カヌレ専門店の物語 - ブランスリー電子版


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特集/2022年4月号

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カヌレ専門店の物語




伝統をベースに新しいものを生み出していく - boB(ボブ)
カヌレ専門店「boB(ボブ)」の店内の様子
「半熟カヌレプレーン」(税込340円)
「珈琲の半熟カヌレ」(税込390円)
「ほうじ茶の半熟カヌレ」(税込390円)
「萩村抹茶の半熟カヌレ」(税込390円)
花束のようなカヌレ

 中身の半熟感が特徴的な「半熟カヌレ」に、色鮮やかな花束のようなデコレーションを施し五感でカヌレを楽しめるようにしたカヌレ専門店「boB(ボブ)」が昨年4月に東京・原宿にオープンした。コロナ禍の中でも、その業績は順調な推移を見せている。
 JR原宿駅から徒歩5分ほどの大きな交差点を渡って左折し、明治通り沿いに少し歩き脇道に入ると、枯れ枝のアーチに左半分を囲まれた小さな入り口が見えてくる。それが「boB」の店舗だ。白いシートにボブヘアの女性と「boB」の店名を描いたシンプルな看板が印象的だ。
 中に入ると天井などにドライフラワーの装飾が施されており、右手に見えるショーケースには10種類くらいの色鮮やかなカヌレが森の木の実をイメージしたオブジェとともに並んでいる。
 その奥には、ドライフラワーでさりげなく装飾された小さなイートインスペースがある。机が一つだけの小さなものだ。
 「イートインスペースはもっぱらフォトスポットになっています。店内でドリンクを頼んでその場でカヌレを食べることもできますが、テイクアウトで買っていかれるお客様がほとんどですね」(同店広報)
 店内では不定期だが、ドライフラワーの花束と合わせたカヌレのセットも販売されており、花束のように美しいカヌレの姿と優しく可憐なドライフラワーを合わせて見ることで、ほっと癒された気持ちになれる。
 「カヌレは、ひとつなら一輪の花のよう見た目に、テイストの違うたくさんのアイテムを揃えれば、まるで美しい花束のような見た目になり、味覚のみならず視覚でも楽しんでいただけます」(同店広報)
 SNSなどを通じて情報を発信し通信販売も強化。様々な季節の果物や食材を用いて花束のようにデコレーションされたカヌレのセットはSNS上で写真映えするスイーツとして話題を呼び、オープンから1年近く経った現在でも通販の売り上げは伸びているという。

「半熟」でアレンジが容易

 「当店のカヌレは、表面はカリッとして中はトロリと溶けるほど滑らかな『半熟カヌレ』です」(同店広報)
 実は同店を運営するのは銀座のイタリアンレストラン「AURUM +truffle」(オーラムプラストリュフ)を旗艦店に持つ事で知られる企業、ANALOG(本社=東京・中央区)。「boB」のカヌレはこの「AURUM +truffle」で2日かけて作られたものを毎日運んできている。
 「オーラムプラストリュフ」は、イタリアンレストラン「AURUM(オーラム)銀座」が、「トリュフの新しい楽しみ方」をテーマに加えて、2020年11月にリニューアルして生まれた店で、トップシェフの森脇翔平氏がメニューを企画・開発。同氏は「boB」のメニュー・レシピ開発も行っている。「boB」のカヌレは、卵黄を潤沢に使用し、生地の発酵から焼成、トッピングまでを丸二日かけて製造する。この製法により表面はザクっと香ばしく固めに仕上げ、中は滑らかで溶け出しそうなトロッとした食感に仕上げている。さらに森脇氏は季節ごとに旬の食材や果物なども使用し、従来の伝統的なカヌレの枠を超えた様々なアレンジレシピを実現。
 「最近のカヌレブームは、15年ほど前に到来したものと異なり、色とりどりにアレンジされたカヌレの種類の多さが、一つのキーワードになっています」(同店広報)
 同店の定番商品は「プレーン」(税込340円)、「珈琲」(税込390円)、「ほうじ茶」(同)、「萩村抹茶」(同)、「ラズベリーとカカオ」(同)、「スパイスとオレンジ」(同)、「桃とアールグレイ」(同)、「ココナッツ」(同)の8種の半熟カヌレだが、並べた姿を上から見ると、一つ一つが花びらのような形のカヌレに赤、黄、緑、茶、白と様々な配色が施され、あたかも花束のように見える。一つ一つはシンプルなアレンジだが、複数を組み合わせることで写真映えするその姿はSNS時代の消費者の心を掴んだ。
 また、中を半熟に近い状態に保てる製法を生かし、苺や葡萄など季節ごとの新鮮な果物を中まで丸ごと差し込んだメニューも開発。外側のカリカリ感と対照的な果物の優しい舌触りや甘味は、見た目、味、食感のすべてが合わさったハーモニーを生み出すこととなった。



