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連載/2021年5月号 |
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昭和の時代を生き抜き、熱い心を持ち続けた故三藤喜一会長との思い出 - 私の販売集大成ノート(8) | |
創業者の故三藤喜一会長の強烈な印象
40年近くにわたった私のポンパドウル勤務の中で、印象深い様々なタイプの上司に巡り会う事が出来た。その方々から多くの事を学び、今の私の一部が形成されていると言っても過言ではない。 その中で特に印象に残っているのがポンパドウル創業者の故三藤喜一会長である。昭和の時代を生き抜き熱い心を持ち続けた強烈な個性が強く印象に残っている。入社時の面接試験でお会いしたのが最初である。 意に沿わない事でもあったのだろうか、一目で判るほど厳しい表情で会議室から出て来られた。やや大柄な感じで肩幅が広く、長めの揉み上げと薄い色付きで太めの縁のメガネをかけ迫力ある風貌だった。 「機械化」のタブーへ挑んだ洗浄器導入 入社当時、先輩から「機械化」という言葉はポンパドウルでは禁句だと聞かされたことがある。生産性向上は経営方針に掲げられているが「生産性向上のために機械化したい」などと言おうものなら「一生、平社員でいる事を覚悟しろ」とまで言われたものだ。それ程までに「機械化」の言葉に敏感で拒否反応が強かった。 ポンパドウルでは焼きたての製品を無機質なステンレス製のバットに陳列して金属のトングを使うセルフサービス方式を創業当時から採用していた。販売スタッフは閉店時間が迫るとバットとトングを手で洗わなければならない。50枚近くのバットは重く、一人で一時間以上かかる。生産性向上を阻害しているこの作業を機械化すれば、生産性の改善が出来る事は誰もが分かっていた。だが何も言わない。人手で無くても作業が効率的に出来るなら積極的に機械を活用すべきだと何故声を上げないのか。改善点すら言えない風通しの悪さがあったのか。それとも本当に「機械化」への拒否反応だったのか。 売上げに繋がらない時間を作らないことが大事だという、この一点の結論が、私を洗浄器導入の提案へと駆り立てた。確実に生産性向上に繋がる確信があったし、店も導入への期待感が強かった。イニシャルコストは掛かるが負担は直ぐに回収可能である。 日頃の小さな疑問が事を大きく変える 洗浄器導入提案の準備をしていた時、事前に情報が社長室に洩れていた。情報の流失経路は読めていたが、大した問題ではなかった。ある日社長室長から「社長が待っているので直ぐ来るように」と電話で指示があった。洗浄器の件と直感した。まだ提案の時期ではないので階段を昇る社長室までの足は重かった。扉をノックして部屋に入るや否や社長が「君の考えを聞きたい」と怒りを込めた目でじっと私を見つめた。社長室で面と向かって話をするのは勿論初めてである。ただただ自重しながら実情と提案に至った経偉を説明した。長い時間だった。退室する時には隣の部屋の扉と出口を間違えるほど動揺していた。どっと疲れが出たが言うべき事は言った。 半年ほどして洗浄器の導入が決定した。導入に至った経緯は定かではないが経営陣の尽力があった事は間違いないと理解し感謝した。 順次洗浄器の導入が始まった。 「これはおかしい」「なんとかならないか」「こうしたらどうなる」といった日頃の小さな疑問や何気ない思い付きが、事を大きく変えることがある。洗浄器導入の一件はそんな私の想いからか、ポンパドウル在職中の強く深い記憶として今も残っている。 「人間三藤喜一」に触れることができた 1994年、年間の売上は80億円になっていた。その年、副社長の三藤達男氏が代表取締役社長に、三藤喜一社長が取締役会長に就任した。 以後、三藤会長が九州や中国地方の店舗巡回をする際に、私も同行するよう社長から指示があった。宿泊を伴う巡回でスケジュール調整や交通機関のチケット手配、ホテル予約など、不慣れな作業が多く緊張したものだ。 一方、仕事が趣味と言われる会長の仕事ぶりを目の当たりに出来ることと、仕事を離れた時の「人間三藤喜一」に触れられる事への興味は、ことのほか強かった。 望月 康男 販売アドバイザー。1946年神奈川県川崎市生まれ。東京都町田市在住。趣味は、ドライブ、登山、ビデオ撮影、映画鑑賞。1978年9月、株式会社ポンパドウル入社後、町田店、六本木店、伊勢佐木町店の販売マネージャー。1985年1月販売課長。1989年6月販売部長。1996年12月取締役販売促進部長。2001年10月取締役広報宣伝部長。2007年2月~2010年1月、株式会社ポンパドウル顧問。全店の接客、品質、クレンリネス、品揃えの改善点をアドバイス。株式会社ポンパドウルの成長期、成熟期に販売関連業務に携わる。 |




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