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特集/2020年4月号 |
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互いがより良い社会をつくるという認識でウィンウィンの関係を築く - ベーカリーカルテット | |||||||||||||||||||
東京都大田区、京浜急行電鉄空港線の糀谷駅南側エリアで、昔ながらの個人商店が賑わう商店街の中にある「ベーカリーカルテット」は昨年夏頃から「リベイク」のサービスに参加。店から出るロスパンを集めた「【送料無料】 フードロス削減のパンセット」(税込3000円)を販売している。以来、自分の中での意識が変わったと店長でシェフの高崎俊介さんは話す。 「以前は、余ったロスパンは捨てざるをえないという考えでした。でも今はロスパンには新しい需要があり、それを求める人がいると実感しています」(高崎さん)。 同店は2018年2月にオープン。それまで5つの店を渡り歩き16年近い業界経験があるという高崎さんは独立する前に業界では珍しく「製パン特級技能士」という資格を取得。 パンの食材や栄養価などに関する豊富な知識を店の商品開発にも活用し、「からだとこころによいものを」を目指すところとした店舗運営を行っている。全粒粉や五穀、雑穀など、忙しい毎日の中では不足しがちなビタミンやミネラル、食物繊維を豊富に含む自然素材を多く使用した健康志向の商品を展開している。 例えば、「五穀豊穣ブレッド」(1本税別440円、ハーフ220円)は、ライ麦、大麦、赤米、とうもろこし、ひまわりの種、オーツ麦、もち麦、ヒエ、キビ、アワ、米など14種類の全粒穀物が混じり合う食パン。独自の製法で作り上げた穀物の旨味と香りが感じられる製品で、栄養素を多く含み身体にも優しい商品となっている。 また「シリアルブレッド」(大サイズ税別260円、小サイズ税別160円)は食物繊維たっぷりで栄養満点なマルチシリアルとレーズンから起こした「自家製天然酵母」を使って作ったパン。亜麻仁やヒマワリの種、オーツ麦、麦芽粉、大豆フレーク、トウモロコシ、胡麻、小麦ブランなどバランスの良い雑穀の配合で、モチモチとした弾力感のある生地にほのかな甘みと雑穀のプチプチとした食感と香ばしさを加えた。 高崎さんはこうした商品に関する説明を、店内の商品ポップや張り紙を通じて詳しく説明。食に関する意識や敬意を高めていく中で、フードロス問題にも自然と興味をもつようになっていった。 「将来的な事を考えると、フードロス問題について対策を考えていくのは良い事だと思います」(高崎さん) 以前の職場ではロスパンは捨てる事が当たり前だった。その傾向は大手ほど強く当時は不思議に感じていた。 店によっては翌日まとめ売りをする場合もあるがブランドイメージを大切にする場合は商品価値を下げるからと敬遠しがちだ。 大手で食パンを大量に出すところなどは特に廃棄ロスが大きく、毎日平気で2、3箱分位の量を捨てている姿を見て高崎さんもさすがに疑問に思う事もあったという。 |

高崎さんは独立してから約1年半経ってから「リベイク」のサービスに参加。配送業者であるヤマト運輸に店の閉店後に週3回来てもらっているが、配送業者が来るまでの1時間くらいの間に、パートスタッフと二人でロスパンの包装と梱包の作業を行う。 週3回のみとはいえ、なるべく丁寧に梱包し商品の説明や購入者への感謝の手紙なども入れるため、ある程度の負担はかかる作業だが、結果的に購入者から予想外の大きな喜びの声をもらえる事にとても驚いたという。 「リベイク」のサイト内で同店を紹介しているページでは、「箱一杯のパン、ありがとうございます。手書きのメッセージと、パンのリストも、作り手の愛情が込められているのが伝わってきました」「リピでしたが前回とは違う種類のパンをたくさん送ってくださり気遣いに感激です。今回も箱いっぱいに詰められており、どれも美味しそうで食べるのが楽しみです!」「梱包もお手紙も もちろんパンもすべて丁寧に作られていて、本当に美味しかったです」といったコメントが並んでいる。 「すごく感動してくださっているのが嬉しいですね。直接感想を聞く機会があまりなかったので、今までにはない経験をしていると感じています」(高崎さん) また、以前は自分の経験や勘などを頼りに1日の必要量を綿密に計算してパンを作っていたが、予想外の天候悪化などがあるとどうしてもロスパンが出てしまう事もあった。 こうした事もあり、夕方に出す分のパンの量はどうしても控えめにしがちだったが、「リベイク」に参加後は夕方でもある程度厚みのある商品展開ができるようになり、チャンスロスが減ったと感じている。 「夕方のお客様は昼間に来るお客様とはまた違ったライフサイクルを送っていると思うので、その層にうまくアピールできるような商品を出せるようになった事はとてもありがたいですね」(高崎さん) また「リベイク」に参加している他の店を知る事で、自分の店の運営だけでは分からない新しい視点や他店のこだわりがわかるようになった。「リベイク」に参加している店は個性の強い店が多いと高崎さんは感じている。高崎さんの店同様に雑穀にこだわりのある店もあることもわかった。 「刺激を受けますね。パン屋に関わらず雑穀にこだわる店同士でネットワークを作ったら面白いかもしれません」(高崎さん) |

