しつこく徹底調査 - ネットでパンは売れますか? - ブランスリー電子版


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特集/2001年11月号

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しつこく徹底調査 - ネットでパンは売れますか?

インターネットでパンを販売するベーカリーに様々な質問をぶつけた。
手探りの状態のところが多いが、徐々に実績を上げつつあるケースもある。
パンがおいしくて個性的なことや、パンについてよく説明すること、ページを頻繁に更新することなどが重要で、価格は売上にはあまり関係がないことなどが浮き彫りになった。

調査の方法
インターネットでパンを販売するベーカリーおよそ60軒に、メールまたはFAXで、質問用紙を送付し、回答を求めた。一定の時間がたっても回答がなかったベーカリーには電話で回答を求めた。回答したのは23軒。
質問内容は、「インターネットでパン(単品、セット)を何種類販売しているか」「単品で最も高いパンと最も安いパンはそれぞれいくらか」「セットで最も高いパンと最も安いパンはそれぞれいくらか」「ネット通販の平均月商は」「サイト運営に月いくらかけているか」「ネット通販で売上を上げるポイントは何か」など。
回答したベーカリーの所在地は、東京都(6軒)、神奈川県(4軒)、兵庫、長野の両県、北海道(それぞれ2軒)、宮城、山形、新潟、千葉、奈良、福島の各県、大阪府(それぞれ1軒)。



ネット通販のポイント


個性的でおいしいこと、よく説明すること
「インターネット通販での平均月商はいくらですか」(有効回答18)と聞いたところ、1万円以上5万円未満が8軒、5万円以上10万円未満が4軒、10万円以上50万円までが5軒だった。300万円と回答したベーカリーが1軒あった。(23ページで具体的に紹介)
また、「ネット通販で売上を上げるポイントは何ですか」(複数選択式回答、有効回答数20)と聞いたところ、最も多かった回答は「パンのおいしさ」の11軒だった。「パンについての説明」が9軒、「ページの更新頻度」と「メールの返事」が7軒ずつ。「ページのデザイン」「作り手についての説明」「企画の面白さ」が5軒ずつ、「パンの個性」が3軒など。
これを、ネットでの平均月商が5万円未満のベーカリーと、平均月商が5万円以上のベーカリーとに分けてみてみると、5万円以上のベーカリーでは、価格についての回答が1軒もなかったのに対して、5万円未満のベーカリーでは、「価格の安さ」との回答が2軒、「それなりの価格であること」との回答が1軒あった。
また、5万円以上のベーカリーでは、「パンの個性」と回答したベーカリーが3軒あったのが特徴的だ。「ウチでしか買えないようなパンがよく売れる」(福島県のベーカリー)といった声が聞かれた。
ただ、ホームページでは、店についての様々な情報を発信することを重視し、インターネット通販は2の次」といった声も多かった。
「ホームぺージは経費が安くて宣伝になっているので、通販の売上は少なくてもいい」(神奈川県のベーカリー)といった声が聞かれた。

経費は安く感じるが、人件費も考慮すると…
「インターネットの運営に月々いくらかけていますか」(有効回答数18)と聞いたところ、回答の平均値は1万4944円。ばらつきは月商の場合ほどはなく、最高で5万5000円、最少で2000円。
「パソコンができる友人に任せているが、売り上げの10%を支払っている」(兵庫県のベーカリー)、「業者にページ製作を依頼した」(新潟県のベーカリー)などと答えた、サイト運営を専門家に頼んでいるベーカリーは少数派で、ほとんどの場合、ホームページ作成ソフトなどを使って、自分でページを作っていることがわかった。「接続料2000円、電話代3000円の合計5000円」(神奈川県のベーカリー)、「自作のホームページなのでほとんどただ」(千葉県のベーカリー)といった声が聞かれた。
ただ、「ネット通販の月商が40万円」と答えたあるベーカリーは「サイト管理を頼んでいる友人の人件費も入れて4~5万円だが、実際には私自身も事務処理や発送などに結構時間を取られるし、販売スタッフが商品発送に割く時間なども考えると、さらに多くなると思う。ネット通販は、人件費がかさむ」と話しており、他の回答者の多くも、ページのメンテナンスや商品の発送などに割く時間などは、考慮していないと考えられる。ネット通販がある程度の規模になった場合、事務処理や発送などの作業をいかにして効率化するかが課題のようだ。



品目数と価格は?

