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| 特集／2023年12月号 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 若手オーナーシェフのパン屋経営哲学
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| カレーパンを中心に据えて地域の需要に応えていきたい - 沖縄県豊見城市「Good Morning Bakery」の大嶺昂秀（たかひで）さん | |||||||||||||
介護業界から飲食業界へ ──大嶺さんは、オーナーシェフとして店を出すまでどのような経験をされてこられたのでしょうか。まずはパン業界に入られた経緯についてお聞かせください。 大嶺 私は生まれも育ちも沖縄なのですが、実は高校を卒業してから２年間だけ内地（本土）にいた事があります。愛知県で季節労働のような事をして自動車修理工場などで働いたりしていたのですが、当時は目的がはっきりせず結局、沖縄に帰り、介護の専門学校へ入ることにしました。そして卒業後は介護の仕事に就いて３年間働きました。 ──飲食業界に興味を持たれたのは介護の仕事をしていた頃でしょうか。パン業界に入る前はタイ料理店で働いていたとお聞きしていますが。 大嶺 もともと飲み歩き、食べ歩きが好きでした。友人で飲食の仕事に就いている者が多く、皆キラキラと輝きながら働いていて、自分もやってみたくなったのです。介護の仕事も年配の方達との交流が楽しくて良かったのですが、飲食業も同様に人とのコミュニケーションが大切だという点で共通点があると思いました。 タイ料理店に興味を持ったのは、たまたま沖縄で一番人気のタイ料理店に行ったのがきっかけでした。日本人のオーナーシェフが経営する人気の店でした。 ──のちにカレーパングランプリで最高金賞を受賞した「グリーンカレーパン」のカレーはこのお店で覚えたタイのグリーンカレーの知識がベースになっているとお聞きしました。 大嶺 そうです。タイ料理店で働くようになって夢中で勉強するようになり、いつかは独立したいと考えるようになりました。タイ料理は独特の辛い料理が多いこともあって、一般の人達にとっては、若干間口が狭い印象がありました。子供からお年寄りまで広く食べてもらえる店を作りたいという強い思いがあり、やがてタイ料理の知識を生かしたパン屋さんを作りたいと思うようになったのです。 ──確かにパンであれば広く色々な方に食べてもらえますね。大嶺さんのパンに対する興味も強かったのでしょうか。 大嶺 そうです。だからタイ料理店で３年働いたあと、独立を見据えて修行する目的で、沖縄県内の人気ベーカリーである「いまいパン」に入社しました。 朝が早いパン屋。決意の開業 ──「いまいパン」はフランス留学の経験があるオーナー夫妻が経営する店だそうですね。 大嶺 そうです。ご主人がパン職人で奥方がパティシエールというお二人だったので、パンのほか焼き菓子なども含めてゼロから学ばせて頂きました。仕事は大変でしたが、先輩たちは親切でしたし、当時は目的がはっきりしていて、どんなことも吸収したいと思っていたので、大変な仕事も苦にはなりませんでした。 それまでの自分を振り返ってみると、何をやるにしても目的意識がなかったと思います。例えば子供の頃に野球をやっていたのですが、今思うとそこまで真剣に取り組んでいなかったような気がします。自分が変わったのは飲食業界に入ってからですね。はっきりした目標を持つようになるとやはり強くなるのだと思います。 「いまいパン」では、３年で独立したいと言って働かせてもらっていたのですが、ちょうど３年経った頃に豊見城市内に適当な賃貸の空き物件が見つかりました。名物スナックの跡地の路面物件で配管も使用できる状態でした。車２台分の駐車場も付いていて、家賃も手頃でした。資金は３分の１を自己資金で賄い、残りは公庫から借入れました。内装は友人が務める会社に頼みました。大変だったのは本土と陸続きでない沖縄で製パンの機械や設備を探す事でしたが、運良く、中古でオーブン、縦型ミキサー、シーターを見つけることができました。冷蔵庫、冷凍庫、ドウコン、生地冷蔵庫は新品を購入しました。 ──「グッドモーニングベーカリー」という店名は、店のオープンが朝６時半と、沖縄で一番朝が早いパン屋さんである事が理由だとお聞きしましたが、どういった思いから「朝が早い」ベーカリーにしたのでしょうか？ 