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| 特集／2025年3月号 |
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| パン屋に聞く。今の課題は？
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| 減産増益で労働環境は改善 - ツオップ 専務取締役の上田怜さん | |||||||||||||
上田 １つ目は就業時間の短縮、２つ目は将来的な人手不足を防ぐための人材育成の問題ですね。 ──解決策としてはどのような事をお考えですか？ 上田 就業時間の短縮に関しては、商品のアイテム数は保ったまま、商品ごとの製造数を減らし、さらに商品の価値を上げて単価を上げ、売り上げは落とさないようにする取り組みをここ数年続けています。可能であれば「減産増益」を目指したいですね。これにより従業員の負担を減らしながら、店のクオリティーを保つことができます。 人材育成については、マニュアルやレシピの充実も必要ですが、各スタッフにあわせた教え方に変えていく必要性も感じています。終業後に私が個人的に指導するなどして、コミュニケ―ションを密に取っていくしかないとも感じています。 人材育成に努力し、スタッフが育ってくれば、作業スピードや効率が上がってきますから、就業時間の短縮にも繋がってきます。 一方で、就業時間が短縮されて作業時間と製造個数が減ると、スタッフの成長スピードがなかなか上がらないというジレンマもあります。 ──現在の従業員数やスタッフの定着率について教えてください。 上田 スタッフは全体で50人位です。そのうち新卒で入社した社員が20人以上、中途が10人位、パートさんも15人位います。約50人のうち10年以上いるのが私も含めて５人位。専門学校などから新卒で入社したスタッフは半分位が３年以上勤めてくれます。パートさんはさらに長く勤めてくれる人が多いですね。長く勤めてくれる人は、スキルアップが期待できますから、賃金をアップするなどして大切にしていきたいですね。 ──今後、事業を続けていく上でどういった事が大切になるでしょうか？ 上田 今まで培ってきた店の雰囲気や商品の特色を大きく変えるつもりはありません。今後はクオリティーをいかに維持していけるかが鍵になると思います。しかし、現状を維持しつつも、スタッフの労働環境は改善していきたいと考えています。変わらないことの良さがある一方で、現在のスタッフの持ち味を生かし、時代にあった店作りを模索していくことも極めて大切だと考えています。 ツオップ 伊原靖友シェフが、２０００年に開業。多くの人を惹きつける高い商品力と、売り場８坪の店舗で１日に約３００種類以上のパンを焼く驚異的な生産力で、「パン好きの聖地」として業界内外から注目を集め続けてきた。人気、実力ともに不動の地位を誇る。創業者の伊原シェフは現在、次世代の育成や業界の発展のための活動に注力している。 SHOP DATA 店名：バックシュトゥーベ（パン焼き小屋）ツオップ 住所：〒270-0021千葉県松戸市小金原2-14-3 電話：０４７‐３４３‐３００３ 営業時間：午前７時〜午後５時 定休日：年中無休 品揃え：約300品目 スタッフ：製造常時９人、販売常時５人 店舗面積：売り場８坪、厨房１５坪、作業場３坪、倉庫３坪 日商：平日約75万円、土日祝約115万円 | |||||||||||||
| 人手不足でチャンスロスが深刻 - トツゼン ベーカーズ キッチン 内山芳雄シェフ | |||||||||||||