価格と売上は無関係!?
インターネットでは、どれぐらいの種類のパンを販売しているのだろうか。調査では、「ネット通販で何品目のパンを販売していますか」「パンの詰め合わせセットは何種類販売していますか」(いずれも有効回答数23)との質問をした。
最も多いベーカリーは、単品で90品目を販売。「ネットでは1品目のみの販売」と答えたベーカリーが3軒あった。平均は、25・48品目。
品目数が多いほど、売上が高い傾向がみられたが、「ネットでは1品目だけを販売し、ネットでの平均月商が30万円」と答えたベーカリーが1軒あった。この商品は、同ベーカリーの看板商品のひとつで、かなり特徴がある商品。「テレビや雑誌などでも頻繁に取り上げられている」(同ベーカリー)という。リアル店でも飛ぶように売れているそうだ。
「単品で最も高価なパンと最も安価なパンはいくらですか」(有効回答数23、1品目のみの販売の場合は、その価格を最も高い価格とした)と聞いたところ、各ベーカリーが回答した最も高価なパンの価格の平均値は、1128・64円だった。各ベーカリーが答えた最も高価なパンの中で、最も高かったのは4000円、最も安価だったのは、「1つの商品しか販売していない」と答えた3軒のうちの2軒の100円、350円を除くと、550円だった。
インターネット通販では、パンの詰め合わせセットを販売しているケースが多いが、今回の調査では、23軒中、13軒がセット販売をしていた。セットの種類は、最も多くて7種類。「セット販売は1種類だけ」というベーカリーも4軒あった。平均は3・31種類。
各ベーカリーが答えた最も高い詰め合わせの中で、最も高価だったのは1万800円、最も安かったのは1270円。各ベーカリーが回答した最も高価なパンの詰め合わせの平均価格は3634・17円だった。単品の場合も詰め合わせの場合も、価格と月商との相関関係は認められなかった。



ネットで売れるパンは?

回答したベーカリーの言葉
●ネット販売はリピーターがいないと成り立たない。ネットで買う人の声は伝染力が強いので、特徴があって、おいしいパンでないとだめだと思う。ウチは食事系のパンを中心に販売している。兵庫県、ネットでの月商40万円、最も高いパン1000円
●天然酵母のクグロフやブリオッシュがよく売れる。両方とも一般的な商品だが、天然酵母で作っているところは少ないと思う。東京都、月商無回答、最も高いパン1800円
●トースト系の大型、ハード系がよく売れる。千葉県、月商無回答、最も高いパン600円
●食パンが売れる。山形県、月商1万円。最も高いパン600円
●こだわりの商品がよく売れる傾向にある。宮城県、月商3万円。最も高いパン600円
●色々な種類が入ったセットものが売れる。神奈川県、月商8・5万円。最も高いパン550円
●ライ麦パンの専門店なので、ライ麦パンがよく売れる。全国のライ麦パン愛好家から注文をいただいている。北海道、月商8・5万円。最も高いパン1800円
●ハードでヘルシーなタイプのパンを検索で探してくる人が多い。東京都、月商12・5万円、最も高いパン700円
●季節限定の商品やここでしか買えないものがよく売れる。福島県、月商50万円。最も高いパン3500円。
●ドイツパンなど珍しいものが売れると思ったが、食パンでもあんパンでも、店を気に入ってもらえると売れる。神奈川県、月商4万円。最も高いパン1500円
●お客様にとってパンがおいしいかどうかです。実際の店舗で売れないパンは、ネットでも売れません。新潟県、月商300万円、最も高いパン1200円
(都道府県名は、回答したベーカリーの所在地、「月商」はネット通販の平均月商、「最も高いパン」は、ネット通販の単品で最も高いパン)



