不動の看板商品、まろやかなおからフィリング - おとぎばなし - ブランスリー電子版


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お店拝見/2001年12月号

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不動の看板商品、まろやかなおからフィリング - おとぎばなし

おとぎばなしの外観
ひと口食べると、まろやかなフィリングが口いっぱいに広がる。
まろやかだが、実は繊維質が多い。おからをフィリングとして包んだ「おからパン」だ。「おからフィリング」というより、「おからあん」といった感じだ。
神奈川県川崎市の「おとぎばなし」は、おからパンにすべてを託すベーカリーだ。「他には絶対にない個性あるパンを作りたい」とオーナーの南沢有孝さんが開発したもの。
経営者の視点から、ロスゼロを目指した結果でもある。

住所 神奈川県川崎市多摩区南生田4-11-5
電話 044-977-1941
営業時間 売り切れ次第
定休日 日曜、祭日



「他では絶対に買えない個性あふれる商品を作らなくては!」

人気のおからパン。まろやかなおからフィリングをたっぷりと包んだ製品。おとぎばなしの看板商品だ。


オーナーの南沢有孝さん
おからパンは、1日400個限定の商品。午前1時半に作り始め、午前8時前後には店頭に並ぶ。
予約も多く入り、午前11時には完売する。「他では絶対に買えない個性あふれる商品を作りたい」と考えた南沢さんが、必死の思いで完成させた商品だ。
南沢さんは、電機メーカーを退社して1984年に、現店舗とは違う場所にベーカリーを開業した。
冷凍生地を仕入れて焼くベークオフベーカリーとしてのスタートだった。
南沢さんは、冷凍生地を焼いて店に出すかたわら、粉からパンを作るスクラッチ製法を独学で身につけた。「私のパン作りはすべて独学です」という。オープンから4年後に現在の場所に2号店を開いた。2号店では、冷凍生地は使用せず、粉からパンを作った。
「おからパン」のアイデアが浮かんだのは、1号店をオープンして2年目だった。
きっかけは、1号店の隣が豆腐店だったこと。毎日大量のおからが捨てられていた。「これだ」と思った。
生地に混ぜ込んでみたが、おからの匂いが嫌味に思えた。フィリングにしようと考え、試作を繰り返した。カレー味、味噌味なども試したが、結局しょうゆ味におさまった。おからのほかは、細かく刻んだねぎなどを入れるだけのシンプルなフィリングだ。おからフィリングを包むパン生地は、調理パン用のものに近いそうだ。おからフィリングをたっぷりと包んだ「おからパン」が完成した。
「レシピですか? もちろん極秘です」と南沢さんは笑った。



ロスをなくして効率化。看板商品で固定客をつかむ

「おやき」はフィリングが3種類ある。左からきんぴら、たかな、ナスのみそあえ。


「おやき」は円盤状の製品だ。


おからを黒糖で味付けした「黒糖おからパン」。「これまで経験したことのないおいしさ」と好評を得ているという。
おからパンにこれほどまでにこだわったのは、パンが売れ残ることによるロスをなくしたいという思いがあったからでもある。「私は職人というより、経営者だと思っています」という南沢さんは、不況の時代に生き残るには、利益率の向上と効率化を図ることが絶対条件だ、と考えたのだ。
南沢さんの考えはこうだ。まず絶対的な看板商品を作る。看板商品は、実際の需要より少なめに作り、常に需要より供給が少ない状態を保つ。そして、看板商品を買いに来たついでに、他の商品も買ってもらう。
おからパン以外にも看板商品を作った。長野県特産の「おやき」にヒントを得た「おやき」(130円)と、沖縄産の黒糖で味付けしたおからを包んだ「黒糖おからパン」(130円)だ。おやきは、軽く焼成してから、天板に油を引いて再び焼く。フィリングは、「ナスのみそあえ」「たかな」「きんぴら」の3種類がある。
これらの看板商品で、顧客の心をがっちりとつかもうという姿勢が徹底しているのだ。
本誌記者が同ベーカリーを訪問したのは、11月2日の正午過ぎだったが、看板商品はすべて売り切れていて、残っているのはとり置きのものだけ。「ついで買い」の商品も多くは残っていなかった。同ベーカリーは閉店時間が決まっておらず、パンが完売した時点で、閉店となる。
「せっかく買いに来て売切れだったり、閉まっていたりしたら、不満に思うのでは」との質問に、南沢さんは「予約していただいて、閉店後は、隣の洋品店で受け取れるようにしています」。
さらに「電機メーカーに勤めていた時の経験なのですが、常に品薄感を演出していた方が、商品の寿命は長くなると思うんです」。