内山 売り上げは創業以来18年ほぼずっと伸びているのですが、最近はもっぱら人手不足に悩んでいますね。お客様の期待に応えられるだけの製品を出す事ができないことも多く、チャンスロスになってしまう事が増えてきました。求人を出して多めに採用するようにしていますが、何年も勤めてくれる人は少ないですね。 創業時からいる勤続18年の私と、勤続17年のスタッフがもう一人いるので、あともう一人、定着して長く勤めてくれる人がいればと思うのですが、実際は人の入れ替わりがずっと激しいですね。 ──辞める理由はどのようなものが多いでしょうか？ 内山 開業して数年の間はキャリアアップを理由に辞める人が多かったのですが、最近は、給与など待遇面を理由に辞める方が多くなりました。当店の給与は業界水準からみれば悪くないと思うのですが、他業種と比べると低いと感じてしまうのかもしれません。労働時間は残業を月35時間以内に抑え、週休２日にもしているのですが、労働時間の問題ではなく、朝が早いとか土日の勤務に馴染まないことなどを理由に離れる人が増えてきました。 パンの仕事に対するイメージと現実とのギャップを埋める事ができない人が増えてきているのではないか感じます。 人手不足が深刻化すると店の規模も縮小せざるをえなくなってしまいます。経験者が応募してくる事は少ないので、ある程度幅広く未経験者でも採用しています。給与も物価高に合わせてある程度高く設定しているのですが、あまり効果がないようです。 ──新卒で専門学校から入られる方もいますよね。 内山 私が外部講師を務めている横浜市内の学校から社外研修で入る生徒がそのまま入社してくれる事もあります。彼ら彼女らはモチベーションは高いと思います。将来独立して店を持ちたいなどの具体的な目標があればさらに違うかもしれません。オーナーである岸本拓也が運営する開業支援会社「ブレッドサンド」と連携して、そうしたスタッフの夢をバックアップできる仕組みができれば違うかも知れません。 ──その他何か課題はありますか？ 内山 以前のように店のコンセプトを大きく変えることはもうないので、現状を維持しながら、それに即した新しい価値をいかに追加していくかを模索しています。 トツゼン ベーカーズ キッチン ベーカリープロデューサーの岸本拓也氏がオーナーとしてプロデュースし、２００６年にオープン。当初は高級アパレルショップをイメージしたフォーマルな内装と接客、商品展開が話題をよんだ。その後、数年おきに実験的に店舗コンセプトを変え、現在ではカジュアルな雰囲気と商品展開を基本としながら、ホテルベーカリーのような上質さも一部残したベーカリーとして、地域住民の支持を得ている。 SHOP DATA 店名：トツゼン ベーカーズ キッチン 住所：〒222-0037 神奈川県横浜市港北区大倉山２-２-11 電話：０４５‐５４８‐０５６８ 営業時間：午前8時30分〜午後6時30分 定休日：月曜、週1回の不定休 品揃え：40〜50品目 スタッフ：製造常時３〜５人、販売常時２〜３人 売り場面積：売り場８坪、厨房16坪、倉庫・事務所６坪 | |||||||||||||
| 定番商品の値上げははっきり伝える - パン屋 晴れの日 河本貴年店主 | |||||||||||||
河本 まずは、最近の原材料価格の高騰にどう対応するかですね。なるべく立て続けの値上げはしないようにしています。デイリーユースの食パンの価格は据え置き、ナッツなど上昇幅が大きい素材を含むものは値上げするなど、値上げにメリハリを付けてきました。それでも一気に多くの原材料価格が高騰した昨年４月にはやむを得ず一律の値上げをしました。その時はインスタでも周知し、お客様にご理解頂くようにしました。 新商品に関しては原価を反映した価格で出せるのですが、今は６、７割が定番のものでそれぞれリピーターのお客様がいるので、安易なリニューアルはできず、値上げは正直に伝えるしかないと考えています。 ──もう一つ課題をあげるとしたら何がありますか？ 河本 二つ目は人手不足の問題ですね。当店は、山に近い人口の少ない地域にある小規模店ですが、できればフルタイムの社員を一人採用したいと思っています。効率化も必要ですが、お客様の期待に応えるためにも今の商品ラインナップを減らしたくはありません。