実家に戻ったが、パンがどうしても作りたかった。業者っぽくはなりたくない - GET WELLSOON(http://www.d9.dion.ne.jp/~eriyoshi/top/topframe.html)



「日記」のページには、日々感じたことなどが書き込まれている


プレーン生地のカンパーニュを紹介するページ
「GET WELL SOON」は、インターネット通販での販売額が、総売上の約85%のベーカリー。昨年4月にホームページを立ち上げ、およそ90品目を販売している。昨年8月に「アップルパイ」を出してから、売上が急に伸びだし、現在では平均月商50万円までになった。

酒屋
運営するのは、福島県石川郡の吉田絵里子さん(28)。東京のあるベーカリーで、約1年5カ月働いたあと、酒屋を営む実家に戻ったが、パンを作りたい気持ちを抑えられなかった。酒屋の一室をパン工房に改装して、「GET WELL SOON」を1998年秋、オープンした。
様々な酒が並ぶ一角に、作ったパンを並べた。自然食品店2軒への卸販売も始めた。友人などを通してチラシを配ってもらい、パンの注文を募った。
昨年4月、「このままでは、これ以上の発展はない」と考え、パンの通信販売サイトを立ち上げた。

友達同士
吉田さんは、インターネットでのパンの販売のポイントについて「業者っぽくならないことが大事じゃないかと思います」と話す。「注文してくれる人たちはみんな、注文以外に様々なことを書き添えてきます。それに対して、こちらもメッセージを添えて、すぐに返事を出すことが大事です。友達同士ののりでお客さんとは接しています」
吉田さんは、ページを頻繁に更新することの重要性も強調する。「かなり頻繁に更新しています。特に日記はほとんど毎日書いています。でもこれは、自分が好きで書いているという感じですが…」。
「日記」は、2000年4月から現在まで、かなりの頻度でびっしりと書き込まれており、吉田さんの日々の感情の起伏などが垣間見られるようになっている。

人気商品…?
GET WELL SOONの品揃えは、およそ90品目。材料は、レーズンからおこした自家製の酵母、岩手県産の小麦粉、岩手県産のライ麦粉、伊豆大島の深層海水からとった塩「ハマネ」などだ。「なるべくシンプルに素材の味が伝わってくる食べ物作りを心掛けています。添加物は使いません」と吉田さん。
パンは、「定番のもの」「変わったもの」「新しいもの」などに分類されていて、それぞれページが用意されている。各ページでは、パンが生地の種類で分類されていたり、パンの商品名が並んでいたりして、注文しやすいように考えられている。
例えば、カンパーニュは、自家製酵母、岩手産小麦粉、塩などを捏ねたプレーン生地、プレーン生地にトルコ産サルタナレーズンを入れた白ぶどう生地、蒸し煮したかぼちゃを40%練り込んだかぼちゃ生地の3種類から作る。プレーン生地のカンパーニュは大が450円、小が290円だ。白ぶどう生地のカンパーニュは、400円。これらは、「定番のもの」に分類されている。かぼちゃのカンパーニュは「変わったもの」で、ホールが500円、ハーフカットが250円。「人気商品といわれても、どれも平均して売れるので、わかりません」と吉田さんはいう。
吉田さんがセレクトして、詰め合わせるセット商品もある。「おまけつき2500円」と「おまけつき4500円」の2種類。「初めて注文される方、メニューがたくさんあり過ぎて選ぶのが大変な方、その日焼いたパンやお菓子などの中から、私のお薦めをセレクトします」と吉田さんは語りかける。
夏のおやつセットなど季節限定のセット商品もある。
顧客は、メニュー画面を見ながら、ほしいパンをチェックし、通常のメールフォームに注文内容を書き込み、送信する。