「AURUM +truffle(オーラムプラストリュフ)」の森脇翔平シェフ。「boB(ボブ)のカヌレの開発・監修を行なっている
東京・原宿のカヌレ専門店「boB(ボブ)」
店の奥には小さなイートインスペースがあり、フォトスポットにもなっている
カヌレの中身はトロトロの食感だ(「スパイスとオレンジの半熟カヌレ」=税込390円)
「黒毛和牛ローストビーフの半熟カヌレ」(税込490円)
アイスクリームとプレーンのカヌレをあわせて盛り付けた「半熟あいすカヌレ」。昨年夏季限定で販売し好評だった
カヌレの魅力を生かす

 イタリアンレストランの「AURUM +truffle」がカヌレというフランスのボルドー地方を発祥とするスイーツに参入する事になったのは、単にブームを意識したからではない。コロナ禍での生き残りを考え模索する中でアフターヌーンティーの需要が予想外にあることに気づいたからだ。
 「スイーツの需要がコロナ禍で大きく膨らんできている事に気づきました」(同店広報)
 大きなカヌレブームがくる直前だったが、様々なスイーツの市場をリサーチしたら、カヌレはフランス・ボルドー地方の修道院を発祥とする説が有力で長い歴史を抱えている割には意外にスポットライトを浴びることが少なかったという事実がわかったという。さらに日本では、熱狂的なファンがいて、洋菓子店に置かれている率は高いものの、まだ食べ方提案などに課題があるためか、全体的な認知度は高くない事もわかった。
 「シンプルなおいしさがあり、果物など様々な素材と合わせやすくアレンジしやすいのがカヌレです。伝統的なレシピも尊重した上で、カヌレの魅力を生かして新しいものを生み出していきたいと考えました」(同店広報)
 様々なフレバーのカヌレを展開していく中で、ティーフレバーとして、「抹茶」「ほうじ茶」「桃とアールグレイ」なども訴求を強化。最近ではカヌレに合う飲み物として紅茶やコーヒーだけでなく、日本茶とのペアリングも目指し、日本茶メーカーとのコラボ商品も発売している。

認知度向上が課題

 その一方で、日本でのカヌレ市場を開拓していくにはまだまだ課題もある。同店は場所柄若い層の来客が多いが、年配者への認知度はまだ低く、年配者がどんな場面でどんな風に食べれば良いかなどを提案していく必要性を感じているという。
 「当店としては若い方を通じて年配の方にもカヌレの魅力が伝わればいいなと思っています。カヌレの様々なアレンジレシピを伝えていく中で年配の方々にも興味を持って頂ければとも考えています」(同店広報)
 昨年位から、様々なカヌレ専門店が登場してきており、そうしたライバルとの差別化も迫られている。
 「当店のカヌレは中身のトロトロ感が他にはない特徴なので、そこを訴求し続けていくつもりです。焼き加減を考えて温度設定とその管理をするところが微妙で本当に難しいのですが、私たちが本当においしいと自負するトロトロの食感のカヌレを作り続けるために、その技術は絶対に守っていきたいですね」(同店広報)
 同店は食事系のカヌレも出している。昨年、期間限定で販売した「黒毛和牛ローストビーフの半熟カヌレ」(税込490円)はワインなどのおつまみにも合う商品として好評を得た。
 また昨年は夏季限定でアイスクリームとプレーンのカヌレをあわせて盛り付けたメニュー「半熟あいすカヌレ」も販売。半熟カヌレのカリッとしてねっとりした食感と、口当たりが滑らかな濃厚なアイスクリームとのコラボレーションが話題を呼んだ。
 「伝統的なものにユニークなバリエーションを加えることに意味があると考えています。それが、カヌレを広く知ってもらうきっかけになってほしいですね」(同店広報)

boB(ボブ)
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4‐31‐10 外側 南西寄り道沿い YMスクエア原宿 1階
電話:03‐4400‐1556
営業時間:午前11時~午後7時(平日)、午前10時~午後7時(土日祝)
定休日:なし
品揃え:常時8アイテム以上
スタッフ:製造常時2人、販売常時2人