利益追求だけでなく社会貢献の意識が必要
郄粼さんが「リベイク」に参加し始めた昨年は、ちょうど社会的にフードロス問題への注目が盛り上がっていた時期と重なるという。 「世界的な食糧問題という観点で考えると、将来的には人類全体で食糧が不足していく試算になるとはよく言われていますが、その中で自分ができる事を考えたらロスパンを削減する取り組みになるのかなと考えました」(郄粼さん) もちろんロスパンを販売すれば、廃棄してしまえば0の売り上げをある程度増やす事ができるので、利益面でのメリットも多少はある。ただし、ロスパン販売の活動に参加するには、根本的な意識を利益追求とは違うところへ持っていかないと、厳しいのではと郄粼さんは考えている。 ベーカリーにとっては、ロスパンを届ける事で消費者に感謝してもらえて、予想外に大きな喜びの声を受けとる。それはとても嬉しく感謝するしかない事だ。 「ただその分、梱包して送るなどある程度の負担もついて回ります。そしてそれがあまりに雑であると消費者の方にもがっかりさせてしまいます。ただ消費者の方も、受け取るのはロスパンであるという認識がないと。ベーカリー側がすべての要望に応えてくれるというわけではなく、期待通りのものがくるとは限らないのです」(郄粼さん)。 だから通常の売買とは異なり、お互いが最終的には社会をより良く変えていくための行動だという認識を持つ必要がある。 「ベーカリー、消費者、運営者である『リベイク』の3体がウィンウィンの関係を作らないと、システムを成立させていくのは難しいかもしれません」(郄粼さん) SHOP DATA 店名:ベーカリーカルテット 住所:〒144-0047 東京都大田区萩中2-7-12 ST萩中101 電話:03-6715-1370 営業時間:午前8時~午後7時 定休日:火曜 約60品目 スタッフ:製造常時1~2人、販売常時1~2人 店舗面積:売場6坪、厨房20坪 日商:平日10万円 土日14万円 |
ロスパンの販売で得た出会いは、モチベーションアップにつながった - ベーカーズプレイス | |||||||||||||||||||
千葉県市川市の行徳駅から徒歩8分ほどの場所にあるベーカリー「ベーカーズプレイス」は、昨年6月頃からロスパンを中心としたパンの通販サイト「リベイク」に参加。以来、毎日午後7時の閉店後は余ったパンを「お助けパンセット」(送料・税込3600円)というセット商品として箱詰めし「リベイク」登録会員へ送る作業を行っている。 配達は5月〜10月までは冷蔵クール便で送るが、寒い時期は常温で送る。その代わり送り先は関東圏のみに限定。それでも登録会員からの予約は常に30件以上あり人気だ。 同店のオーナーでシェフの番匠賀夫さんは、神戸の老舗ドイツパン店で修行後、横浜のホテルベーカリーで12年修行。その後、2007年に独立し出身地である市川市で同店をオープンさせた。これまで様々な形で地域住民の要望に応え、高齢者を中心とした常連客に支えられながら、ベーカリーとして安定的な成長を遂げてきている。 小規模店である同店は番匠さんがほぼ一人で製造を行うが、週末になると100種類以上もの種類豊富な商品が並ぶのが特長だ。その品揃えは、ライ麦や全粒粉が入った日替わりの「自家製天然酵母」パンから、ハード系のフランスパンや酒種を使って低温長時間発酵させた食パン、季節の食材を使ったソフト系の惣菜パンから菓子パン、デニッシュやラスク、クッキー、ケーキなどの洋菓子類まで多岐にわたる。 「種類が豊富すぎて買うのに迷っていただけるようにしたいと思って」と店のスタッフで番匠さんの妻の元美さんは話す。常連客も新規の客も店内で迷いながら商品を選ぶ楽しさを感じて欲しいという番匠さんの思いが篭った品揃えだが、その一方で、ひとたび天候が悪くなったりすると、1日1回の焼成であってもどうしても閉店時に余る商品が出てきてしまう。 こうしたロスパンに関しては、以前は、店のスタッフが食して消化しそれでも余ったものは廃棄といった形をとってきたが、「せっかく作ったパンを廃棄するのはやはり心が痛みました」と元美さんは話す。 廃棄はルーチンワークでありながら何とかならないかという思いもあり「リベイク」のサービスに参加する事になったのだという。 |
