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| 連載／2021年7月号 |
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| 社内コンテストで店舗間の差が顕著なのは、接客だった。接客は受ける側の感性により評価が変わる - 私の販売集大成ノート(10) | ||||
１９７８年、小田急百貨店内のポンパドウル町田店の販売に配属となった。当時、衛生検査と称する巡回が毎月一度実施されていた。当時の三藤社長はじめ常務、管理課長、販売課長が営業時間中に巡回して品質、接客、クレンリネスのチェックがなされた。巡回者は月により変わった。問題がなければ「いいね」の一言で終わるが、余りにも酷い状況だと再検査があった。 基本的に巡回日の指定はなかったが、その情報が入ると営業終了後に普段出来ない箇所を集中して掃除した。照明が落ちた薄暗い食品フロアで、ポンパドウルだけに動きがあり声があった。 コンテストのためのコンテストは避けたかった ポンパドウルでは製造と販売の高い水準の技術向上と衛生管理強化を目的に、毎年社内コンテストが行われている。衛生検査はコンテストに変わった。社長はじめ課長以上の役職者が審査員となり、全店舗の品質、接客、クレンリネスを審査する。チェック表を基に審査した結果を数値化して順位を付け、優秀店を決めて表彰する。コンテストの審査期間は６月から10月迄で、審査員は全店舗を巡回しなければならない。全国展開が始まった１９８６年以降は年によって70店以上になったこともあり、日常業務との調整が必要だった。 通常の状態を審査したいため、巡回順は敢えて明かさなかった。審査で格差が出るのが接客である。視覚化出来る製品や清掃で大きな差は出にくい。接客は受ける者の感覚的なものが判断基準となるため、人によりブレが出る。時には審査している間だけ活気ある接客をする販売員もいたが、10分ほど審査していればその場凌ぎか否かぐらいは分かる。「誰に対して接客しているのか」を問うて指導した。コンテストのためのコンテストになることだけは避けたかった。 会長の｢お母さん｣の一言が心に深く残った すでに会長になっていた三藤喜一氏の宿泊が伴うコンテスト巡回時に同行した事は前号で一部紹介したが、私の中で印象に残っている中国地方巡回時の様子を紹介したい。 羽田空港で待ち合わせてスケジュール確認をした折に「コンテスト審査を終えたら墓参りをしたい」との希望が出された。既にスケジュールを組み終えていたが、岡山空港へ向かう機内で再度調整した。岡山店、福山店、アルパーク店、広島店を巡回する予定であった。広島県の竹原にお墓があるとの事で交通関連の時間調整をした。 コンテスト審査の為の三日間の巡回が広島店を最後に終了した。墓参の為に竹原へ向かう列車がＪＲ広島駅を出発した時、ホームを見ていた会長が突然「戦地に行く前にここでお母さんと別れたのが最後だった」と聴き取り難い小さな声で、ご自分に言い聞かせる様に呟き、再びホームを見ていた。ボックス席に座っていたので会長の目に浮かんだ僅かな涙が見えた。会長からの「お母さん」の一言が私の心に深く残った。「お母さん」の響きが優しかった。戦時中の事に話が及んだ。戦地では将校付きの一兵士であったが将校の散髪に使うバリカンを失くしてしまい、自殺するつもりでジャングルに入ったが、捜索している戦友の呼び声で正気に戻ったという。想像もしていなかった話で驚いたが、会長の歴史を垣間見た思いだった。 ｢人間三藤喜一｣に触れた感じがした 竹原に向かう車内で「お腹の調子が悪いので降りたい」とのことで急遽呉駅で途中下車した。トイレから戻って来る迄の間に列車の時間を調べたが都合の良い列車はなかった。 呉駅からさらに一時間程乗り継がなければならない。竹原迄40キロ以上の距離がある。「都会の人は時間にルーズだと思われたくない」という会長の意向に沿うには最速で行けるタクシーを使う以外なかった。 どうにか約束の時間に間に合い、会長はポンパドウルの社内報や宣伝用チラシ等を抱えて、親戚宅へ向かわれた。 その間私は近くの頼山陽の資料館で時間を潰した。小一時間経った頃墓参りを済ませて戻られた会長の表情に安堵感が見られた。「墓も綺麗に掃除してあり安心した」と話す姿に「人間三藤喜一」の一部に触れた感じがした。 望月 康男 販売アドバイザー。1946年神奈川県川崎市生まれ。東京都町田市在住。趣味は、ドライブ、登山、ビデオ撮影、映画鑑賞。1978年9月、株式会社ポンパドウル入社後、町田店、六本木店、伊勢佐木町店の販売マネージャー。1985年1月販売課長。1989年6月販売部長。1996年12月取締役販売促進部長。2001年10月取締役広報宣伝部長。2007年2月〜2010年1月顧問。全店の接客、品質、クレンリネス、品揃えの改善点をアドバイス。株式会社ポンパドウルの成長期、成熟期に販売関連業務に携わる。 | ||||
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