ベーカリーのギフト戦略 - ブランスリー電子版


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特集/2017年11月号

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ベーカリーのギフト戦略




普段使いの食パンに付加価値をつけたギフト - ブランジェ浅野屋
「香る信州食パン」シリーズの「小麦」(税込432円)
「ブランジェ浅野屋」松屋銀座店では軽井沢の本店同様の対面販売形式の売場を継続。客とのコミュニケーションを最重要視した店舗運営を行っている
「香る信州食パン」シリーズの「カカオ」(税込648円)
「香る信州食パン」シリーズの「紅茶」(税込648円)
売場で陳列された「香る信州食パン」シリーズ。材料や製法のこだわりを店頭のポップで伝えると同時に、包装にさりげなく贈答向けの紙帯をつけた
紙帯でさりげなくギフト提案

 東京・銀座の老舗デパート「松屋銀座」の地下1階食料品店街の一角を占める「ブランジェ浅野屋」松屋銀座店は、今年7月から新たな試みとして食パンのギフト商品「香る信州食パン」シリーズの販売を始めた。
 「松屋銀座店は店舗立地もあり、ちょっとした手土産の需要が高いようです。そのため普段使いの食パンに少し特別感を出したギフト商品として立案しました」と同店を運営する浅野屋の東京直販部販売促進担当チーフの高木曉子さんは話す。
 「香る信州食パン」シリーズはプレーンの「小麦」(税込432円)とフレーバー商品の「カカオ」(税込648円)、「紅茶」(税込648円)を展開。信州産小麦を使用した生地を牛乳で仕込み一晩じっくり発酵させる。コクとほのかな甘み、しっとりとしてもっちりとした柔らかい食感、素材本来の旨味を引き立てる香ばしい香りなどを特徴としている。
 材料や製法のこだわりを店頭のポップで伝えると同時に、ギフト用途として提案するため、包装にさりげなく贈答向けの紙帯をつけた。ただしギフト商品として提案する一方で、箱詰めの包装はあえて行わないという。
 「ベーカリーのギフトの最大の魅力は、日常使いの商品に気持ちを込め贈答できる事だと思います。箱詰めにして仰々しさを出すよりも、ちょっとした紙帯をつけることで気軽に特別感を出し、価格的にも無理のない範囲で提供していきたいですね」(高木さん)
 また普段から自分が好んで食べている商品に付加価値をつけたものであれば、選ぶ上でも安心感があるのではないかと高木さんは話す。
 「お歳暮やお中元などで贈られるような『非日常感』のある畏まったギフト商品とは対照的ですが、日常の商品であるという事がベーカリーのギフトの最大の魅力ではないかと思います」(高木さん)

日々の接客で生まれた商品

 「ブランジェ浅野屋」は、1933年(昭和8年)に東京・麹町で開業した「浅野屋商店」を始まりとし、軽井沢に出店、軽井沢の別荘族や海外からの賓客などからも長く愛されてきた名店だが、現在では、長野県軽井沢町の3店舗のほか、都内、横浜などに8店舗、シンガポールに3店舗の計14店舗を展開する。
 松屋銀座店は2000年にオープン。都内に進出した店舗の中には2006年にオープンした自由が丘店のようなセルフサービスの店も徐々に増えているが、松屋銀座店は軽井沢の本店同様の対面販売形式の売場を継続。客とのコミュニケーションを最重要視した店舗運営を行っている。
 「『香る信州食パン』シリーズもこうした接客での対話を通じ、食パンをギフトにしたいというお客様からの声を直接聞いて生まれた松屋銀座店限定の商品です」(高木さん)
 そのため発売にあたっては、常連への口頭での伝達のほか、SNSを通じての情報発信も実施。材料や製法にこだわりがある食パンであることを、文章を通じて伝えた。発売当日は興味を持ってくれた常連客や売場を訪れた新規客への説明と試食販売を強化。以降、試食販売は夕方や週末を中心に定期的に行うと同時に、店頭で配布するチラシに色々な食べ方の説明を記載するなどして提案を強化している。
 「チラシでは人気の『バタークリーム』(税込378円)を塗る食べ方や、フレンチトーストにするとふわふわの仕上がりになることなども伝えていますね」(高木さん)
 こうした販促が功を奏したのか、発売してまもなく「香る信州食パン」シリーズは松屋銀座店で1日100斤ほど売れるようになった。今では一番の看板商品である「軽井沢レザン」シリーズに次ぐ人気商品だ。
 ただし、同シリーズをギフト商品として提供するのは、顧客の要望に応え商品自体の人気を上げる事以外に、別の狙いもあるという。それは「おもたせ品」を通じての口コミ浸透効果だ。
 「『香る信州食パン』を通じ『浅野屋』自体を知って頂くきっかけになればとも思います。敷居の高すぎない『おもたせ品』だからこそ広げやすいのではないかと思います」(高木さん)



