パンの取り寄せ・取り置きモールってどうですか? - ブランスリー電子版


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特集/2022年10月号

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パンの取り寄せ・取り置きモールってどうですか?




特産品使用のパンや人気のロデヴも全国へ商圏を拡大 - パン工房ふぃーる@カフェ
宮城県石巻市のベーカリーカフェ「パン工房ふぃーる@カフェ」。昨年8月の移転を機にカフェも始めた
店長の小野寺弘典さん(左)と母の夢津子さん
「パン工房ふぃーる@カフェ」の看板商品である「パン ド ロデヴ」。高加水のまま外側をカリッと焼き上げており、作るには高い技術力が必要だ
出店しているECモールで人気の「わかめ塩バターロール」
今後は特産珍味のホヤを凝縮させた調味料「うまい醤」を合わせたパンセットの販売にも力を入れていきたいという
冷凍設備増強で通販に注力

 宮城県石巻市のベーカリー「パン工房ふぃーる@カフェ」は、パン専門のECモールに今年2月から参加。三陸わかめを練り込んだロールパンや、特産品のホヤ調味料と合わせたパンセットなどを全国に向けて販売し、商圏を広げつつある。
 同店は、東日本大震災で被災した石巻市の復興につなげる目的で開設された市場「いしのまき元気いちば」に出店する形で2017年にオープン。石巻産の特産品を使った惣菜パンや、作るのに高度な技術が必要とされる「パン・ド・ロデブ」なども揃え、地域住民に愛されてきた。昨年8月には設備を増強しカフェも新設する形で、同じ石巻市内の違う場所に移転した。
 「移転の際は通販に力を入れることも視野に入れ冷凍設備なども充実させました」と店長の小野寺弘典さんは話す。

ネット通販の専門家に頼る

 小野寺さんは震災復興に向けた活動の一環で同店を創業した母の夢津子(むつこ)さんの想いを継ぐために、3年前に電気設備のエンジニアから思い切って転職。
 小野寺さんは、たまたまパンの冷凍にも使える急速冷凍装置などを作る仕事に携わっていたため、通販を始めるにあたっては、その知識を活用し自店のHP(ホームページ)を通じた冷凍パンの通信販売もしようと考えた。
 「自分で全部行うとなると、アドバイスしてくれる人もいないので、通販の商品として好意的に受け入れられそうなセット商品を考えたりすることが難しいと考え、また、当店のHPにたどりついてもらえるようなネット上の効果的な販促などは素人の知識では難しいと判断し、程なくして専門の業者の助けを借りる事にしました」(小野寺さん)
 そこでオープン当初からパンの技術指導などで支援を受けていた恩師の紹介で、あるパン専門の通販ECモールに出品。これにより同ECモールから、販促などのノウハウを得る機会が増え、集客力は向上したという。
 「2月から8月末までの約7カ月で累計130件以上の注文がありました。売り上げが上がったこと以外にも、全国に向けて情報発信をする事で店の名前を広く知ってもらえるようになったことで、店のHPをみてくれる人が増え、SNSのフォロワー数も増えました」(小野寺さん)
 注文者の情報を分析すると、地元の宮城県内からのものは少なく、むしろ関東や九州など遠方からの注文が目立ったという。

商品の紹介に工夫を凝らす

 冷凍パンの品質を維持するための包材に関しては、同じECモール内で他店のものを注文するなどして、小野寺さん自身も研究を重ねた。
 「焼きたての状態のまましっかり冷凍できるようシーラーで密封させるのですが、他店の包材は袋からどうやって空気を抜いているかといった事をチェックしました」 (小野寺さん)
 一方でECモール側からも、外側の小包の箱の印刷デザインをリニューアルしてもらったり、サイト上に掲載する店や商品の紹介ページの書き方や、商品と同梱する説明資料の作り方などについての助言を受けたりした。
 「相談し助言してもらえる相手がいるのは心強いですね」(小野寺さん)
 同ECモールでは石巻産三陸わかめを練り込んだ「わかめ塩バターロール」とルヴァン種を使用したハード系を合わせたセットなどを出品しているが、サイト上の商品説明の下に逐次更新される購入者からのレビューもかなり効果的で商品の注文に繋がっているという実感があるという。
 レビューでは「塩バターロールが石巻の三陸わかめと合う」といった声が多く寄せられている。また、石巻の牡蠣と合わせて同店のライ麦パンがおいしく食べられる事は商品の説明ページに記載している。
 小野寺さんは、同店の創業者である母の夢津子さんが力を入れていた事もあり、「海のパイナップル」とも言われる絶品珍味のホヤの普及活動にも力を入れている。石巻のホヤを凝縮した調味料「うまい醬」と、それに合うパンセットも販売しているが、こちらもさらに伸ばしていきたいという。



