日本だけではなく世界に向けて老舗の伝統と心を伝えていく - ヨーロッパン キムラヤ - ブランスリー電子版


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レポート/2020年9月号

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日本だけではなく世界に向けて老舗の伝統と心を伝えていく - ヨーロッパン キムラヤ
古谷香住社長(左)と、古谷聖津子副社長
福井県鯖江市の「ヨーロッパンキムラヤ」
「大福あんぱん」(税込220円)
「フランスパン」(1本税込価格237円)
ショーケースとパン棚に様々なパンが並ぶ店内
「ミッシュブロード」は、4枚入(税込価格108円)で販売している
世界のパンを鯖江市の人々へ届ける

 福井県鯖江市のベーカリー「ヨーロッパン キムラヤ」は、創業昭和2年、今年で93年目となる老舗だ。初代が東京の木村屋で奉公時に関東大震災に遭い、兄の住む鯖江の地で開業、3代目社長の古谷香住さんの代も改めて木村屋總本店より認許證を受けている。同店は創業当時から「ハイカラな店」として人気を博し、2代目の古谷欽一社長の時代には、フランスやドイツで繰り返し重ねた研修で培った「本場の味」を伝える店として躍進。その頃に、店名も現在の名に変更したという。
 「2代目の頃から、当店は商品のオリジナリティーが特に際立つようになりました。2代目は『フランスパンの神様』と呼ばれるレイモン・カルヴェルさん直伝のパンを販売したり、当時の鯖江市ではとても珍しいパンを次々と伝えていたのです」と古谷香住社長は話す。
 アイデアマンだった2代目は「新しい時代に新しいパンを作りたい」という思いを強く抱いていたという。そしてその原点には「パンの中の大きな幸せ」という主軸があり、「幸せを届ける新しいパンを作ろう」という現在に受け継がれる同店の強い思いは、現在の製品やサービスにも生きている。

真心のあんパンが多くの人を動かす

 ヨーロッパン キムラヤは、昨年9月にパリ15区の「パリ日本文化会館」で開催された、ブーランジュリーエリックカイザージャポン社長の木村周一郎さんと、仏メゾンカイザー社長のエリック・カイザーさんによる「パンの変遷、明治から令和へ」と題した対談をパリ日本文化会館と共に主催した。
 同イベントでは、明治から現在までの日本でのパンの受容や変遷について対談が行われた。木村周一郎さんからは日本のベーカリーの今後について、「あの店に行くと楽しいことがある、というホスピタリティーの提供を目指したい」との話があり、カイザーさんからは「木村さんを通して品質のよい美味しいパンを日本に伝えていきたい」といった話がされた。
 同イベントは、副社長の古谷聖津子さんが、10年間にわたって、年に3回程度渡仏し、パリコレクションに参加するデザイナーを始めとする、パリで活躍する人たちに、同ベーカリーの名物『大福あんぱん』(税込220円)を差し入れしてきたことが開催のきっかけになったという。
 古谷副社長は「『大福あんぱん』を美味しいと言っていただいた方々が、美味しかったことを他の方に伝えて下さり、『大福あんぱん』が鯖江からパリに広まり、それがパリから東京に広まり、また改めて福井県の鯖江の人々に広まるという流れができました。私は日本のパンには『幸せ』という心が詰まっていると思っています。真心を届ける『大福あんぱん』の心が皆様に届き、夢と希望を持ち、同じ方向に向かって、未来を明るいものにしようと志す人たちが共鳴して実現したのが、このイベントだったと思っています」と話す。
 『大福あんぱん』は2代目が開発し、およそ40年ほどの歴史を持つ同店の名物パンだ。その名の通りパンの中に大福餅が丸ごと入っている。これは、2代目がパリに住む友人の母親から「息子に好物の大福を届けてほしい」と頼まれたことに由来している。2代目は大福の繊細な食感や味わいをパンの製品として届けるにはどうしたらいいかと考え、パリで「幸せの象徴」といわれるブリオッシュ生地で大福を包む事を思いついた。あんパンだと思って『大福あんぱん』を頬張った2代目の友人は、その中に隠された母の思いや2代目の気持ちを感じ取り、大いに驚き喜んだという。
 パンに込められた「人を幸せにしたい」という思いは、現在も同ベーカリーのパン作りの中に脈々と受け継がれている。
 「パリ日本文化会館は外務省の管轄で、農水省もこの対談を後援してくれました。あんパンの持つ力に別の形で日本のお墨付きを頂いたように思います」と古谷副社長。
 対談のお土産として来場者に配られた、バゲットと酒種あんパンも大好評を得たという。自分たちにできることを考えながら、今も、日本の鯖江市から、日本のパンの美味しさを世界に発信する同ベーカリーの試みは続いている。