大嶺 自分はパン屋での修業期間は３年間と長くなかったので、他の店と比べて何か負けないような事はないかと考え、当初は開店時間を早くする事ぐらいしか思いつかなかったんですね。 しかし早朝に焼きたてパンを販売することで、朝食でパンを食べてもらえるので、結果として朝食用のパンを買うベーカリーとしての価値を定着させる事ができたのではないかと感じています。 ──30歳という若い年齢での独立ですが、開業してから大変だったのは、どんなことでしょうか。 大嶺 自分の中ではまだ大きな困難と言えるようなものには遭遇していないように感じます。カレーパングランプリ受賞のおかげで売り上げは順調に伸びていますしね。ただ、スタッフとのコミュニケーションは、難しさを感じることもあります。気持ちよく働いてもらいたいと思うので、意識的に色々話すようにはしているのですが、うまく伝わらないこともあるかも知れません。 開業した当初はほぼ一人でまわしていたのですが、お客様もだいぶ増えてきたので、今年から人を増やしました。８時間労働を基本にしていて、早朝６時に来ても午後３時には帰ってもらうようにしています。スタッフは、経営者である自分とは立場が違うし、それぞれ働く目的も違うので、自分の一方的な思いで無理をさせるわけにはいきませんからね。 | |||||||||||||
──カレーパングランプリ受賞店のイメージが強くなってしまいましたが、貴店はハード系にも定評がありますよね。地産地消を実践する商品として、豊見城市内のトマトを使った新しいカレーパンも好評だと聞きます。 大嶺 おかげさまで地元の皆様に支えられる形で全体の売り上げも順調に伸びています。昨年２０２２年に「グリーンカレーパン」で最高金賞を受賞したカレーパングランプリですが、今年は、昨年に続けて「グリーンカレーパン」を出品し、さらに、好評を得ている新商品の「トマト焼きカレーパン」もエントリーしました。「トマト焼きカレーパン」は、豊見城産トマトの中で、形が不揃いで市場に出回らないものを使ったもので、食品ロスの問題にも向き合った商品です。辛くない味に仕上げて、子供にも食べやすくしました。結果は「グリーンカレーパン」は金賞を頂きました。「トマト焼きカレーパン」は入賞しませんでしたが、店での売れ行きは、「グリーンカレーパン」に次いで良い商品なので、これからさらに力を入れたいと思います。 ──大嶺さんは接客も好きとのことですが、お客様と話していて今まで嬉しかった事は何かありますか。 大嶺 「今まで食べたカレーパンの中で一番おいしかった」とおっしゃってくれた方がいたのは励みになりましたね。「グリーンカレーパン」の存在感が強いためか、カレーパン専門店だと間違われてしまうこともあるのですが、それほどまでに当店のカレーパンは認められているという話なので、それはそれで嬉しいことです。 ただ天然酵母の講習会を内地まで受けに行ったり、地元産のマンゴーやドラゴンフルーツなどの新しい素材を使った商品の開発をしたりと、カレーパン以外にも力を入れていることも、多くの人に伝えていきたいですね。 ──２号店の出店を考えることはありますか。 大嶺 揚げパン専門店やコロッケパンの専門店など、需要が多い商品に特化した店を出すのもいいのかなと考えています。ただ地元から離れた場所での出店は考えていません。まちのパン屋としてお客様の声を聞き、必要性があれば次の店も出していきたいですね。 SHOP DATA 店名：Good Morning Bakery 住所：〒901-0241 沖縄県豊見城市豊見城139瀬長マンション101 電話：０９８‐８５１‐４５２７ 営業時間：午前６時30分〜午後６時（土日は午後３時まで） 定休日：水曜 品揃え：約５０品目 店舗面積：厨房７．５坪、売り場４坪 スタッフ：製造常時２人、製造補助常時１人、販売常時２人 日商：平日12万円、土日祝20万円 | ||||||||||
| 関わる人がいる限り｢まちのパン屋さん｣を守っていきたい - 千葉県柏市「ベーカリーハレビノ」の上野公之（まさゆき）さん | ||||||||||||||||
