お店拝見 特別企画(2) - ブランスリー電子版


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お店拝見/2016年6月号

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お店拝見 特別企画(2)

 今回は「お店拝見特別企画」として、リテールベーカリー経営についての4つのテーマを設定して、これまでに掲載されたお店拝見の記事の内容をもとに記事を書いてみました。お店拝見では、これまでおよそ300軒のベーカリーを取材させていただきましたが、改めて記事を読み返してみると、様々なテーマが浮かび上がってきます。



対面販売とセルフ販売の比較
客は近隣住民が圧倒的に多く、店は「リトブレ」の呼称で親しまれている(リトル・ブレッズ・トゥ・ゴー)
7坪の土地に建てられた2階建ての店舗は濃い緑色の看板に店名の文字が目立つ(リトル・ブレッズ・トゥ・ゴー)
レジ横のショーケースには、クロワッサンなどの壊れやすい商品や、トングで掴みにくい商品を陳列(パラオア)
8坪の売り場は広々とした印象。客が自分でパンをとるための陳列台もゆったりと配置されている(パラオア)
セルフと対面の組み合わせも増えている

 一昔前は、ベーカリーといえばほとんどは、客が自分でパンをトレーにとってレジへ持っていくセルフ方式の販売方法だったが、最近は、ショーケースなどにパンを陳列し、客の注文を聞いて、スタッフがパンを取って販売する対面販売の店が驚くほど多くなった。小規模のベーカリーが増えていることもその一因と思われる。
 セルフ販売のよさは何といっても客のペースで自由にパンを選べることだろう。特に品揃えが多い店であれば、その中からじっくりと品定めをするには、対面販売よりもセルフ販売の方が向いているといえる。一方、デメリットとしてよく指摘されるのは、衛生の問題だ。客が咳をしたり、子供がパンに触ったりして、不衛生だという意見は多く聞かれる。
 対面販売のよさは、なんといっても、顧客とのコミュニケーションが取りやすいことだろう。常連客が多い店では、対面販売であれば、自然と会話をするようになり、客との情報交換が可能となるので、客一人ひとりの好みなども把握することができる。デメリットとしては、混雑時の対応が難しいことやスタッフに高度な接客の技量が求められることなどがある。
 大雑把に言うと、大型店で売上も多い店はセルフ販売で、小規模店で、高付加価値商品を売りものするよな店は、セルフ販売が多いといえるかも知れない。
 千葉県鎌ヶ谷市の「パラオア」(お店拝見2012年12月号に掲載)では、もともとは対面販売だったが、移転リニューアルを機に、売り場を約3倍の広さに拡大するとともに、セルフのコーナーもとり入れた。ショーケースには全体の2割、セルフのコーナーには、全体の8割ほどの商品を並べる。
 「お客様に自由に見て選んでもらうためには、セルフサービスがいいのかと思いました。でもセルフだけだと会話をしたりする機会がなくてさみしい気もしたので、対面コーナーとして、ショーケースも設けました。そこにはクロワッサンなど壊れやすいものやトングで掴みにくいものなどを陳列しています」(オーナーシェフの池口康雄さん)
 千葉県船橋市の「リトル・ブレッズ・トゥ・ゴー」(お店拝見2014年3月号に掲載)は、客とのコミュニケーションを大切にしたいという理由で、ショーケースのみの対面販売形式を採用。ショーケースの中には、季節商品など種類豊富な菓子パンや総菜パン、サンドイッチなどが、ショーケースの上には、この店一番の売れ筋の食パン「ゴーブレット」やハード系のフランスパンなどが並ぶ。また、パンのほかにも、パティシエの経験もあるという店長の古宮義和さんの手作りの洋菓子類や、可愛らしい小物雑貨、常連客からもらったというアンパンマンのキャラクターオブジェなども目に入る。こうした商品を間に挟んで、客とスタッフが相対せば、自然と会話がはずもというものだろう。
 本誌2011年10月号で行った「セルフ販売VS対面販売」と題したアンケート調査では、およそ7割の人が「セルフ販売方式がいい」と答えているが、5年経った今は、おそらく対面販売への支持が少し増えているのではないだろうか。
 アンケートでは、セルフ販売のいい点と悪い点について「ゆっくり自分のペースで考えられるとこがいい点です。悪い点はいろんな人がパンの前を通るので、衛生的に大丈夫かなと感じるところです」「自分でじっくり選べるが、きれいに取れない」などの声が聞かれた。
 対面販売のいい点と悪い点については「いい点はおすすめ商品などを教えてくれること。悪い点ゆっくり選べないこと」「お勧めとかも聞ける。あせってじっくり選べないときもある」などの声があった。