同店からリベイク登録会員に向けてロスパンを発送するのは、元美さんの役割だ。元美さんはHPやフェイスブックの更新などSNSでの情報発信も担当し、実際にロスパンを購入したリベイク会員からの反響の声も逐次チェックしているが、多くが喜びや感謝の声で占められている事に当初はだいぶ驚いたという。 「正直、発送の負担に対して売り上げや利益がどれくらいあるのかと考えるとそう多くはなかったのですが、ロスパンを受け取ったお客様からの喜びの声が大きく、それにとても励まされて、続けようという気になりました。それに店頭では会えないような遠くの人に当店の商品を食べてもらえるというのもやはり嬉しいですね」(元美さん)。 実際に「リベイク」上での同店のページを見ると、「箱いっぱいにぎっしりと入っていて、たくさんのパンが届き長い間楽しむ事ができて嬉しい」「宝箱を開けるようなワクワク感があった」「いろんな種類のパンが入っていて 自分では普段買わない様な物も! でも、それが美味しくて!!新しい発見がありました」「量が多いのに、ひとつひとつ名前や材料が細かに記されていて、丁寧で誠実なパン屋さんだなあと思います」といった喜びの声が並んでいる。 普段店頭で接客していても、こうした細かい感想を直接聞ける事は少ないので、ネット上でこういった声を聞けるのは大きなモチベーションになるという。 ロスパンの趣旨を理解してもらう 元美さんは、これまでリベイクでのやり取りの中で特に大きなトラブルはないが、「ただまだ『リベイク』を通じてロスパンを送るということの趣旨が伝わっていない人もいるのではないでしょうか」と話す。 一度、箱に入っていたパンの個数が「17個しかなくハズレ」というコメントを入れてくれた購入者がいた。 「ロスパンですので、一箱分のセット価格は同じでも、箱の中に何が入ってくるのかはその日によって違います。通常の販売と違い決まったものを決まった個数でお渡しできるものではないのですが、ただそのコメントを頂いてからは、念のため一箱の中に20個以上の商品を入れるようになりました」(元美さん) ロスパン譲渡の場合、ホスピタリティー精神にのっとった通常の接客販売と異なり、みんなで社会を良くしていこうという気持ちで繋がっていくものでなくてはならない。単純に利益やサービスの善し悪しだけで繋がれないから時には購入者の要望には応えられないこともある。 それでも、「マヨネーズやレーズンを入れる商品は避けて欲しい」など、可能な範囲で購入者の要望には応えている。 またなるべくは種類を偏らせず、余ったパンの中では様々な商品を入れる事で20個以上の商品が入るようにしている。 同封の手紙にはパンの美味しい食べ方なども記載、賞味期限とパンの種類、材料なども書き、受け取った人が楽しみながらパンを食べる事ができるように、心配りだけは忘れないようにしている。 |
元美さんは最近、「リベイク」に参加したことで、結果的に店の情報発信の機会が増え、ネット上での検索数も増えたのではと感じている。「リベイク」を通じて店の事を知った購入者や、その紹介で、実際に店まで来て買いにきてくれるようになった人もいた。 元美さんにとってロスパンを発送するための作業は大きな負担ではない。実は同店はもともとギフト商品の販売には力をいれている方だった。発送の際のラッピングの手際の良さにもつながっている。今後はできれば、ロスパン以外のギフト品も『リベイク』のサイトを通じて販売できるようになればと考えている。 同店の売り場には入り口近くの場所に、雑貨などを販売するスペースがあるが、そこと隣り合わせる形で洋菓子やパンをギフトとして購入する事をすすめるコーナーがある。もっぱら洋菓子が中心だが、実はパンをギフトにする事もまだ一般的ではないが、すすめている。 「パンは日持ちしないイメージが強いため、まだギフトとしての認知度は低い状況ですが、すぐに冷凍して、食べたい時にトースターやレンジで温めれば買いたての時と同じようにおいしく食べられます。この事をもっと伝える形で、ギフト商品として売れるものを今後はもっと作れればと考えていますね」(元美さん) ロスパンの場合、あらゆる種類の商品をなるべく網羅した形で箱に詰めるが、通常のギフト商品の場合、何か単品で特定の商品ばかり入れる形で発送できればと考えている。 店にとっては大きな挑戦となるが、ギフトにすることで単価も上がるほか、「この店にしかない商品」という付加価値を理解してもらう事ができる。 「今まで、基本的には地域密着の店舗運営をしてきましたが、遠くに住む方達に当店のパンやお菓子を食べてもらい喜んでもらう事もとても嬉しいですね。増税など経済環境の変化からベーカリーの市況も厳しくなってきているので、ギフトも含めてちょっとずつ色々な事に挑戦していければと考えています」(元美さん) SHOP DATA 店名:ベーカーズプレイス 住所:〒272-0136千葉県市川市新浜1丁目1-1 アビタシオン薮崎 1階 電話:047‐399‐8883 営業時間:午前9時30分~午後7時 定休日:火曜、第3水曜、その他不定休 品揃え:平日60品目、週末100品目 スタッフ:製造常時1人、製造補助常時1人、販売常時1人 店舗面積:売場7.5坪、厨房7.5坪 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。