記事の閲覧
| <<戻る | 写真をクリックすると拡大写真が見られます。 |
| 特集／2021年8月号 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| パンのサブスク(定期購入)
|
| コロナ禍の消費者とベーカリーを繋いだプラットフォーム - パンスク | |||||||||||||
昨年からのコロナ禍で、このところ様々な分野で「サブスク」ことサブスクリプション（定期購入）サービスが注目を集めるようになってきているが、ベーカリーの分野でもそれは例外ではない。群馬県桐生市に本社を置く会社、パンフォーユーが提供する個人向け冷凍パンのサブスクサービス「パンスク」は、緊急事態宣言が再度出された今年１月に１日あたりの平均新規登録者数が前月対比で約５倍まで拡大。同社スタッフが選んだ日本各地のベーカリーのパンの詰め合わせセットを定額で届けるサービスがコロナ禍の消費者の心を掴んでいる。 同パンセットは、「おいしいパンを旅しよう」をテーマに「パンスク」のプラットフォームに参加している日本各地のベーカリーの中からどれかをパンフォーユー側が毎回選んで冷凍パンのセットを提供。 「届くまではどこのパンが入っているかわからないのですが、逆にそれでワクワク感を感じてもらい、おいしいパンと出合う事で自宅にいながら旅の道中で新しい発見をした時のような気分を味わってもらえればと思いました」と若干32歳のパンフォーユー、矢野健太社長は話す。 このパンセットは月１回届くサービスだが、１箱（60サイズ＝宅配便の荷物の大きさの規格で、縦、横、奥行きの長さの合計が60センチ以内で重量が２キロ以内の荷物）に焼きたての状態のまま冷凍したパン８個前後と作り手であるベーカリーからのメッセージカードが入っている。価格は１回につき税別２９９０円で、別途「パンの旅費」（冷凍送料）として一律７８０円かかる。税込・送料込みで総額３９９０円。 さらに特徴として、冷凍するタイミングを工夫した独自の冷凍技術を駆使している事と、高級食材用として一部流通していて偶然手に入れたという特別な袋を用いて冷凍パン一つ一つを個包装している事がある。これによりデンプンの老化を抑えることで、焼成の後に１日常温でおいたパンより高い品質の冷凍パンを提供できるという。１回につき３９９０円という決して廉価ではない価格ながら人気が上昇中なのは、単にコロナ禍の消費者のニーズを取り込んだだけではなく、そのパンの品質も評価されたからだと言えそうだ。 | |||||||||||||
「パンスク」は、参画するベーカリー側のメリットも大きいサービスだ。 「コロナ禍でベーカリーの通販が注目を集めていますが、小規模のパン屋さんにとって、単独でのＥＣ取引は売上の見通しが立てにくいばかりでなく、ＷＥＢ上での集客や食品ラベル作成、梱包資材準備、伝票書きなど煩雑な業務が多いため店頭業務と並行して運営しづらいという難点があります。それらを代わりに丸ごと担うのが、当社が運営するサービス『パンスク』です」（矢野社長） 具体的には、アルバイトのシフトのような形で、各ベーカリーに、自店の都合に合わせて、各月の「パンスク」用のパンの製造可能箱数を事前に申請してもらう。その上で「パンスク」側が各ベーカリーに製造数を割り振る「受注生産制」の取引のため、ベーカリー側としては、売上の見通しが立てやすく、かつ廃棄も発生しない。そのため、「パンスク」に参加する事で、季節などの要因も含めた自店の売上の浮き沈みに関係なく毎月一定の売り上げを確保することができるというわけだ。 昨年７月から「パンスク」のサービスに参加した大分県由布市のベーカリー「カフェ・ラ・リューシュ（ＣＡＦＥ ＬＡ ＲＵＣＨＥ）」は、参加当時、新型コロナウイルス感染拡大の影響によりカフェの営業を休止。テイクアウトのパンのラインアップを増やし、その販売に力を入れていく上でより多くの人にパンを食べてもらうにはどうすれば良いのかを模索していた時に出合ったのがパンスクのサービスだったという。 埼玉県新座市の「ソロブレッド（Ｓｏｌｏ Ｂｒｅａｄ）」は店長が一人で製造と販売を行う小規模店で、時間帯によっては自販機のみでの販売もしているが、「パンスク」は季節に関係なく安定した売り上げが確保できる事から魅力を感じ参入を決めた。 石川県金沢市の「ノトヒバカラベーカリー（ＮＯＴＯＨＩＢＡＫＡＲＡ ＢＡＫＥＲＹ）」は、「パンスク」参加５カ月で自社通販サイトの売り上げも約２倍へ拡大。「パンスク」による宣伝効果で他県からの注文も増え、販路拡大につなげる事ができた。 群馬県高崎市の「ブーランジェリー サイ（Ｂｏｕｌａｎｇｅｒｉｅ Ｓａｉ）」店主の齊藤さんは「パンスク」利用客からのメッセージが励みになるという。 | |||||||||||||
