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| 連載／2021年12月号 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 玉置浩二さんのオーケストラとの共演に、他者と真剣に向き合うことの大切さを教わった - 普通のパン屋さんが普通に頑張れば繁盛出来る話(54) | |||||||
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先日、ＮＨＫで「ＮＨＫ ＭＵＳＩＣＳＰＥＣＩＡＬ 玉置浩二×オーケストラ 〜たどり着いたライフワーク〜」というタイトルの番組をたまたま観ました。玉置浩二さんといえば、昔、安全地帯というバンドのボーカルとして、数々のヒット曲を世に送り出した人です。私は特に彼のファンというわけではありませんでしたが、「ワインレッドの心」など今でも心のどこかに残っている曲はいくつかあります。
番組のタイトルにあるように、彼はオーケストラと共演するという新しい表現スタイルにたどり着いたのだそうです。実は彼は、昨年末のＮＨＫ紅白歌合戦に、24年ぶりに出場し、「田園」という曲をオーケストラと共演しました。私は残念ながら、見逃してしまったのですが、「ＮＨＫ ＭＵＳＩＣ ＳＰＥＣＩＡＬ」でその様子が紹介され、さらには、壮大なオーケストラアレンジで「田園」のフルパフォーマンスが放映されました。 私はそれを観て、深い感銘を受け、果てしなき想像の世界への私の禁断のスイッチが入ってしまったのでした。 彼は、まさにオーケストラと共演していました。彼の自由に解き放たれ、研ぎ澄まされた感性が発する歌声は、オーケストラの演奏者が発する様々な楽器の音色やリズムと様々な関係性を持って、時には共鳴し、時には反発し合い、時には掛け合いをし、その結果として、「田園」という曲が圧倒的なダイナミズムを伴いながら進行しているという意味で、彼は、オーケストラと、いや、もっと正確に言うと、指揮者を含めたオーケストラのメンバー一人一人と、まさに共演していました。参加するすべての人が発する音が様々な組み合わせで、ありとあらゆる形で反応し合った結果としての「田園」という曲を、私は心を躍らせながら聴いている、ということが、はっきりと手にとるようにわかり、自分でもびっくりしました。 なぜ私がこんなことを書いているかというと、私が出遭ったこの奇跡のステージは、ベーカリーの厨房や売り場で日々繰り広げられているオペレーションと共通する部分があると思ったからです。 ベーカリーの現場では、製造スタッフが、それぞれのパートで緻密な作業をすることで、捏ね上がったパン生地や分割された生地玉、成形されたパン生地、窯の中で焼き上がっていくパンなどが生まれてきますが、それらは、プレイヤーである一人一人の製造スタッフが発する声や動作の数々が、様々な関係性を持って、時には共鳴し、時には反発し合い、時には掛け合いをし、その結果として、生まれて来るものだと思います。 さらに、販売スタッフというプレイヤーも加わって、ベーカリーの中は、多種多様の化学反応が渦巻く活気ある世界になり、売り場の華やかな演出も相まって、多くの客を強力な磁石のように引き付ける空間へと変容していきます。これはまさに、製造スタッフと販売スタッフ全員が参加する共演です。 そして、ベーカリーの現場での玉置浩二さんは誰かと言ったら、多くの場合はおそらくオーナーシェフということになるのでしょう。また、ベーカリーの場合は、パンという具体的なものが生まれてくるので、本質的には空気の振動である音よりも、わかりやすいかも知れません。 玉置さんは、オーケストラの各演奏者が発する音に全身全霊を傾けて向き合っていますが、オーナーシェフは、各製造スタッフと各販売スタッフがかかわるパンやパン生地に全身全霊を傾けて向き合っています。そして、それらは、玉置さんのオーケストラの各演奏者に対する敬意であり優しさであり、オーナーシェフの各製造スタッフと各販売スタッフへの敬意であり、優しさであるわけです。 玉置さんと共演できるオーケストラの演奏者は、その経験から多くを学び、成長し、大きな飛躍を遂げるに違いありません。そして、オーナーシェフと共演できるベーカリーの製造スタッフと販売スタッフも、その経験から多くを学び、成長し、大きな飛躍を遂げるに違いありません。 私は、他者と真剣に向き合って、他者との関係性の中から何かを生み出すことの大切さを、改めて教えられた気がしました。（ＲＯ） |
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