ブラストチラーで冷凍して朝の仕込みの負担を減らすなど機械化もしていますが、将来的に体力的な問題が生じる事を考えると、やはり人手を増やしたいですね。 私が修業した熊本県南阿蘇のベーカリー「めるころ」も山の麓の村で田舎でしたが、従業員を雇用し、オーナーは現場以外で技術を吸収する機会を持つ大切さについて話していました。そのため私も人手を増やし自分が身軽になる事により、外で技術や知識の吸収をする機会を得たいという気持ちがあります。 ──今後についてはどうお考えでしょうか？ 河本 高齢化が進み人口が少ない場所ですが、私はこの地域で生まれ育ったので、この場所で地域の方達に必要とされる店を継続していきたいと思っています。 オープンした当初は高加水のハード系やドイツパンに対する思いが強く、今でもハード系の「いちじくパン」が当店の看板商品です。 しかし、最近は見た目が美しいクロワッサンや、パン・スイスなどの折り込み生地の商品にも力を入れているので、こちらの方も、合わせてその魅力を伝えていきたいですね。 パン屋 晴れの日 愛媛県松山市に隣接した伊予郡砥部町に２０１８年オープンしたベーカリー。店主の河本貴年さんは熊本県南阿蘇の「めるころ」で修業。修業中に製法を吸収したハード系やドイツパンのほか、ソフト系や折り込み生地の商品など約70〜80品目を展開し、地域住民の厚い支持を得ている。看板商品はハード系で自家製酵母使用低温長時間発酵の「いちじくパン」。 SHOP DATA 店名：パン屋 晴れの日 住所：〒791-2132 愛媛県伊予郡砥部町大南455-1F 電話：０８９‐９５０‐４３８２ 営業時間：午前10時〜午後６時（売切れ次第終了） 定休日：日曜、毎月2日程度の不定休 品揃え：70〜80品目 スタッフ：製造常時１〜２人、販売常時１〜２人 店舗面積：売り場９坪、厨房11坪 日商：平日約７万円、週末約16万円 | |||||||||||||
| 食事パン中心のスタイルを継続 - ＢＲＥＡＤ ＩＴ ＢＥ 森田良太さん(フォンスのベーカリー統括責任者) | |||||||||||||
森田 まずは今の状態を「継続」していくことが一つの課題ですね。「改善」する事と同じくらい「継続」する事も大変だと思います。食事パンが中心の商品展開を行うという今のスタイルは当店の重要な核ですから維持していきたいですし、その中で売り上げを伸ばしていきたいと考えています。 しかし、従業員へ過剰な負担になるような事は当初からしないと決めていますので、そこの頃合いを見ながら店舗運営を進めていく必要があると思っています。 ──そのためにどうのような対策を講じていますか？ 森田 長く勤務して定着してもらい人材を育成するためにも、労働環境は重要です。限られた時間で品質の高いものを作る事を学んでもらうために、従業員の労働時間は８時間を超えないように努めています。当社（フォンス）が運営する他の店と比べると、小規模な店なので指導しやすく、人も育ちやすいかなと感じています。 ただその一方で商品の訴求力を高め、売り上げも伸ばしていかなくてはならないですよね。 ──売上を伸ばすための施策は？ 森田 知名度を上げていくために、通販を強化していくのも一つの手だと思います。全国の色々な方に食べて頂けますし、雨の日や暑い夏など、人が出歩かない時の売り上げも伸ばしていけます。ただ手間がかかるような事は逆に利益を圧迫しかねないので、現在は当店ＨＰでの販売のみで、大きな通販のプラットフォームなどには参加していません。 全体の５％位が通販の売り上げで、まだ伸びしろはあると思うので、今後はＳＮＳなどでもうまくＰＲしていければと思います。 ──通販ではどのような商品が人気ですか？ 森田 「ＢＩＢバゲット」や「秦野産小麦自家製粉コンプレ」「サングリアロッソ（またはビアンコ）」「季節のリュスティック」などの定番商品を入れた「お試しセット」（税込２１５０円）が人気ですが、単品や通販限定の季節商品なども注文が増えています。 