沖縄の気候が生み出した独特のカヌレを提供 - 黒糖カヌレほうき星
開放感がある「黒糖カヌレほうき星」の店内の様子。左側の女性が店長の伊藤ちひろさん
沖縄・港川のカヌレ専門店「黒糖カヌレほうき星」
「黒糖カヌレほうき星」の店内の様子
「黒糖カヌレほうき星」の店の壁に描かれたカヌレの絵
8種類の定番商品を集めたセット(店頭販売税込1440円、通販用の冷凍のものは税込1600円)。箱を開けた姿はまるで夜空の星たちが集まった宝石箱のよう
黒糖と好相性のカヌレ

 「沖縄の名産品を使ったお土産菓子として何か注目されるようなものを作りたいと思いました。カヌレとの出合いは偶然でした。沖縄黒糖と相性の良いスイーツを調べたところ、ぴったりと当てはまったんです」と沖縄・港川に本店を構えるカヌレ専門店「黒糖カヌレほうき星」の店長で商品開発を担当する伊藤ちひろさんは話す。
 伊藤さんが開発した「黒糖カヌレ」は、観光産業に大きく支えられている沖縄経済がコロナ禍で厳しい中、実際に沖縄に行かなくても行った気分が味わえる新しい沖縄菓子として、全国的な人気を高めつつある。
 さらにフランスの伝統菓子である「カヌレ」のブームが再来しつつある事も後押しした。
 商品を購入すると、箱の中には「KAFU ARASHIMI SORI (カフーアラシミソーリ)」と書かれた手書きのメッセージが入っているが、沖縄の言葉で「幸せが訪れますように」という意味だという。
 「今はみんなが苦しい時期なので、自分たちも何かできないかと考えています」(伊藤さん)
 昨年夏には県内6病院の医療従事者に向けて3240個のカヌレを無料提供する取り組みも行った。当時、県内の感染者がなかなか減らず、観光業が大きな打撃を受け、厳しい状況が続いていた。沖縄を愛する伊藤さんは、自分たちができることを通じて少しでも何かがしたかった。

新しい沖縄産スイーツ

 伊藤さんは、県外の出身。大学を卒業後、好きだったお菓子作りの道に進みたいと洋菓子店に就職した。以後10年ほどの期間、パティシエの仕事に従事していたが、カヌレに関しての特別な思い入れがあったわけではなかった。
 しかし「黒糖カヌレほうき星」のオーナーから誘われて新しい沖縄産スイーツを生み出す事業に参加することになり、沖縄に渡った。
 「沖縄の主要産物のひとつである黒糖を使ってより価値ある物産品が作れないかと模索していたのですが、カヌレはそれにぴったりでした」(伊藤さん)
 ただし開発までの道のりは厳しく、カヌレ専門店の出店が決まってから、最終的なレシピ開発が終わるまで半年以上かかった。
 「型に入れた生地を焼成する段階で、高温のオーブンで微妙な焼き加減を調整しながら作るのですが、その日の気温や湿度によって出来栄えが変わってきます。沖縄の気候をよく理解した上で沖縄ならではのカヌレを作れるようになるまで何度も試作を繰り返しました」(伊藤さん)
 店がオープンしたのは4年前の2018年4月。それから現在に至るまで、伊藤さんは、カヌレの最も大切な特徴と考える外側はカリッとして内側はもっちりとした食感を維持した製品を届けるために腐心してきた。
 現在は、販売のみ行う「那覇空港店」と「イーアス沖縄豊崎店」の2支店も加え3店舗体制で運営しているが、この食感を維持した状態の製品を販売するため、2支店へは、毎日本店の工房から1日3回焼きたての直送便を届けている。
 またコロナ禍を機に期間限定のオンラインショップを始めた時も、解凍してリベイクしてもこの外側のカリカリ感が保てるような工夫を施したという。
 発送の際は、外皮のカリカリ感を保つための注意点として、「リベイクする際は、冷凍庫から出したカヌレをアルミホイルや専用トレイに乗せてオーブントースターでそのまま焼き、焼き上がったらそのまま10分ほど冷ましてください」と書いた説明書きを同梱している。この注意点に留意することで、工房のある港川本店の店頭で焼きたてを提供する常温のカヌレに近い状態で、オンラインショップで購入したカヌレを食べることができるのだという。