東京駅構内の「グランスタ店」で販売する「軽井沢ロイヤルブレッド」(税込540円)も食パンをテーマにしたギフト商品だ
一番の看板商品である「軽井沢レザン」シリーズの「軽井沢レザン」(100グラム税込195円、ホール税込3499円)。その他「軽井沢ブルーベリー」(100グラム税込216円、1台税込3888円)や季節限定商品の「軽井沢焼きりんご」(100グラム税込216円、ホール税込3888円)なども販売している
人気定番商品の一つの『フルーツライ』(税込1253円)。5月前から販売する母の日ギフトセットの詰め合わせの中に入れられる事も多い
軽井沢旧道本店でのお土産需要から出した焼き菓子のラスク「浅野屋ラスク シュガー」(6枚入り、税込702円)
軽井沢旧道本店併設のレストランで提供していたビーフシチューの味を再現したレトルトパック商品「昔ながらのビーフシチュー」(税込918円)
初来店の客の取り込みに一役買う

 実は「松屋銀座店」は、「ブランジェ浅野屋」の中ではコンセプトショップとしての位置付けにある。
 デパート地下食料品店街の中にあるという立地を生かし、チーズやハム、ディップや蜂蜜など食事パンと組み合わせた食べ方の提案を、販売スタッフを通じ強化しているが、これは「ブランジェ浅野屋」のパンをより深く知ってもらうために必要なことだという。
 「当店の特徴は、一見さんで、まだ当店のことをよく知らない方も多く訪れることです。銀座という立地もあって毎日多くの方が訪れますが、そういう方たちへ色々な提案を強化していく上でも今回のギフト商品はより足がかり的なものになったという感じですね」(高木さん)
 また、「香る信州食パン」シリーズでは製法のほかに、素材である小麦の魅力に焦点を当てているが、実は同店を訪れる客が40代以上で比較的年齢層が高く、健康志向で原料へのこだわりが強い傾向にある事も意識している。
 「今後もギフト商品として定着させていきたいですが、接客を通じてお客様から得た反響や要望をなるべく取り入れた上でラインアップを社内的に検討していきたいと考えています」(高木さん)

様々なテーマでギフト商品を販売

 実は、「ブランジェ浅野屋」がこれまで販売してきた食パンをテーマにしたギフト商品としては、2012年から東京駅構内の「グランスタ店」で販売している「軽井沢ロイヤルブレッド」(税込540円)がある。こちらは昭和初期の軽井沢店で販売し当時の別荘族に愛された味を再現したイギリスパンだが、全体的に電車の形を彷彿とさせるパンの形に合わせたブルーの紙帯で包装。新幹線への乗り換えなどで東京駅を訪れる旅行客を意識した商品として人気だ。
 また毎年5月前にはオンラインショップと一部店舗で、「母の日」ギフトのセットも販売。「軽井沢レザン」シリーズ3種や「フルーツライ」などの人気の定番商品の詰め合わせで、好評を得ている。
 ただしパンをギフトにする上では注意事項もあるという。
 「当然ですが、贈り物がパンの場合、日持ちがしない商品であることを念頭において贈り方を考えなくてはなりません。なるべくすぐに渡せて、すぐに食べてもらえる相手に、心を込めて贈れる品である事を伝えていきたいですね」(高木さん)
 実は、長期保存可能なものについては、軽井沢旧道本店でのお土産需要から出した焼き菓子のラスクや、本店併設のレストランで提供していたシチューの味を再現したレトルトパック商品などの販売も行っている。軽井沢からの日持ちするお土産として販売していたものだが、顧客からの要望もあって都内の店舗でも販売するようになった。
 「戻ってからも、軽井沢の味をもう一度思い出したいというような方に向けたものです」(高木さん)
 形は様々だが、日常の中でちょっとした変化を与えてくれる商品が、ギフト商品の枠を超えて定番品として受け入れられつつある様子が窺える。

