製パン材料問屋がみる現代ベーカリー事情 - ブランスリー電子版


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特集/2002年8月号

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製パン材料問屋がみる現代ベーカリー事情

ベーカリーに最も近いところで仕事をする製パン材料問屋の社長などに、ベーカリーの繁盛の要因などについてインタビューした。「他人の味覚をとり込めるだけの懐の深さ」「研究熱心であること」「パン作りに対する独自の基準」などといったキーワードが浮かび上がってきた。



自分の味覚に自信があり、他人の味覚にも興味がある - OYTフーズ(大阪)



いかに早く変化に気付くか
質問 店を繁盛に導く要因は?
答 オーナーの味覚です。繁盛店のオーナーは、自分が食べておいしいと思うパンしか出しません。納得のいかない製品は絶対に許さない。
質問 オーナーがおいしいと思っても売れない場合もあるのでは。
答 自分の味覚を押しつけたりはしません。自分の味覚に自信を持っている反面、他人の味覚にも興味があり、それを取り込むだけの懐の深さがある。ある店では、新商品をスタッフに試食させ、商品化すべきかどうかについて話し合います。最終的にはオーナーが決めるのですが、スタッフの意見を取り込んでいる分、練れているわけです。オーナーの独り善がりではなくなっている。
質問 スタッフ全員とはいっても、普遍性を期待するには少ないのでは?
答 スタッフの意見を取り込める器の大きさがあれば、なぜ売れないかを考えられます。そこが大事だと思います。それと、そういうオーナーは販売というか接客を重視します。お客さんと接することで、情報が得られるからです。お客さんの声をきちんと受け止めるだけの懐の深さがなければうまくいきません。本当の情報を得るためには、誠意を持ってお客さんと接しなければなりません。やはり人柄です。
質問 不景気の中で苦戦している店も多いのでは?
答 売れなくなる兆候をいかに早い時点で感じ取れるかが重要だと思います。そのためにも接客が大事だし、スタッフの思いを感じ取ることが大切です。一貫性をもって、自分のポリシーを吐き出す出口と外からの刺激を取り込む入り口の両方をいっぱいに広げておかなくてはなりません。
質問 知らない間に取り返しがつかないほど売上が落ちてしまうケースもあるのでは?
答 1ついえるのは、製造スタッフがお客さんと接する機会が少なく、製造の立場が販売より圧倒的に強いと、変化に気付きにくいということです。売上が落ちてくるとオーナーはスタッフにきつくなりがちです。すると、スタッフの戦意も落ちてきて悪循環に陥ってしまいます。

一貫性が個性を生み出す
質問 繁盛店の条件とは何ですか?
答 オーナーの一貫性だと思います。オーナーの味覚、センス、考え方などはいつのまにかスタッフに浸透し、店の個性になっていきます。自分を最もよく生かせる方法論を確立したオーナーは、個性的であり、そのオーナーの店は生き生きとしています。繁盛店はそれぞれ違う個性がありますが、一貫性があるという点ではみんな同じだと思います。
質問 話は変わりますが、最近動きのいいパンの素材はありますか?
答 最近の一番大きな話題はやはり低インシュリンダイエットですね。ライ麦粉を50%以上配合して、しかも日本人の口に合うパンができるミックス粉をある製粉メーカーと共に開発し、近くユーザーさんに提案する予定です。ライ麦粉が50%以上でないと、低インシュリンダイエットで実質的な効果がないということがわかり、このミックス粉を提案していきます。
質問 ベーカリーとはどんな商売ですか?
答 日本ではパンは主食にはなれないと思います。それをしっかりと受け止めた上で、進んでいかなければならないと思っています。ベーカリーは、「ちょっとおいしいおやつ」「おいしい食べもの」を庶民的な価格で提供できる点が強味だと思います。

繁盛店は、それぞれ個性は違うが、一貫性では共通している。情報を自分で消化できるか。



大きな目標に向かってまず何をしたらいいか… - 問屋A(関東)

繁盛店のオーナーは研究熱心
質問 売上を伸ばして、健闘しているベーカリーのオーナーに共通することはありますか?
答 オーナーによって異なりますが、研究熱心という点では一致していると思います。ある人は種を熱心に研究し、ある人はフィリングについて追及しています。自家製の種を起こしたり、半既製品の種を使用したりと、試行錯誤を重ねて自分が理想とするパンができるように努めています。フィリングにしても、自家製のものを作ったり、厳選した仕入れ商品を組み合わせて加工したり、仕入れのフィリングをそのまま使ったりしています。自家製なら何でもいいというものでもなく、自分で考えて使い分けることが大事だと思います。
質問 オーナーごとにこだわるところが違うということですか?
答 開発スタッフを何人も抱えているわけではありませんから、すべてをカバーすることはできません。ある特定の事柄についてこだわっているというより、「入り口はどこか」ということだと思います。すなわち、例えば、ヨーロッパ系とか、健康志向とか、バラエティーとか、そのオーナーが目指す方向があって、その方向に進んでいくためには、まず何をやるべきかということです。「種を追求しきった後は、フィリング」という具合で、時期によって興味の関心が変わるということはいえると思います。それが進化ということなのではないでしょうか。自分の生き様を形にしようと一所懸命なっているということでもあると思います。

