欧米のベーキングビジネス最新展望 - 海外情報(13) / - ブランスリー電子版


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海外情報/2002年2月号

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欧米のベーキングビジネス最新展望 - 海外情報(13)


高橋秀尚 株式会社パンワールド代表取締役、海外情報研究会主宰

ベークド グッズ
この号は2月号であるが、今年初めての寄稿なので欧米における業界事情を総括してお伝えしよう。
まず最初に従来からある「製パン業」なる語句が時代にそぐわない古いものであるという認識を持っていただければと思う。実際にアメリカのベーカリー業界人と話しをする時に彼らは今までの「ブレッド アンド ロール」から「ベークド グッズ」へ、つまり「今まであったパンとロール」を越えて、新感覚の「小麦粉を使ってオーブンで焼いた商品」へどれほど進化しているか、を問題にしている。もし今もってブレッド アンド ロールにこだわっているベーカリーがあるとしたならば、その頭文字をとって「お宅の店は今でもBアンドRなの?」といわれてしまう事が多い。
またドイツでは小麦粉を使って焼いた商品を「バックヴァーレン」といい、これも同じ意味である。早い話がベーカリーでピザを売っても不思議ではない時代になったという意識改革が望まれるのであろう。

イーチーズの別の顔
筆者は年間5回ほどアメリカに渡って食品製造・販売業界の人々と話をする機会があるが、最近いささかショックを受けた会話例をお話しする。
この業界は食品を扱うので当然ながら「フード マーケット」というのが常識であると思っていた。ところが、彼らの多くはこの市場を「ストマック マーケット」と呼ぶことが多い。ストマックとは胃袋のことであり、「胃袋市場」というわけだ。これは何と実感がこもった表現であるのだろうかと、しばし感慨にふけったことであった。
このたぐいの話は他にも数多くあるが、中には公表をはばかるものもあり、全部をお話しできないのが残念である。
しかしながら、グルメの殿堂として有名な「イーチーズ」ダラス(テキサス州)本店を訪れた際に案内をしてくれた地元の食品業界人が、「私たちはこの店での買い物はレッドライト タイムにするよ」と筆者に声をひそめて話しかけたことがあった。
「えー、それ何なの?」とたずねたところ、彼はイーチーズ店舗の外側に付いている小さなライトを指して、「あのライトは閉店の一時間前になると点灯するの。それは安売りが始まったことのサイン」と教えてくれた。
イーチーズという高級な店のイメージからは、想像し得ない現実を知った驚きは大きかった。
今まで日本からかなりの人がこの店を訪問してレポートを書いているし、また本も出ているが、そんな話は紹介されていないと思った。同時に現実は大変なのだなと同情もしたことを記憶している。

コソボからの難民
また、アメリカ西海岸で店舗展開するグルメ志向の高級スーパーマーケットを見学したときのことであるが、店内で売られているサラダ類が売れ残った場合の廃棄率が平均より低いことに興味をひかれた。
担当者に聞いてみると、売れ残ったサラダ類の多くは、惣菜類に再利用するとの返事だった。
そして同社は安全性などのノウハウを確立しているので問題はないとの返事であった。その通りであろうが、高級イメージを持っていただけに、いささか驚いたことを憶えている。
またごく最近(昨年の12月)にドイツを旅したときの体験談をお話しする。
あるベーカリーを見学した際に製造要員勤務時間を社長に尋ねたところ、「通常は1日8時間で週5日勤務の合計40時間」。そこで社長は一息ついて一人の若者を指差しながら「彼はコソボからドイツにやってきた難民。家が戦火で壊れたので1日12時間、週に7日働いている。そして稼いだお金を国に送金している」と話してくれた。
筆者は思わず「気の毒なこと」といったらその場で否定し、「彼は仕事が見つかって運がいいと思っている」とは、まさに真実であろう。
国を離れて言葉も習慣も違う異国で働く青年は何を思うのであろうかと、しばし夢中で働く彼の背中を見つめたのである。



消費者の生活に焦点を合わせる

写真(1) アメリカでも売上を伸ばしているCVSは、やはりベーカリー売り場を配置している。写真はカーレースで有名な中部の都市インディアナポリス周辺に店舗を展開する「ヴィレッジ パントリー」のベーカリー売り場を示す。デニッシュなどを店内で焼成していて人気がある。


写真(2) あらゆる人種が住んでいるニューヨークでベーカリーを成功させるには商品力と立地特性の把握が要求される。写真は有名なデリ店舗「セーバーズ」のベーカリー部門を示す。特別契約したベーカリー数社より仕入れた商品を所狭しと並べ、活気にあふれている。