SHOP DATA
店名:ブランジェ浅野屋 松屋銀座店
住所:〒104-0061東京都中央区銀座3-6-1 松屋銀座地下1階
電話:03-3561-5170
営業時間:午前10時~午後8時
定休日:なし(松屋銀座店の休業日に準ずる)
品揃え:100品目



焼き菓子はギフトと焼きたての両面から訴求 - サガミパン工房 ブンブン 本店
左はギフト用の「メープルラスクBOX」(税込1350円)、右はギフト用の箱「おうちBOX」(大サイズ税込200円、小サイズ税込150円)
プレーン、チョコ、抹茶、キャラメルと4種類ある「焼きドーナツ」(税込184円)、「パンドジェーヌ」(税込151円)、どら焼きの「文どーら」(税込162円)など
店長の内田達也さん
ツバチをモチーフにしたロゴマークが付いた看板が立つ「サガミパン工房 ブンブン 本店」
多種の商品を詰め合わせるギフトボックス

 ミツバチをモチーフにしたイラストを描いた看板が立つ、神奈川県厚木市のベーカリー「サガミパン工房 ブンブン 本店」。看板には店名も書いてあるが、イラストは店名と同じくらい強い印象をもって目に入ってくる。
 「このイラストは、開業当初から当店のロゴマークとして、看板や買い物袋などに付けています。ギフト用の箱『おうちBOX』も、買い物袋と同じように、ロゴマークの付いたデザインとなっています」(店長の内田達也さん)
 同店の商品をプレゼント用に詰めることができる「おうちBOX」と名付けた箱は、大小2サイズを用意している。価格は、大が税込200円、小が税込150円だ。「おうちBOX」は、その名の通り蓋の部分が三角の屋根のような形になっており、同店の店舗入り口部分にある特徴的な三角屋根を想わせる。側面にはロゴマークが付いており、箱全体で同店を象徴するようなデザインだ。
 「『おうちBOX』は、開業当初ラウンド型の食パン『ブンブン丸食パン』(プレーン税込346円、メープル税込562円)専用に考えていました。人気の『ブンブン丸食パン』をお土産にする方が多いのではないかと見込んだからです」(内田さん)
 ところが、実際の使われ方は予想と違った。
 「『ブンブン丸食パン』を、『おうちBOX』に入れる方はあまりいらっしゃいませんでした。ギフトとしてご購入される方はいらっしゃるのですが、その場合、箱は使わず通常の買い物袋のままという方がほとんどです。『おうちBOX』を使うお客様のほとんどは、ラウンド食パン一本とか、一種類のものだけを入れるのではなく、ちょこちょこと、いろいろな種類の商品を詰め合わせます。もらう側にとっても、きっと、箱を開けたときにいろいろな種類が入っていた方が、目に楽しく、うれしく思うのではないかと思います。『おうちBOX』の使い方は、当店からの提案というより、お客様によって確立されてきました」(内田さん)

菓子を豊富に揃えてギフト用に包装

 「サガミパン工房 ブンブン」の地主将人社長は、同本店を含め県内にある5店舗のベーカリーを経営しており、そのうちの小田原店の隣に菓子工房を設けている。同本店から車で30~40分の菓子工房では、各ベーカリーの店舗で販売する菓子を製造している。そのため、ベーカリーが販売する菓子としては、かなり豊富な品揃えとなっている。
 「サブレ」(税込216円)や「焼きドーナツ」(税込184円)、「マカロン」(税込162円)、どら焼きの「文どーら」(税込162円)などは、同菓子工房で製造。「シュガーラスク」(税込270円)や「パンドジェーヌ」(税込151円)、「くるみとクランベリーのスコーン」(税込184円)などはベーカリーで製造し、「アップルパイ」(税込108円)と「チーズタルト」(税込162円)は、菓子工房で焼成前まで製造して冷凍し、各ベーカリー店舗に運んだ後、焼成し焼きたてを並べるようにしている。
 「日持ちの面では、パンより菓子の方がギフトに向くので、お盆や年末年始などは菓子の製造数を増やしていますし、事前に予約を受けるようにもなってきています。特にお盆や年末年始の帰省土産として人気なのは、『メープルラスク』(2枚入税込76円)や『文どーら』、『アップルパイ』、『焼きドーナツ』などで、これらは専用のギフトボックスをご用意したり、事前に詰め合わせて販売したりしています」(内田さん)
 「メープルラスク」は、2枚入りの個装タイプがあり、その個装タイプを15個を箱詰めした「メープルラスクBOX」(税込1350円)を、ギフト用として販売している。
 「アップルパイ」と「文どーら」も専用の箱があり、どら焼きの「文どーら」の箱は和風を意識したデザインとなっている。
 「焼きドーナツ」は、プレーン、抹茶、キャラメル、チョコと4つの種類を作っているので、「おうちBOX」にそれら4種類を彩りよく詰め合わせてギフト用に販売している。この「おうちBOX」に「焼きドーナツ」を詰め合わせてギフトにする方法は、客からの提案で始まり、今では同店の定番のギフト商品となっている。