情報をうまく伝達する能力
質問 その他に繁盛店のオーナーに特有の事柄はありますか?
答 ある繁盛店のオーナーからは、自分の思いを正確に伝えようとする強い意思を感じます。情報を伝達する能力があるように思います。
質問 それは具体的にどういうことですか?
答 ある繁盛店に行ったときに、オーナーと話していると、すごく自然な感じで紅茶が出てきたんです。パンに対する思いを伝えたいという情熱みたいなものがとてもいい感じで伝わってきました。少なくとも私はそう感じ、そのオーナーの話をもっと聞きたい、と自然に思いました。多分、店のお客さんに対しても、同じように接しているであろうことが容易に想像できました。客をもてなすということの原点だと思います。

パンが美人でない。スランプはある
質問 逆に苦戦を強いられているベーカリーは何が原因なのでしょうか?
答 「心がこもっていない」「パンが美人でない」などというフレーズが浮かんできます。新商品として出したときはそれなりに作っていても、だんだんこなし仕事になり、品質が落ちてくるというようなケースによく出会います。
質問 常に全精力をもって仕事を続けるというのは不可能なのでは。
答 誰にもスランプはあると思います。面白いと思って、新しい素材を持っていくとすぐに試作に取り掛かっていた人が、急に新商品開発をしなくなってしまったというケースもありました。後で聞くと「あの時期は精神的にスランプだったんですよ」という答えが返ってきました。お客さんに背を向けられる前にスランプを脱しなければ、死活問題ですよね。
質問 最近動きのいいパンの材料はありますか?
答 大きな流れですが、「白いパン」から全粒粉やライ麦粉などが入った「色のついたパン」への移行はすこしずつ、しかし着実に進んでいるように感じられます。

目指すベーカリー像に近づくために、様々な事柄を一つ一つこなしていく。それが進化だ。



ベーカリーの独自性とは、パン作りに対する基準を持つこと - 問屋B(関東)

健闘の要因は店によって違う
質問 この不景気の中で健闘しているベーカリーはありますか?
答 数は多くありませんが、あると思います。
質問 健闘している要因は何でしょうか?
答 お客さんがまた来たくなるような店作りをしているかどうか、お客さんが食べたくなるような、買いたくなるようなパンを作っているかどうかだと思います。
質問 具体的には?
答 店によっていろいろです。ある店は、広くて、従業員も多く、店に活気があり、パンのバラエティーが豊富で、楽しさがあります。お客さんの滞留時間も長い。値段のつけ方が絶妙で、ほんのすこしだけ値頃感があるという感じにしています。そういう値段のつけ方が、最もいいということが、お客さんと接しているうちにわかったのだと思います。ある店は、狭いけれど、健康志向を打ち出して成功しています。その打ち出し方が絶妙で、健康意識の高い人の心をしっかりと捉えている一方で、そうではない人たちのニーズもつかんでいます。お客さんと接してきた中で培われたセンスだと思います。

何をやるにしても独自の基準が必要
質問 そのほかに健闘している理由として考えられることはありますか?
答 やはりセンスのいい人はいるものです。そういう人は、トッピングの仕方にしても、成形の仕方にしてもちょっと違います。色彩のセンスもいい。お客さんが買いたくなるパンを作りたい、という思いがベースにあって、センスが磨かれていくのだと思います。それと衛生管理がきちっとしているベーカリーは概して優良店である場合が多いですね。
質問 小さなベーカリーが生き残っていくためには、独自性を出さなくてはならないとよくいいますが…。
答 その通りです。小さな店の場合は、店の独自性とはすなわち、オーナーのキャラクターというか、個性であるケースが多い。フランスのパンしか作らないというのもいいし、菓子パンや調理パンなどあらゆる分野のパンを幅広くこなすのもいいと思います。大切なのは、それぞれの店独自の基準があるかどうかということです。ある繁盛店は、品揃えが幅広く、菓子パンや調理パンが売れ筋になっています。しかし、菓子パンでもその店の基準に合わないものは出しません。調理パンについても同じです。それが「オーナーのセンスが光る」ということだと思います。

苦戦の理由は実力不足
質問 逆に苦戦しているベーカリーは、何が原因なのでしょうか?
答 実力不足が原因だと思います。
質問 脱サラでベーカリーを始める人などに多いのでしょうか?
答 ベーカリーで長く修業を積んだ人でも実力不足と思われる人もいるし、逆に脱サラで短期間でパン作りを習得した人でも実力のある人もいます。パンにかかわってきた時間はあまり問題ではなく、おいしいパン、お客さんがほしがるパンを作りたいという思いがどれだけ深いかで決まるような気がします。
質問 最近動きのいいパンの材料はありますか?
答 「天然」とか「自然」をキーワードにした材料の動きがやはりいいようです。練り込み用に玄米を加工した素材などはよく売れています。ライ麦粉、黒小麦粉なども動きがいいですね。小麦粉以外の雑穀類は需要が増加傾向にあります。

顧客においしいパンを食べてほしいという思いが、パン作りに対する独自の基準を生み出す。



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