「『パンスク』のパンは一般的な冷凍庫で保管できる冷凍パンのため、新しい設備を買い足す必要もなく、空き時間を活用しながら梱包ができます。さらにパンの菌検査や、食品ラベル、梱包資材、運送会社へ渡す伝票なども全て当社が手配するので忙しいパン屋さんの負担を増やしません。外販は大変だと感じるベーカリーさんが多い事から、まだ誤解があると思いますが、『パンスク』は、パン屋さん自身で製造可能数を設定していただくことができ、少量からでも参画可能です。パン屋さんに負担なく安定した収入を得られるサービスである事をもっと伝えていきたいですね」（矢野社長） 矢野社長は群馬県太田市出身。新卒で大手広告代理店である電通に入社したが、起業して自身の力を試したいという思いが高まり３年後に退社。その後Ｕターン転職した群馬県桐生市のＮＰＯ法人で、ある冷凍パンメーカーと出会った事をきっかけに、パンに携わるビジネスを起こしたいと考えるようになった。 「それまで知らなかったのですが、焼きたてのまま冷凍したパンを温め直す事で、こんなにおいしいパンになるのだと驚きました。また経済の中心地は都会に偏りがちですが、ベーカリーは日本全国各地にあって、地域の独自性を打ち出したおいしいパンを提供する事が可能です。私はずっと魅力のある仕事を地方に作る事で地域経済を盛り上げていきたいと考えていたので、冷凍パンを通じたビジネスを展開する事でそれができるのではないかと考えました」（矢野社長） そして矢野社長はパンフォーユーを２０１７年１月に設立。 当初は購入者が小麦粉などの材料を選んで自分好みのパンにカスタマイズできる冷凍パンのオーダーメイドサービス事業を行っていた。しかし、大半の客は、オーダーメイドのパンよりも複数のパンを楽しめる「おまかせセット」の方を注文する割合が高かった事から、大きく事業転換し、２０１８年の秋頃からはオフィス向けに多種類のパンを提供するサービス「パンフォーユーオフィス」を開始。併せてそれまでの製造が一社の体制から、複数のベーカリーによる供給体制へと変更した。 「オーダーメイドの需要もあったのですが、どちらかというと自分の好みの枠を超えるような様々なパンに出合いたいという気持ちを持つパン好きの方のほうが圧倒的に多いとの気づきから、日本各地のベーカリーが複数集うプラットフォームを主軸にした事業へ転身しました。当社が独自に選定したベーカリーのパンを届ける事で地域のベーカリーを支援していきたいと思うようになったのです」（矢野社長） 「パンフォーユーオフィス」は、冷凍パンの購入費用を企業が半額負担する事で社員がオフィスにいながらパンをいつでも安く購入できるというもの。社員はオフィス内にある冷凍庫に補充されたパンを取り出して自社のレンジで温めれば焼きたてとほぼ変わらない状態でパンを食べることができる。冷凍庫運用から冷凍パン補充作業までパンフォーユー側が行い、日本各地のベーカリーから仕入れた最大８種類のパンをオフィス内で提供。 そしてこのサービスが好評だったため、同じノウハウでサービスを個人向けのものへと拡大した「パンスク」を２０２０年の２月末から開始した。その際には、著名なテレビ番組に取り上げられた事もあり、新規会員への登録希望者が殺到。２０２１年５月末で会員は８０００人以上にまで膨らみ、新規登録は３カ月待ちの整理券が「パンスク」のＨＰで配布される状態となっている。 | |||||||||||||||||||