３年目から厨房に も入るように ──上野さんは、現在はオーナーシェフでパンの製造も行うとのことですが、２０１４年６月に開業した当初は、製造は職人の方に全て任せていたとお聞きしました。 上野 そうですね。ベーカリーのプロデュース会社であるダイユーでの勤務経験を経て独立開業したのですが、オーナーになって３年目ぐらいから段々、経営者として自分が理想とする店作りを進めようとしても、職人の方とうまく意思疎通ができないなと感じるようになりました。 ──具体的にはどういう場面でそう感じるようになったのでしょうか。 上野 例えば「こういったコンセプトの商品をこういう素材で作って欲しい」と頼んでも、ピンときてもらえないという感じです。職人の方が、彼が把握している現場の状況やお客様のニーズなどと折り合わないと感じる場合もあったのかも知れません。自分も職人の方が置かれている状況や問題意識を完全にはわかっていないところがあったのかも知れません。 ──それでご自分も厨房に入るようになったんですね。 上野 はい。初めは職人である社員の見習いのようなことから始め、イチから教えてもらっていった感じでした。経営の仕事に加えて、朝早くの製造の仕事もするようになったので、生活はハードになりましたが、おかげで作り手の気持ちがわかるようになり、それまで感じていた職人の方との意識のずれがなくなっていきました。それまでは職人の方が言っている事で理解できないことも多かったのですが、同じ仕事をすることでお互い相談しやすくなり、意思の疎通が図れるようになりました。同じ立場で仕事をすることで、戦友のような団結心が生まれていったのかも知れませんね。 大きな決断を迫られたことも ──上野さんは、「千産千消」の合言葉で、地元千葉県産の素材を使用するなどして、一貫したコンセプトを貫きながら、これまで10年近く店を続けてこられました。経営状況は安定しているようですが、店を繁盛させるために苦労されたことはありましたか。 上野 そうですね。実はコロナ禍前に松戸駅のエキナカに出店したコッペパン専門店を閉店したのですが、経営者として大きな決断を迫られる出来事でした。 ──６年前、２０１７年11月に松戸市にオープンしたコッペパン専門店「日本列島パン食い協奏」ですね。 上野 はい。「日本列島を松戸で旅する」をコンセプトに、日本各地のＢ級グルメの味を挟んだ大きなコッペパンを提供する店で、店内頭上にはおもちゃの電車が走り、スタッフは車掌さんや新幹線の車内販売員をイメージしたユニフォームを着用するなどして、旅気分を演出した遊び心のある店で好評でした。ただ、コロナ禍による緊急事態宣言で、松戸駅のエキナカの店舗は営業できなくなり撤退せざるを得ませんでした。 工場機能を中心としていた稔台店も一旦閉店した上で、高級食パン専門店「ハピナツ」としてリニューアルオープンする事になりました。正直、急に全くコンセプトの違う店へとリニューアルしたのは働いていたスタッフの雇用を守るためです。当時はコロナ禍で世の中の情勢が急激に変化し、家庭の巣篭もり需要を満たす食パンを売る店が急激に伸びていました。 ──経営者として厳しい決断を迫られることとなり、本当に大変でしたね。 上野 はい。結果的にエキナカならではのコンセプトを楽しんでもらっていた「日本列島パン食い協奏」をご愛顧くださっていたお客様の期待には応えられなくなって、大変申し訳なかったのですが、苦渋の決断でした。 ──今は本店であるハレビノ柏店以外の姉妹店は、その食パン専門店「ハピナツ」と、昨年４月にオープンした「ハレビノ道の駅しょうなん店」、昨年12月にオープンした「ハレビノ柏高島屋ポップアップ店」の３店がありますよね。 上野 そうです。実は「日本列島パン食い協奏」を撤退した時に自分としては、もう店舗を増やすのはやめようと思っていました。ただ、柏市近隣からの産地直送野菜が集まる直売所がある道の駅「しょうなん」のレストラン棟が大きな改装をする事になり、その道の駅の社長を務める方の意向で、パン屋を一つ入れたいという話になったんです。その方がたまたま当店のお客様で店を気に入ってくれていて出店をすすめられました。 私も通常の条件であれば断っていたところだったのですが、もともとハレビノは地産地消で新鮮な地元の野菜を使ったパンを出す店というコンセプトを掲げていたため、誘いに乗る事にしたんです。 ──「道の駅しょうなん店」は遠方からも人が集まる土日を中心に客数を伸ばし順調なようですね。 上野 お陰様で色々な方にご愛顧いただき、新鮮な地元野菜を使ったサンドイッチや惣菜パンのほか、「幸せのバナナパン」などの本店での看板商品も伸びています。 また食パン専門店「ハピナツ」は当初の「生食パン」を主力とした体制から現在ではスチームオーブンを使用した「スチーム食パン」を中心に製造を行う体制へ変わりました。「柏高島屋ポップアップ店」はパンのほか、ジャムや飲料、雑貨などパン周辺のものも含めて販売し、パンのある生活を紹介するアンテナ店的な店としての役割も果たしています。外販やパンフェスタなどのイベントもコロナ禍が落ち着くと同時に、また力を入れるようになりました。 ただ今年に入ってからは、やはり原材料の高騰が厳しく、経営環境は厳しくなってきている状況です。 | ||||||||||||||||