オリジナリティーは味わいで伝わる

 同ベーカリーのこれからの目標は、顧客に、▼パンを通して健康で長生きしてもらうこと▼パンのある幸せな生活を送ってもらうこと、だという。
 「商品開発の時は、数種類ある自然発酵種の中から必ずひとつ以上を使用するようにしています」と古谷社長はいう。
 種の種類は、ルヴァン、パネトーネ、サワー種と多岐にわたり、入れる量も5%〜20%と大手製パンの基準と比較しても高い水準だ。
 しかし、同店では比率や個々の種の種類について客に多くを語らないという。
 「ルヴァン種は、一般に知られすでに馴染みがあります。ルヴァン種と説明すると理解されるお客様が多くなりました。それは、大手製パン企業が製品名などに取り入れて、ルヴァン種が一般に浸透したからでしょう。一般の人が認知するようになると、ベーカリーとしてもアピール出来ますし、美味しさの秘訣をわかってもらえます。しかし、パン職人同士にしか分からないようなことなら説明は行っていません。召し上がって、美味しさを楽しんでいただければ嬉しいと思ってます」(古谷社長)
 製品の売出しの方法も変化させているという。
 「いまでも、原材料の産地や、製パン職人の手作りであることをアピールポイントにする商品は多いですね。北海道産の原材料や、フランス産の材料と表示されていれば確かに美味しさを想像できます。でも、メーカーから買える原材料を使うという点では、誰でも出来てしまうのです。当店にしか出来ない技術で提供できる美味しさを考えたときに、自然発酵種にたどり着きました。それが他店には真似の出来ない私どものオリジナリティーだと考えます」
 多くを語らず、製品の美味しさで勝負するのが同ベーカリー流だ。その技術力は、創業以来、数多くの舶来のパンを、定番商品として地元に定着させてきた同店の歴史からも伺える。フランスパンやドイツパンが日本に馴染みのない頃に「珍しいヨーロッパのパン」として日本で製造して販売し、同店は次々にマスコミに注目された。そしてそれらの人気は一過性のものに終わることなく、長い間継続し定番商品として定着した。
 「眼鏡や繊維などの地場産業があるため、昔からヨーロッパに海外渡航歴がある人が多く暮らしている街なのです。地元の方も、展示会で渡欧したときにヨーロッパの食文化を体験して、同じパンや同じ食べ方が出来るお店をお求めになります。そして当店を見つけ、『欧州と同じ味のパンが食べられる』と喜んで下さる方は今も昔も多いですね」と、古谷社長。
 近年、食パンブームなども近隣に訪れてはいるが、同店は大きな影響を受けることはなく、老舗として自分達のパンを作り続け、新しい客との縁を広げているという。
 鯖江市でのコロナ禍については、「元々対面販売なのでコロナ流行中も商品の安全性は問題ありませんでした。個包装も無用ですので品質への影響に悩む事もありません。我々よりむしろお客様が事情をよくご存じで、マスクを着用され、店内が一定人数のときは入店されずに外でお待ちになられていました。こちらが多く呼び掛けなくても、消毒液など必要なものを設置しておけば、対策が自然に出来ていきました」と古谷社長。
 最後に、「これからも、真心を届けるパン、幸せを届ける美味しいパンを皆様にご提供していきたいと思っています。この街だから出来ることを常に考え、パンを精一杯作っていきます」と古谷夫妻は口を揃えた。

SHOP DATA
店名:ヨーロッパン キムラヤ
住所:〒916-0025 福井県鯖江市旭町2丁目3‐20
電話:0778‐51‐0502
営業時間:午前9時30分~午後6時
定休日:日曜、祝日
品揃え:約80品目
スタッフ:製造16人(パート含む)、販売3人
年商:1億8000万円









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