「パン工房ふぃーる@カフェ」の店内売り場の様子
地域に焦点を当てた情報発信

 現在登録中のECモールに対し、小野寺さんは一通り満足しており大きな不満はない。ただ要望として少し思う事がある。
 「当店が出店しているECモールは、良いサイトだと思うのですが、できれば地方のベーカリーのパンももっと紹介してほしいと思っています」(小野寺さん)
 同ECモールではインスタグラムを通じて登録ベーカリーのパンの紹介を行っているが、圧倒的に首都圏など都市部の店のものが多く、地方にスポットを当てた情報は少ないのだという。
 「ECモールを経由して紹介してもらえれば、自分達が直接発信する情報とはまた違った効果を及ぼす事ができるので期待したいところです」(小野寺さん)
 小野寺さんは「石巻といえばパン工房ふぃーるへ」と言って来店してもらえる店を目指してSNSを中心にさらに情報発信をしていけば、通販の利用客もさらに増えるのではないかと考えている。
 そのためにも、セット商品を充実させ、地域の特産品を使った商品のPRにさらに力をいれたいと考えている。
 近々、ふるさと納税のサイトにも登録する予定だが、楽天など大手のポータルサイトにもリンクが貼られるので効果的な情報発信ができるのではないかと考えている。
 「今後はリピーターを増やす事も大事ですし、案内の仕方も考え直したいとも思っています」(小野寺さん)
 通販を始めた事をきっかけにHPやSNS上のリンクを見直すようになった。あとはシュトーレンなど季節商品の企画にももっと力を入れれば注文数はさらに伸びるのではないかと考えている。
 ただ、製造の体制は現在、小野寺さん一人のほか、雑務を含めて補佐的に手伝ってくれるスタッフが一人いるのみ。そのほか常時2、3人いる販売のスタッフにSNSの更新や、通販商品の梱包などの諸作業は頼めても、注文増に繋がるネット上の販促対策を考える事などにはなかなか手が回らないのが実情だ。だからECモールの営業担当者が色々と助けてくれるのは本当に助かるという。
 「もともとは母を助けるため、それまでのキャリアを捨てて継いだ仕事でしたが、今ではパン屋になって本当に良かったと思っています。だから色々な人に当店のパンの事を知ってもらえるようにしたいですね」(小野寺さん)

SHOP DATA
店名:パン工房ふぃーる@カフェ
住所:〒986‐0827 宮城県石巻市千石町2-2
電話:0225‐24‐6885
営業時間:午前8時~午後6時(カフェは午後9時)
定休日:水曜
品揃え:約70品目
スタッフ:製造常時2人(うち一人は補佐)、販売常時2人(土日祝3人)
店舗面積:売り場8坪、厨房12坪、イートインカフェスペース15坪



ECモールを利用するメリットを打ち出していく - ブーランジェリー レコルト
神戸市の人気ベーカリー「ブーランジェリー レコルト」本店
オーナーシェフの松尾裕生さん (左)
水溶性の食物繊維が豊富な「大麦のカンパーニュ」など科学的な知見から健康と栄養を考えたパンを多く販売している
人気の「クロワッサン」は時間が経ってもサクッとした軽い食感を保てるよう計算して作られている
店頭での予約数ナンバー1で蜂蜜と自家製湯種を使用した「湯種山食パン」
大麦を多く含み血糖値を上げにくい工夫が詰まった「あなたの体を思うPAN」
販路と商圏を広げたい

 兵庫県神戸市兵庫区のベーカリー 「ブーランジェリー レコルト」は、パンの取り置きと取り寄せができるECモールに昨年8月から登録している。オーナーシェフの松尾裕生さんは「コロナ禍でSNSが急速に広まったので、新しい販路と商圏を広げる手段を模索していました」と登録の動機を語る。
 客がネット上で予約し決済した商品を店頭で受け取れる取り置き機能と、客が希望する送り先に商品を届ける取り寄せ機能の両方を兼ね備えているが、実際の注文は取り寄せのセット商品を希望するユーザーからのものがほとんどだという。
 松尾さんはECモールには大きな期待を寄せているが、まだ当初考えていたような効果を得る事はできていないと感じている。
 今後、宣伝を長期的に打つなどして、ECモールの一般消費者への地名度が上がってくれば、注文が増えていくのではないかと期待しているという。