──数々の苦労を乗り越えて、店を続けてくることができた理由は何だと思いますか。 上野 やはり現場に入るようになって、スタッフと同じ目線で働くようになったことが大きいですね。口で考えを言うだけでなく、皆と一緒にパンを作り、文字通り汗を流して働くことで、自分一人ではなく皆の力で乗り越えてこられたと思います。 ──上野さんが現場に入るようになって店の商品構成も微妙に変わってきたのでしょうか。 上野 そうですね。以前と比べて季節限定の新商品をタイミングよく出せる頻度が高くなってきています。店の売り上げで見ると圧倒的に比率が高いのは看板商品の「幸せのバナナパン」をはじめとする定番商品なのですが、季節商品も売り場に変化を与えることで、お客様の来店を促すという大切な役割を果たしています。ただ、季節商品は原価のかけ方や出すタイミングを考えないと、商品ロスや無駄なコストが生じたり、余分な労力をかける結果になりかねません。だから自分が現場に入るまでは職人の方に頼みにくい商品だったのですが、製造に携わることで商品を出すタイミングが見えるようになり、職人のスタッフと互いに号令をかけ合っています。 わかりやすく言うと、以前は、作ってもらう立場だったのが、一緒に作る立場になったことで、お互い大変でも乗り越えられるようになってきたという事です。 結果として商品ラインアップに私の思いをかなり反映させる事ができるようになりました。時期によって微妙に変わっていく売り場には、確かに活気があります。 ｢思い｣が店を変え 人生を変える ──オーナーシェフとして仕事をする上で一番大切にしている事は何でしょうか。 上野 「思い」ですね。人を新たに採用する時にも「思い」があるかどうかを見ます。「思い」には色々な種類があります。私は、10年間店を経営してきて、「皆の店を守る」という「思い」を強くしました。「皆」というのは一番はお客様と店のスタッフですが、そのほかにもこの店に関わるすべての人が含まれます。私はこの店を立ち上げる際に、実は物件探しなどが難航し、およそ２年の期間がかかってしまいました。物件がようやく見つかって店をオープンした時は「やっと自分の店が持てた」と嬉しくて仕方ありませんでした。でも当時はまだ「自分の店」でしかなかったんです。 けれど店を続けていく中で、この店に関わる人の数がどんどん増え、この店は自分一人の簡単な思いだけで作られているわけではないという事に気づくようになりました。だから今は簡単に店を閉じるような事はできません。 ──上野さんは千葉県最大規模のパンイベントである「柏の葉パンフェスタ」を立ち上げるなど、他店舗と連携した業界活性化のためのイベントにとても積極的ですよね。 上野 当店がイベントに力を入れている理由は「地域の人たちに個人店の魅力を知って足を運んでもらいたい」と思うからです。原材料高騰や後継者不足などの問題があり、安価なホールセールのパンが多く出回る中で、リテールベーカリーのパンは何とか差別化してその価値を伝えていかなければなりません。そのため各パン屋さんがそれぞれの町の人たちとマッチングしていくためにも、イベントは必要なんです。私は都内で行われている他のパンイベントの情報もよくチェックするのですが、そこに出店している他のパン屋さんにこちらから連絡して自分が運営するイベントへの参加をお誘いする事もあります。 ──次回の柏の葉パンフェスタは来年５月にあるそうですね。関わる人がどんどん増える中で、思いも強くなりそうですね。盛況を期待しています。 SHOP DATA 店名：ベーカリーハレビノ柏店 住所：〒２７７-００２３ 千葉県柏市中央２-１１-１３ 電話番号：０４-７１６６-７１６６ 営業時間：午前８時〜午後７時 定休日：無休 品揃え：パン約60品目、調味料、雑貨など約10品目 店舗面積：売場１５坪、厨房１５坪、カフェ１０坪 スタッフ：製造常時３人（土日祝は５人）、販売常時２人（土日祝は３人） | ||||||||||||||||
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