写真(3) ヨーロッパでも新業態としてベーカリー・レストランは注目されている。焼きたてパンを売りながら、一方で簡単な食事メニューを提供する店内飲食スペースを設けている。写真は中部ドイツにおける店舗で、500円ほどの予算で気軽に食べられる。
今年も可能な限り世界を旅して多くのことを学び、人と知り合うことを楽しみにしている。そして今までにないスタイルのレポートをお伝えするようにしたい。そこで今回は欧米におけるベーカリー・ビジネス最近事情をまとめてみた。

業態のクロスオーバーがさらに進む
今まで何度となくお話しているが、「ベーカリー商品がどのようなタイプの店で売られるか?」を考えるのが急務である。いまアメリカで最重要視されているマーケティングのキーワードのひとつが「コンシューマー・フォーカス」、つまり「顧客層に焦点を合わせて業態・商品開発を考える」という意味である。その基礎となるのは人々の生活そのものであろう。もちろん経済基盤(消費者の懐具合)も重要であるが、昨年9月のアメリカでの同時多発テロ事件以後、多くの消費者が外食から内食傾向に変化したことでもわかるように、心理的要素(マインド・ベース)も大きく関係している。そしてベーカリー商品を含む食品販売業態は今までの概念は通用しないほどに変化しつつある。「毎朝食べるパンを消費者はどこで買うのだろうか? いや朝に食べるのは今までと同じパンやロールなのだろうか?」というような疑問を持たなければ製造・販売者と消費者の意識のズレはさらに広がるばかりである。写真(1)でおわかりのように欧米のCVS業界はベーカリー商品開発に懸命だ。またあるCVSチェーンは地元のベーカリーと契約を結び、焼きたてパン類を店頭販売している。その中にはアルチザン ブレッドも含まれているというから驚きである。日本でもローカルのCVSチェーンではこの戦略も可能ではなかろうか。



ウォルマートとコーナーショップ。巨大化と専門化

世界最大の流通業アメリカのWAL-MART(ウォルマート)社が生鮮食品核売り場として力を入れているベーカリー・デリ。「よい品を安く!」という明確なコンセプトは顧客の圧倒的な支持を受けている。


>自然食品の台頭はヨーロッパでも確実に起っている。ドイツではBio(ビオ)と呼ばれるオーガニック食品の専門店が目立つようになった。写真はパン類を含む幅広い商品群を揃えた店舗を示す。


単品種を売る専門店を「モノ・ショップ」と呼ぶが、写真はドイツで見かけたブレッツェルのみを品揃えした店である。ちなみに本場ドイツではプレッツェルとはいわない。このような小スペース利用の専門店は坪効率を上げる意味で注目されている。
スーパーセンターはやはり脅威
日本では実感が湧いてこないが、アメリカのスーパーマーケット業界は「何でも安く買うことができるスーパーセンター」つまり代表格のウォルマート出店に大きな脅威を感じている。実際にどれほど多くの店舗が閉鎖され、企業が倒産したことだろうか。筆者の知り合いはコロラド州デンバー近郊ロッキー山脈国立公園に近い保養地を商圏として、6店舗の高級スーパーマーケットを経営していたが、近くにウォルマートが出店したために昨年末に倒産。すばらしい店を作って全米で話題となっただけに残念でならない。
リテールベーカリーがこの嵐から逃れる秘策は、ひたすら独自商品の開発とパーソナル・サービスの提供であろう。
また同社は近い将来に日本上陸も必至と思われるが、日本の製パン、食品流通業界は同社の企業研究を十分にしておくべきであろう。特にインストアベーカリーを生鮮食品の核として成功させている事実を忘れてはならないと思う。写真(4)でその店舗例を示す。

コーナーを活用する
前述のスーパーセンターが巨大店舗で消費者を集めるとするならば、まったく逆の発想として「コーナー ショップ」が注目されている。
日本でも鉄道駅構内や地下通路の小スペースを利用した店舗が繁盛しているが、キオスクが発達したドイツでは2坪ほどの店舗スペースを活用した「モノ・ショップ」が注目されている。
写真(6)は人の流れが多い路面に出店した「ブレッツェル」専門店で、5種類ほどのブレッツェルのみを売っていた。モノとは単品種を意味する。同類にシュトルーデル、ベーグル、シナモン店などがある。

PプラスQ=V
今月の結論である。Pはプライス(価格)、Qはクォリティ(品質)、そしてVは最終目標のヴァリュー(商品価値)である。VはPおよびQにより作られる。
数値で表すならばVを10とした場合に、安売り商品は当然P値が上がりQ値が下がる。
そこで自社の企業戦略をどこに設定するかを考えることが重要であるが、PおよびVそれぞれに異なる意味があるのであって、最終目標はV値の設定である。
V値の設定は前述の各種業態、商品開発などに直結する重要課題であることを今月号の結論とする。



原価計算女王
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