情報が十分に広まっていない

 同ECモールは全国各地から100店舗以上のベーカリーが参加。消費者とベーカリーをつなぐプラットフォームとしては情報量も多く、モール内の各ページもデザイン性、操作性ともに優れている。ただ一般消費者への宣伝や販売促進活動がまだ本格化していない感じがあるという。
 「ECモールとして成長の余地は十分あるのですが、まだ注文はそれほど多くは来ていない状態です」(松尾さん)
 しかし初期費用が無料、毎月のシステム利用料も売り上げに対して一定の割合の額を支払えば良い仕組みになっており、余分な費用がかからないというメリットは大きいという。
 松尾さんが10年前の2012年にオープンした「ブーランジェリー レコルト」は、元臨床検査技師の松尾さんが科学の理論に基づき徹底的に生地のおいしさにこだわったパンを焼く事を信念とした店で、ベーカリー激戦区の神戸の中にあって人気店へ成長。通常の店頭予約の場合、2カ月待ちになる商品もあるほどだが、参加するECモールでもそうした商品は即座に購入できるようになっている。
 同店は神戸の人気ベーカリーとしてこれまで様々なメディアにも取り上げられた。しかしネット上だとどうしても、「レコルト」という店名で検索しないと同店が発する情報までたどり着けないことが多いのが松尾さんの悩みだったと言う。
 「当店の名前を知らない人に当店の事を知ってもらい、全国のパンにこだわりを持つ人達と繋がりたいですね」(松尾さん)

「ブーランジェリー レコルト」の店内売り場の様子
朝の光を浴びながら香ばしい小麦の香りを漂わせるパンの数々。松尾さんは科学の実験を続けているかのようなワクワクした気持ちで、日々生地と向き合っているという
同店のインスタグラムでは、松尾さんが学び続ける栄養学の情報も数多く発信している
自社HP経由の販売で好評な「もったいないセット」も店のインスタグラムを通じて情報発信している
ネットビジネスには肯定的

 松尾さんはネットビジネスには非常に肯定的だ。その理由はコロナ禍で何かを買いたくても思うように買えない人に商品を提供できるからだ。
 「買う事が難しくなってきた状況なら、その解決策としてネットを利用することはなんら問題ありません。さらに自由に行動できない状況がSNSを急拡大させる事につながったので、自分たちのパンに対するこだわりなど、今まであまり発進できなかった情報もより伝えやすくなりました」(松尾さん)
 同店では自社HPでもネット販売を行っている。店の売り上げのうち店頭販売以外の外販が10%位だが、主に百貨店や高級スーパーへの卸売や自社HP経由の販売による売り上げが占め、自社HP経由での売上は、店全体の売り上げの5~6%を占めるという。自社HPでは現在「もったいないセット」という店のロスパンの詰め合わせセットのみを販売している。
 「正直、商品をネット上で買いたいなら、店へ直接申し込めば買えます。だからECモールに出店する場合ば、なんらかの工夫が必要だと思うんです。何かあえてそこを利用するメリットを出していけたらと思っています。クーポンや割引価格での販売など、経済的なメリットをアピールすることも効果的かも知れません。私達がECモールに期待しているのは、遠方に住んでいる人など当店の事をまだ知らない人に、インパクトのある情報を伝えてくれる事です。プラットフォーム機能を持つECモールならではの情報発信に期待しています」(松尾さん)

業界への理解が深い運営者

 同ベーカリーが参加するECモールの運営者はベーカリー業界との関わりが深く、登録店舗への対応は非常に親切で理解がある。
 「参加するベーカリーへのサービスの良さという点では、他のECモールの運営者にはない良さがあると思っています。ベーカリー業界で働く人間に対してすごく理解がありますね」(松尾さん)
 参加ベーカリーからの相談には親身になって対応してくれ、特に事務処理の負担を軽減してくれる事は大きいという。
 「僕らは現場仕事が中心で、デスクワークをしている時間はあまりありませんので、常に注文が入っていないかどうかメールをチェックするというわけにはいかないんです。システムを導入するときの手続きだって一つでも面倒なものがあれば業務に支障をきたしてしまいます」(松尾さん)
 手続きが煩雑になるという理由で、ECモールを介しての取り置き予約サービスや通販を開始することに二の足を踏むベーカリーは、特に小規模で個人経営であるほど多くなってくるのかも知れない。
 その点で松尾さんが登録したECモールの業者は、非常に親切にナビゲートしてくれるので参入しやすかったのだろう。
 また初期費用が無料ということはやはり大きかったと思われる。
 「今の段階で注文は多くなくても、事務的な負担はなくお金もかかりません。だから将来を期待して登録は継続していこうと思っています。でもせっかくなので、いずれはここを通じて全国的な情報発信にもつながるような数多くの注文が取れるよう、運営者サイドにも頑張ってほしいですね」(松尾さん)

SHOP DATA
店名:ブーランジェリー レコルト
(boulangerie recolte)本店
住所:〒652‐0803 兵庫県神戸市兵庫区大開通7‐5‐16
電話:078‐599‐6436
営業時間:午前7時30分~午後6時30分
定休日:日曜、月曜
品揃え:平日約70品目、土曜、祝日約80品目
スタッフ:販売常時2~4人(土曜、祝日は3~4人)、製造常時6~7人

原価計算女王
原価計算女王

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  2. 美味しさと計画生産 - ツジ・キカイの山根証社長
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