
パン工房クーロンヌ新守谷店の店内

スタッフは、子供にも臨機応変に対応する。

顧客は自由にコーヒーを入れて飲むことができる。

コーヒーサーバー後方の壁面には、「クーロンヌからのお知らせ」と題して、パン教室の様子を紹介する写真や、「返金制度」「お叱りハガキのお願い」などの告知が掲げられている。
「お客様を喜ばせようという気持ちがあって、初めて販促が成り立ちます」
茨城県などにリテールベーカリー3店舗を展開するパン工房クーロンヌの田島耕太社長はこう話す。
「なぜ食パンを1日何回にも分けて焼成するのか、なぜ10時ではなく、6時半にオープンするのか、などについて自分の中にしっかりとした理由がなければ、『販促』といくら言ってみたところで『本当の販促』にはなりません」
3店舗のうち、新守谷店(茨城県北相馬郡)は特に繁盛店で、土日の売上は60万円を越えるという。
パン1個を顧客の家に届ける焼き上がったパンを、販売スタッフが製造スペースから売り場に運んでくるときには、「焼き上がりました」と店内の客に声をかける。
「混雑時に天板を高く持ち上げて運んだのでは、お客様にパンが見えません。どうしても低い位置に天板をキープできないときは、一度お客様に『焼き上がりました』と声をかけてパンを見せてから運ぶというような工夫が必要です。そういうことが自然にできるかどうかは、各スタッフが『お客様を喜ばせたい』と本気で思っているかどうかで決まるんです」と田島社長はいう。
同ベーカリーでは、1日何回にも分けて焼成するパンが多いので、来店時に顧客がほしいパンが、一時的に品切れになることもある。顧客が、焼き上がるまで待てない場合は、焼き上がってから、スタッフが車で顧客の家まで届けることもある。
田島社長は、このことを後から知った。
「パン1個のためにそんな手間をかけることについて「NO」という経営者もいるのでしょうが、私は店長の判断を誉めてやりました」と嬉しそうに話す。
味が好みに合わなければ、返金するコーヒーサーバーを置いて、顧客にコーヒーを無料で提供しているのも、「顧客を喜ばせたい」との思いからだ。
「パンの焼き上がりを待っている間、奥様がパンを選ぶのを旦那さんが待っている間、コーヒーがあれば退屈しないだろうと考えました」と田島社長。
コーヒーサーバー後方の壁には、「クーロンヌからのお知らせ」と題した掲示板がある。同ベーカリーが年に数回催すパン教室の様子を紹介する写真や、「返金制度」「お叱りハガキのお願い」などの告知が掲げられている。
「返金制度」は、顧客が同ベーカリーのパンを購入して、満足できなかった場合、理由を問わず、返金または別の商品と交換する、というものだ。
田島社長は、「試食は積極的に提供しているのですが、新しい商品を試食せずに購入したお客様で、『味が好みに合わなかった』という人についても、返金もしくはほかの商品と交換するようにしています」と話す。
「お叱りハガキ」は、3カ月に1回、実施している。期間は1週間。
その間来店したすべての顧客に、「お叱りのことば」を書いてもらうためのはがきを渡す。
田島社長によると、渡したはがきの10%程度が戻ってくるという。ほとんどが、「お褒めの言葉」だそうだ。しかし、要望や苦情もある。
要望や苦情は、多い少ないに関らず、できることはすぐに改善する。
「駐車場の入り口が狭くて、車の出入りがしづらいという指摘がありました。それまで借りていた駐車場の隣の土地が空いたので購入し、入り口が広い駐車場を作りました」。
個々対応の重要性田島社長は個々対応の重要性を強調する。
「お客様1人ひとりについて、求めているのはスピードなのか、質なのか、などを見極めなくてはなりません。子供さんと年配者では当然接客の仕方も違ってくるわけです。同じ年代の人でも、例えば、『カレーパンはいつ焼き上がるのですか』と聞ける人もいれば、黙って違うパンを買う人もいます」
パン工房クーロンヌが目指しているのは「個々のお客様にとって、いき過ぎず行き届いたサービス」なのだ。