ついで買いの商品も売れ残らない

「看板商品は完売しても、それ以外の商品は、売れ残ることがあるのでは」との質問には、「日々の天候や温度、湿度などと、売上のデータを過去5年にわたって記録してあります。これらのデータから1日ごとに売れる量を割り出して、午後7時前後に完売するように、作る量を調整しています。誤差は1時間程度におおむねおさまっています」。
同ベーカリーでは現在、パンの販売ロスは限りなくゼロに近い。
製造が集中的に効率よくできるために、光熱費を節約できるというメリットもある。例えば電気代は、月2万円程度削減できたという。

週1回新商品を投入し、ついで買いの商品は、常に動いている印象を!

午後1時前後のおとぎばなしの店内。この時点でおからパンなどの看板商品はすべて売り切れ。店には取り置きの分が残っているだけだ。「ついで買いの商品」もかなり減っている。
南沢さんは「おからパンや黒糖おからパンなどの看板商品以外は、すべてついで買いの商品です」と言い切る。さらに「ついで買いの商品だからこそ、お客様を飽きさせないように、1週間に1品は新製品を出すようにしています」。
新製品といっても、フィリングを変えたり、形を変えたりと、「ちょっとした変化をつけただけ」のものもある。
南沢さんは「極端にいえば、フィリングの量を変えるだけでも、『目新しい』という印象を与えることができます」という。
もちろん、生地の配合から考えて、新製品を開発することも多い。
いずれにしても、常に売り場が動いているように演出することが大切なのだという。

ロスがなくなって利益率が向上。その分は、特売で顧客に還元

特売のサンドイッチ
ロスがなくなったことで減った材料原価の半分は、毎週1回金曜日に実施する「特売」に当てている。20品目を選び、1割引で販売するのだ。おからパンなどの看板商品については、特売はしない。
南沢さんは「安売りは日にちをきちっと決めて実施することが大切なんです」と話す。「よく閉店時間近くなって、値引きしているのを見かけますが、私は、好ましくないと考えています。売れ残ったパンを翌日袋に入れて安売りするのはさらによくないと思います」
不定期に安売りをすると、売り手の都合を優先させているという印象を与えてまうのだそうだ。

原価計算女王
原価計算女王
インターネット通販も手掛ける。「テレビでみた」は、リピート率低い

おとぎばなしのホームページ
「おとぎばなし」では、インターネットを利用した通信販売も行っている。
販売するのはおからパン1品目で、基本的に1日100個限定。
「夏場の売上減を補えたら」と昨年10月に始めた。
ただ、おからパンは、製造できる量が限られているために、必ずしも充分に供給できていないのが現状だ。
11月からは、インターネットでの注文受付は、とりあえずストップしているという。
南沢さんは「テレビや雑誌でおからパンが紹介されたりすると、もうパニックです。テレビや雑誌をみてインターネットで注文してくる人の場合、リピーターになる確立はあまり高くないので、最近はマスコミの取材は一切受けていません。ホームページの維持費や発送の手間などを考えると、現在のところ、インターネット通販にはあまり魅力を感じない、というのが本音です」。
店舗販売にしても、通信販売にしても、定期的に注文をしてくれる安定顧客を大切にしていきたい、と南沢さんは考えている。

「作れば売れる時代の感覚から抜け出したかった」

「7人の小人」のイメージでアレンジしたディスプレイが店内の雰囲気を盛り上げる


「ついで買いの商品」もおいしそうだ。カスタードクリームをたっぷり絞った「クリームホーン」(130円)


「ついで買いの商品」もおいしそうだ。特注のあんを包んだ「昔ながらのあんぱん」(90円)
おとぎばなしは、1988年、ベークオフベーカリーだった1号店を閉店、スクラッチ製法の現店舗に経営資源を集中させ、再スタートを切った。
「一時期の作れば売れる時代から、状況は激変しています。とにかく効率化しようというのが絶対命題でした」と南沢さんは振り返る。
現在は、南沢さんと、パートの女性1人で60品目のパンを作る。販売スタッフは、5人。
売り場面積約6坪、製造スペースと倉庫をあわせて、約12坪。
製造機械は、縦型ミキサー、モルダー、ドウコンディショナー、フライヤー、冷凍庫、冷蔵庫が各1台など。店舗販売の平均日商はおよそ15万円。インターネット通販の平均月商は10月までは、およそ30万円だった。


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