注文してもらうための工夫は必要。しかし、リアル店で売れない商品はネットでも売れない - 麦ばたけ(http://www.mugibatake.co.jp/)



パンはイラストで紹介。
新潟県北蒲原郡のベーカリー、麦ばたけは、「ネット通販での平均月商が300万円」(オーナーの奥村昭さん)のベーカリーだ。ネットでの客単価は3000~4000円という。リアル店も構えるが、こちらの方の平均月商は200万円弱(平均日商約7万円)というから、ネット通販の売上の方が多い。

イラスト
奥村さんが、パンの通販サイトを立ち上げたのは1999年1月。不況が深まる中で、新たな販路を開拓したい、との思いからだった。ページ更新などのサイトのメンテナンスは、奥村さんが自ら行う。
麦ばたけのホームページでは、パンは写真ではなく、イラストで紹介している。「パンは写真だとみんな同じ感じになってしまうし、よそがやっていないことをやらなくてはと考えました。それと、イラストの方が想像力を掻き立てるということもあると思います。写真で見たいという声もありますが、イラストをやめるつもりはありません」と奥村さんはいう。イラストは、奥村さんの妻が描いている。

メール配信
パンの詰め合わせセットの案内を月1回の頻度で約5000人の顧客にメールで配信している。サイトにはのせていないパンが中心だ。「『今度こんなパンができました。いかがですか?』という感じでメールを出すんです」と奥村さんは話す。
メールでの案内を最初に出したのは、ホームページを立ち上げて間もない頃、サーバーの調子が悪くなり、ホームページが見られなくなった時だった。数百人にパンの詰め合わせの案内を送った。かなりの反響があった。「文字だけの情報で、こんなに注文があるものか」と驚いた。それ以来、「今月のお勧め」という形で、メールで案内を出している。
メール配信のソフトを使い、自動的に送られる仕組みで、手間はそれほどかからないという。

アクセス
ページは毎日更新する。「商品のページや、注文のフォームなんかをよくいじります」と奥村さん。
「アクセス数を増やす方法は」との質問に、「知り合いのショップのサイトにリンクを張ってもらったり、懸賞専門のサイトで紹介してもらったり、といろいろあります」。麦ばたけのホームページには、「アンケートに答えると抽選で『パンのお試しセット』(2100円)をプレゼント」という企画があり、懸賞好きの人がアクセスしてくることも多いという。現在の1日のアクセス数は「200ぐらい」(奥村さん)だ。

試食提供
奥村さんは、ネットでの顧客に対して、パンの試食の提供を積極的に行ってきた。ホームページを見て、「実際に味がわからないとなかなか買えない」などの声を寄せてくる人に対して、「試食というにはかなりの量のパン」を無料で送った。
「これまで、無料で発送したパンは、100万円分ぐらいにはなります」(奥村さん)
「食べてもらうためにいろいろと工夫はしなければなりませんが、結局は、お客様にとってパンがおいしいかどうかです。実際の店舗で売れないパンは、ネットでも売れません」
麦ばたけのネット通販の人気商品は「普通の製法で、しかし丁寧に手間をかけて作る食パン」(奥村さん)だそうだ。「インターネットで販売する場合、よくハード系のパンをメインに打ち出すことが多いようですが、ちょっと違うような気がします」

効率化
注文を集計したり、宅配便の送り状を書いたり、梱包をしたりと、ネット通販の場合は、事務作業が大変だが、麦ばたけではパソコンを駆使して効率化を図っている。例えば、注文内容の確認メールは、顧客が注文メールを送信してから数秒後に、自動的に返信される仕組みになっている。
宅配の送り状も、顧客からの注文データをもとに、自動的に必要事項が打たれて出てくる仕組みだ。ネット通販商品の発送を専門に担当するスタッフもいる。

原価計算女王
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