ＢＲＥＡＤ ＩＴ ＢＥ 「ＴＨＥ ＣＩＴＹＢＡＫＥＲＹ（ザシティベーカリー）」の展開で知られる飲食業の運営会社フォンスでベーカリーの統括責任者を務める森田良太氏が、自身のパン職人としての理想を結集し、店舗コンセプトからメニュー開発、内外装のデザインまで手がけて２０２０年にＪＲ鎌倉駅近くにオープン。約30種類の小麦粉を使い、店内で使う小麦の半分近くをドイツ製の石臼製粉機で自家製粉。 SHOP DATA 店名：ＢＲＥＡＤ ＩＴ ＢＥ 住所：〒248-0006 神奈川県鎌倉市小町2-6-35 電話番号：０４６７‐３３‐４６８０ 営業時間：午前８時〜午後５時（売り切れ次第閉店） 定休日：水曜、第２木曜 品揃え：約25品目 スタッフ：製造常時３人、販売常時２人 店舗面積：売り場約３坪、厨房約20坪、イートイン５坪（10席） 日商：約20万円 | |||||||||||||
| 販売力を強化し２年目のジンクスを打破 - エトヌンク代官山 湯本里佳店長 | ||||||||||||||||
湯本 日本語で「そして今」という意味を込めたブランド名「Ｅｔ Ｎｕｎｃ」の通り、毎日食べたくなるおいしさをコンセプトにパンを販売してきましたが、今後はより一層店舗スタッフが一丸となり、販売スタッフも製造スタッフと同じ目線で、同じ気持ちになって、商品の事を話せるように、と思っています。どんな小麦を使ったどんな商品かといった基本的な説明だけではなく、お客様が求めているものに合わせて臨機応変に対応できる能力を養っていきたいですね。例えば、「何と合わせてお召し上がりいただくのがおすすめか」という提案もしていきたいですね。 製造側としては自分達が作ったパンをよりおいしくお召し上がりいただくためにも、直接お客様とお話しできる販売スタッフに商品の魅力を伝えてもらえたらと思っています。 ──一年目を振り返っていかがですか？ 湯本 ありがたいことに、開業１年目からご注目をいただき、多くのお客様にお越しいただくことができましたが、２年目にどのように継続していけるかで、真価が問われることになると思います。 インスタグラムなどＳＮＳ経由で興味を持って頂いたのか、今までお越しいただけていなかった20代前半くらいの若い男性が、年明け頃からお一人で来店する姿も見られるようになりました。 そうした人たちにもリピーターになって頂くためには、毎回定番商品以外に何かもう一つ買って頂けるような提案が、接客を通じて必要だと感じています。 店舗開業当初は、商品監修をしているパレスホテル東京のベーカリ―シェフが中心となって商品開発を進めていましたが、最近は今いる製造のスタッフも新商品のメニュー開発を行っています。 １カ月に２、３品ずつ新商品を考案しているのですが、新商品は売り場を活気づけます。お客様が次に来店された時に新しい商品を発見して喜んでいただきたいですし、リピートにもつながればと考えています。 エトヌンク代官山 東京・丸の内のラクジュアリーホテルを運営するパレスホテルが足掛け３年の構想で新たな外販事業の柱として昨年４月にオープン。「町のベーカリー」として日常に浸透した店を目指した。国産小麦を１００％使用したハード系の食事パンをシグニチャーブレッド(独自に開発した看板商品)にしたほか、監修を担う星敏幸シェフが開発した様々なパンを展開。イートインは約20席と広く、代官山近隣の住民の憩いの場としても機能している。 SHOP DATA 店名：エトヌンク 代官山 住所：〒150-0034 東京都渋谷区代官山町20番23号フォレストゲート代官山MAIN棟1階 電話：０３−５４２２−３６０４ 営業時間：午前９時30〜午後６時30分 定休日：なし（年数回、休業日あり） 品揃え：約40品目 スタッフ：製造常時４人、販売常時３〜４人 店舗面積：売場23.4坪（イートイン16席含む）、テラス席４席、厨房10.5坪 | ||||||||||||||||
ブランスリー電子版は、購読者の方々以外は、見出しと本文の一部しか見られませんが、この記事は特別に全文を公開しています。
