ可能性がある人たちが住む地域の広がりのこです。
商圏型はその広がりの大小を買物施設の規模の大きさ、店舗数、店舗の質等で分類したものです。地元密着の最寄品中心の商圏は狭くなり、デパート、ショッピングセンターが集中しているような繁華街の商圏は広くなります。この商圏型は、いろいろの基準で近隣型、地区型、地域型、広域中心型の4つに分類されます(表参照)。これら4つの型について首都圏の例で説明していきます。
それぞれの商圏型の比較がしやすいように、分類の尺度として、6つの項目を説明しておきます。
そしてそれぞれの項目の内容について、いろいろの情報を収集、分析、集約して問題解決をはかる(まさにマーケティングリサーチをする)ことで、出店企画の時のみならず、日常の商品開発や売上増加策がはかれることになります。
[1]一次商圏―商業集積の場所に足を運ぶ可能性のある人たちが住む地域の、その商業集積の場所を中心とした距離的な広がりが、半径何メートルの円になるかで表されます。要するにその円内に住んでいる人は常にその商業集積に買物にくる可能性のある客になるということです。出店戦略の章で説明しますが、その円内の世帯数を調べることが売上予想のベースになります。さらにその世帯の構成人数、男女比、年令層等を調べることもできます。
[2]来街手段―その商業集積に来るための交通手段のことです。もし自転車とかマイカーの時は、その駐車、駐輪の難易さを調べることも必要です。
[3]客層―その商業集積に来る主たる客の性格。この客層を調べることでどのような商品開発や店のデザインイメージ発想をすべきかが明らかになります。
[4]購入商品―その商業集積で客の買う主な商品の種類。どんな商品を購入しているかを調べることで、商品構成をどうすべきかがわかってきます。
[5]商店形態―その商業集積を構成する主な商店の態様です。果たしてここで対応していけるか、どんな専門店の構成なのか、競合店の影響はどうか等について調べます。
[6]駅乗客数―その商業集積に関係する駅の乗客数。商圏型の分類するには、上の5つの項目だけではあいまいな点もあるので、一つの明確な数字としてこの駅乗客数は重要です。もちろん、商業集積の大きさと住宅の密集状態の関係等が絡んできますので、一概にいえませんが、この乗客数をひとつの基準として他の5項目と勘案しながら判断するのが良いと思われます。この乗客数についてはJRと私鉄(公営鉄道を含む)では大きく格差があり、大体同じ商圏型ではJRは私鉄の2倍の乗客数があります。各商圏毎に乗客数の範囲と、駅名、乗客数を表に示しておきましたので参考にしてください。
 なお、注意すべき点は、項目の内容が商圏型に型通り類型化されるとは限らず、他の型にまたがる場合もあることです。これは消費者の生活行動が複雑化し、それぞれに応じた商業集積を必要とするからです。例えば近隣型であっても客層が地区型の30代中心の主婦になったり、購入商品が地域型の準高級品、準流行品になったりします。商圏型は従来形の固定的な概念であるので、次に説明する時代の変化に対応していく概念である商圏特性とあわせて考えていくことが必要といえます。
商圏特性とはその商圏の主な性格をそこの住民や来圏者の生活行動から表したものです。大きく7区に分類していますが、その内容には下記のようにいろいろの分け方があります。この商圏特性は一つとは限らず複数の場合もあり、混在している場合もあり、また環境の変化で性格が変わったり、新しい概念の特性が現出したりするかも知れません。この特性をよく見極めることが、出店戦略の時の物件採用や店舗コンセプト作りに必要ですし、現在営業中の店も特性の変化に対応して的確な商品構成や商品提供がなされているか、チェックしていくことが大切です。
 [1]商店街区
▼私鉄駅前の個人商店の集合体
▼JR駅前のショッピングセンター、スーパー、デパートの複数群
▼ビジネス街と住宅街の接点の寄り合い店舗群
 [2]繁華街区
▼夕ーミナル駅中心の巨大ショッピングセンター集合体
▼再開発地区の複合商業ピル
▼町並み統一の商店街通り
 [3]歓楽街区
▼高級クラブ、料亭街
▼居酒屋、バー、クラブの盛場
▼映画館、ゲームセンター等のアミューズメント街
 [4]ビジネス街区
▼洗練された職業人の集まるオフィス群(デザインスタジオ等)
▼一般の会社のオフィスビル群
▼官庁街
 [5]住宅地区
▼高級住宅街、
▼一般住宅街
▼郊外住宅街
▼マンション群
 [6]学生街区
▼大学専門学校群(共学、女子校)
▼高校中学群
 [7]郊外地区
▼公園、遊園地等購買目的でなく人の集まる所
▼ロードサイドの拠点

立地を性格付ける4つの尺度
(2)立地
 立地は出店物件の周辺の状況をいい、オーナーのコンセプトに合う場所かということと出店戦略の時の売上予測に重要なファクターとなります。このファクターの具体的な使い方については第4章で説明します。
[1]駅勢力(交通力)―その店の来店客が利用する(乗り降りする)駅の力(乗客数の多少で表しますが)、その駅から店までの導線の遠近、来易さ、その導線の沿線の活況情況が魅力があるかということです。従来は駅中心に考える店が多く、このファクターは必要ですが、最近は郊外の住宅街とかロードサイドに出店する場合も見られるようになり、交通力としてバス路線の便利さ、生活道路網の状態、付近駐車場の有無等調べるという、新たな要素も出てきました。
[2]ブロック力―店を含めた同側面2ブロック、向う正面2ブロックの道路情況、人通り、車付け、店舗構成等からこの集積が他の集積に比べて力があるかをみます。
[3]店勢力―店が集合ビルの一廓にある場合、そのビルのどこに位置しているかで客の導線に影響が出ます。また路面店でしたら道路面に対して客が入りやすいか、店が見易いかで影響が出てきます。
[4]競合度―同業者、影響業者が存するかどうか、もし存在する場合は、とそれらの店の商品や接客等にどの位の影響を受けるかということです。
 商圏、立地については、すでに営業している店でもいろいろ考えるべき問題があるという観点から説明してきました。
商圏、立地を一つの体系として系統的に把握するために、出店戦略の章の売上予想の項でさらに具体的に説明したいと思います。




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