パンフォーユーはこれまで「冷凍パン」に関わるビジネスを「パンスク」や「パンフォーユーオフィス」のみならず、「ゴーストベーカリー」や「パンフォーユーＢｉｚ」といった事業も含めて様々な形で行い、パンを「作る人」「売る人」「食べる人」三方良しのプラットフォームを提供している。 「ゴーストベーカリー」は冷凍庫さえあれば誰でも、狭小スペースでフードロスゼロのベーカリーを開業できる開業支援サービス。パンフォーユーが全国各地の提携ベーカリーのパンを冷凍で提供し、さらにニーズに合わせたパンの提案、仕入れ管理、物流手配、在庫管理なども提案してくれる。 「パンフォーユーＢｉｚ」は業務用の様々なニーズに合わせて焼成冷凍パンを各地のベーカリーから届けるＯＥＭプラットフォーム。 矢野社長は冷凍パンの価値を伝えていく事で、パン業界が抱える様々な問題の解決につなげられるのではないかと考えている。 「中でもパン屋さんの働き方についてはまだまだ改善の余地がありますが、必要量を好きな時間帯に製造し、受注生産制という形で冷凍したパンを販売する事で、パン屋さんも希望のライフスタイルを送る事が可能になります。当社のプラットフォームに参加する事で、一時的に閉店していた店舗が復活したり、職人さんが家族との時間を増やす事ができたりしたという事例も生まれています」（矢野社長） | |||||||
|
「パンスク」には現在、北海道から沖縄まで「パンスク」側の厳正な審査を通り抜けた30店ほどのベーカリーが参加。審査基準は「人にすすめたいか」「もう一度食べたいと思うか」「なかなか出合えないか」の３点だという。
「冷凍流通を導入し、規模の小さいベーカリーでは困難な外販業務の手間も代行する事で、店の規模や場所、現在の知名度などに関係なく、全国各地の様々なベーカリーの参加が可能になっています。だからいわゆる有名店ではないけれど、意外な所にこんなおいしいパンを売っている店があったんだと思うような出合いが生まれるわけですね」（矢野社長） 矢野社長は、単にパンを届けるだけではなく、そのパンを作る店との意外な出合いを重ね合わせて継続的に届けるという事をとても大切にしている。そのためには、サブスクサービスというシステムの採用が理に適ったものとなってくるのだ。 「パンスク」の箱にはパンだけではなく、パンを作ったベーカリーからのメッセージカードも入っている。またパンを食べた客側からのメッセージも「パンスク」を通じてベーカリー側に届けられるようになっている。 「『パンスク』の醍醐味はただ単においしいパンを食べられるという事ではなく、パンを通じて各地のベーカリーと交流が生まれ、パンを食べながら旅をしたような気分が味わえる事にあります」（矢野社長） また「パンスク」のサービスを通じておいしいパンと出合える事がわかれば「パンスク」のシステム自体への信頼感が生まれやすい。信頼感が生まれればシステムを利用する消費者のリピートが発生する。 店舗で商品を手渡しするサブスクを実験的にスタート。店舗販売へのサブスク導入で、ベーカリーをさらに後押し。 実はパンフォーユーは実店舗を介した新たなサブスクサービスも６月28日から試験的に導入を開始している。対象は群馬県内のベーカリー５店舗で、パンの定期券である「パンパス」とパンの回数券である「パンチケ」の２種類を導入。客は、店頭に貼ってあるポスターのＱＲコードを読み取り「パンパス」または「パンチケ」を購入。店頭で対象のパンを選びレジでチケットを表示してＱＲコードを読み込んでもらうという流れだ。 「これまでは、外販を支援するサービスをメインに展開してきましたが、同様にサブスクを活用しながら店頭販売も支援する新サービスを検証する当社初の取り組みです。取り組み自体をすぐにサービス化するというよりは、まずは店舗を訪れる新規お得意様作りと、その際のついで買い需要を探り、新サービス開発に役立てればと考えています」（同社広報） 宅配販売のみならず、店頭販売も含めてサブスクを導入する事で、消費者にとってもベーカリーにとっても良いサービスを継続できればと考えているという。 これまでも、「パンスク」は進化し続けている。消費者の声を反映して、「リピ買い」やプレゼント機能などを追加してきたという。 「リピ買い」は、これまで届いた「パンスク」の便の中でもう一度食べたいと思うようなものがあれば改めて便を注文できるサービス。プレゼント機能は「パンスク」をお勧めしたいという相手がいれば、その相手にプレゼントとしてパンスク１回分を送れるサービス。 「まだ成長途上ですが、『パンスク』の事は消費者側へＰＲすると同時に、ベーカリーさんにも冷凍パンを通じて安定した関係を築けるサブスクサービスとして、もっと色々と伝えていきたいですね」（矢野社長） Company Data 社名：パンフォーユー 住所：〒３７６‐００３１ 群馬県桐生市本町５‐３６８‐９ 電話：０２７７‐８８‐９１３３ 社長：矢野 健太 設立：２０１７年１月 ミッション：新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