甘味と酸味のバランスが絶妙な「パイナップル」
砂糖で煮詰めたドラゴンフルーツに、酸味のあるシークワーサーを加えた「ドラゴンフルーツ&シークワーサー」
完熟バナナを煮詰めてジャムにし、ホワイトチョコを星型にくり抜いてのせた「星×バナナ」。店名である「ほうき星」をイメージ
夜空に浮かぶ星のような黒糖カヌレの数々
一番人気の「プレーン」。多良間島の黒糖を使用した甘さ控えめの定番カヌレ
「プレーン」の断面
日本人好みの甘さ

 黒糖は、多良間島産のものを使用している。その他にも、沖縄の離島を中心にいくつか産地があり、島ごとに味や香りが違うが、その中でも多良間島産のものが最も好ましかったという。
 また同店では黒糖以外の原材料もなるべく県産のものを使用している。
 日本人好みで控えめな甘さが特徴のカヌレを目指し、砂糖やラム酒などの使用量は一般的なカヌレの半分ほどに抑えた。大きさも通常のものより小さめに作っている。
 「小さめで色々な種類のカヌレが一箱に入っていることで、一人でお腹一杯になる前に色々な味わいのカヌレが楽しめるようにしました」(伊藤さん)
 さらに子供でも安心して食べられるように保存料は一切使用していないという。カヌレが苦手という人でも、同店の黒糖カヌレなら食べられるという声をもらう事もあるという。

満天の星をイメージ

 「海」のイメージが強い沖縄だが、伊藤さんは天の川が見える満天の星にも魅力を感じている。カヌレを上から見た姿が星の形に似ていることから、店の内外装や商品パッケージなどのデザインを全て星空のイメージで統一した。「ほうき星」という店名も星空をイメージして名付けている。
 商品そのものも例えば、定番商品を揃えた8個セット(店頭販売税込1440円)が箱に入った姿はまるで宝石箱のようにも見えるし、青い皿に並べれば、まさに夜空に浮かぶ星のようだ。
 そのため同店のインスタグラム上には「食べるのがもったいない」という声が投稿される事もある。こうした商品自体の美しさと店全体のイメージを統一させた事も、同店のカヌレが、人気の沖縄土産として台頭している所以といえそうだ。
 現在の定番商品は、「プレーン」のほかに、「パイナップル」「沖縄ミルク」「ドラゴンフルーツ&シークワーサー」「大宜味村の緑茶」「星×バナナ」「ラズベリー&マスカルポーネ」など様々なバリエーションがある。今春からは「島いちご」も加わった。
 「パイナップル」は、甘味と酸味のバランスが絶妙と好評。
 「沖縄ミルク」は、希少な沖縄県産の牛乳を砂糖と生クリームで煮詰めたものを使用した製品。
 「ドラゴンフルーツ&シークワーサー」は、砂糖で煮詰めたドラゴンフルーツに、シークワーサーの酸味を加えた製品。
 「大宜味村の緑茶」は、長寿村として有名な大宜味村の緑茶を専用の臼で挽いて丸ごと使用した製品。
 「星×バナナ」は、星型のホワイトチョコレートをのせて、店名である「ほうき星」をイメージした製品。
 「ラズベリー&マスカルポーネ」は、濃厚なマスカルポーネにベリーを合わせた製品。
 これらにパッションフルーツなどを使用した季節商品やハロウィーンやバレンタインなどのイベントを意識した期間限定商品なども併せて販売し、沖縄産の食材をふんだんに使いながら、沖縄の夜空を表現したような色鮮やかなカヌレを一年を通して販売している。
 同店と関わるまでは一度も沖縄に来た事がなかったという伊藤さんは、「自分が沖縄で働くことになるとは10年前には夢にも思いませんでした」と話す。しかし、沖縄の四季折々に触れながらカヌレを販売し続ける中で、沖縄に対する強い愛着が芽生え、できる限り多くの人たちへ黒糖カヌレの魅力を知ってもらいたいと思うようになったという。
 カヌレの魅力は何かと聞くと、伊藤さんは「見た目も綺麗ですが、やはり中のモチモチ感とは対照的な、あの外側のカリカリ感が一番大切だと感じています。作る側としてはそこだけは絶対譲らずに、自分たちのカヌレを提供していきたいですね」と目を輝かせた。

黒糖カヌレほうき星
住所:〒901-2134 沖縄県浦添市港川2‐16‐2 港川沖商住宅25号
電話:098‐975‐7825
営業時間:午前11時30分~午後5時
定休日:なし
品揃え:常時販売商品が約10アイテム、季節商品が1アイテム
スタッフ:製造常時1〜2人、販売常時1人〜2人
店舗面積:厨房7・8坪、売場5・1坪

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