イラスト付きの袋は、無料のラッピング袋としても重宝する
「ココナッツラスク」(右、税込270円)と「コーヒーラスク」(左、税込270円)は、オレンジ色や緑色の紙皿を底に敷いて、見た目を華やかにし、座りを良くした
「もっとかわいくしたい」とスタッフがイラストを手直しして新しくした買い物袋
手前のレジ近くにある台には、「焼きドーナツ」(税込184円)やラスクなどの焼き菓子が豊富に並ぶ。「メープルラスク」(2枚入税込76円)は、ギフト用の箱入りもある
焼きたてのおいしさも味わってもらう

 最後の焼成だけを各ベーカリーで行うようにしている「アップルパイ」や「チーズタルト」などのように、ギフト用に箱詰めされたり個装されたりする焼き菓子でも、焼きたてにこだわっての販売もしている。
 「『アップルパイ』と『チーズタルト』は、焼いた当日は焼きたての味を楽しんでいただきたいので、そのままの状態で陳列します。当日限りのパンと違って、『アップルパイ』は6日間、『チーズタルト』は5日間日持ちしますので、焼いた翌日は袋で個装して販売します。『フィナンシェ』も、焼いた当日はまわりのサクサク感と中のふわふわ感がより引き立つおいしさなので、そのままの状態で陳列し、翌日は袋に入れて全部で7日間販売できる商品となっています。『くるみとクランベリーのスコーン』や『パンドジェーヌ』も同じ方法で販売しています。また、『パンドジェーヌ』は年間通して焼き菓子の中で一番売れている商品なのですが、日持ちが一週間するのと、手頃な価格、シンプルなおいしさが人気の理由かと思っています」(内田さん)

気軽に使えるギフト用の簡易包装

 同店は、今年6月に開業10周年を迎えた。看板や「おうちBOX」に付いているミツバチのロゴマークは、この10年間、パンの味とともに顧客に浸透してきた。
 「正式なロゴマーク自体は変わっていないのですが、買い物袋などのイラストは、少し変化しています。当店のスタッが3年前、『もっとかわいくしたい』と、ちょっとだけ、手直ししたり描き足したりしました」(内田さん)
 買い物袋のほか、食パン1斤を入れる透明の袋にも、この新しいイラストをあしらった。「パンドミー」(税込259円)や「ハードトースト」(税込259円)などすべての食パンは、このイラスト付きの袋に入れて陳列している。
 「食パン専用として店頭では使っていますが、イラストが付いているので、キャラクターのパンを2つ入れれば、お子様へのプレゼントにもなりますし、ハロウィンの季節なら、カボチャを使ったパンを入れればイベントに使えます。ギフトボックスは有料ですが、こちらの袋は無料で提供できるので、気軽に使っていただけると思います」(内田さん)
 最近も、「ココナッツラスク」(税込270円)と「コーヒーラスク」(税込270円)の包装を変えた。今までは袋に入れるだけだったのを、オレンジ色や緑色の紙皿を底に敷いて、見た目を華やかにし、座りを良くした。
 「包装を変えてコストは上がり手間もかかるようになりましたが、価格は据え置きです。お土産に使っていただく機会が増えたり、見た目がよくなったことでお客様に喜んでいただけたりしたらいいと思っています」(内田さん)
 ラスクの包装も食パンの袋も、顧客が大切な人に贈るギフトを演出するツールだが、同時に、店から顧客へのギフトとも言えるかも知れない。

SHOP DATA
店名:サガミパン工房 ブンブン 本店
住所:〒243-0014神奈川県厚木市旭町1‐36‐1
電話:046‐205‐0518
営業時間:午前8時~午後8時(日曜は午後7時まで)
定休日:火曜日
品揃え:パン80品目、菓子20品目
店舗面積:売り場22坪、厨房24坪、イートイン14坪
スタッフ:製造常時7人、販売常時2~4人
日商:平日50万円、金曜、土曜、日曜60万円

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