焼きたての効果的な演出方法
木の温もりが伝わってくる小麦の郷ピーターパン
多くの客で活気づく小麦の郷ピーターパンの店内
「ラ ブランジュリ キィニョン エキュート立川店」店長の羽沢周子さん
1日1000個以上売れるというスコーン。常時約8種類が揃う(ラ ブランジュリ キィニョン エキュート立川店)
焼き上がったパンをトレーに乗せて刷り場へ運ぶスタッフ(プルクワ)
焼きたてのパンを求める客で混雑する店内(プルクワ)
焼きたてであることを客に伝えることが大事

 リテールベーカリーの最大の強みのひとつは、パンを焼きたてで提供できることだろう。客にできる限り焼きたての状態のパンを購入してもらおうと、パンが陳列棚に長い間置かれていることがないように、短時間で売れる量を何回にも分けて焼き上げる工夫をしているベーカリーは多い。例え客が焼きたてを購入して、すぐに焼きたての状態で食べなかったとしても、温もりのあるパンを手にとって購入したという体験自体が、価値があるといえるだろう。
 焼きたてのパンのおいしさをできるだけ多く経験してもらおうと、店内にイートインスペースやカフェスペーを設けるリテールベーカリーも多い。
 千葉県内に複数の大型ベーカリーを展開するピーターパンの横手和彦社長は、お店拝見2006年2月号の「小麦の郷ピーターパン」の取材で、「あるとき、あるお客様が、パンに手の甲を当てて、『これいつ焼いたパン?』と聞いてきたんですね。つまり焼きたての温もりがないと駄目だということなんです。現在のうちの力では、店に並んでいるすべてのパンを温もりがあるうちにお客様の手に渡すことはできませんが、その理想に近づけるようにできる限りの努力はしています」と話した。
 「小麦の郷ピーターパン」は、およそ1200坪の敷地に、大きな2階建てのウッディーな店舗で、石窯と煉瓦づくりの煙突がシンボルだ。庭には、木や花がいっぱいのテラスがあり、横手社長は「自然の温もりを表現したかった」と話した。
 パンを焼きたての状態で客の手に渡すことを至上命題とし、ストレート法やオーバーナイトで生地を発酵させる製法など、様々な方法を取り入れることなどにより、少量を頻繁に焼き上げて売り場に出すオペレーションを実践している。
JR中央線・立川駅構内にある「ラ ブランジュリ キィニョン エキュート立川店」(お店拝見2015年10月号に掲載)は、販売スタッフが、 「焼きたてのパン、たくさんご用意しています」と駅利用客に呼びかける。
 「たくさんの人が行き交う『駅ナカ』では、声掛けはとても重要です。目の前を歩いている人が、お客様になる可能性があるのですから、声を出して、外に向けてどんどん情報を発信していきます。加えて、試食を出すと、人の集まり方が違いますね。一気に集客できます。夕方の帰宅時などのピーク時にあえて行うのが効果的です」と店長の羽沢周子さんはいう。一度に焼成できるスコーンの量は、60個。1日の焼成回数は約20回に上る。最も売れる冬季は、1500~1600個売れるときもあるので、オーブンが開き次第、次々に焼成していく。
 一方、神奈川県藤沢市のベーカリー「プルクワ」(お店拝見2011年11月号に掲載)では、取材時に、「焼きたてです」との声とともに、スタッフがトレイにイングリッシュマフィンを2つのせて運んできた。続いて3分も経たないうちに、「揚げたてです」との声が聞こえ、「カレーパン」が4つ棚に並んだ。その後も焼きたての商品が運ばれてくるが、いずれも2~5個ずつほどと、少量。
 「昼の11時半から1時過ぎくらいまでは、外のテラス席などですぐに召し上がる方が多いので、焼きたてを次々とお出ししています。お客様の好みはそれぞれなので、焼きたてのパンに関しては、1種類を多くというより、種類を増やすようにしています」(販売担当の中島友里さん)
 同店の社長でシェフの神田淳さんは「焼きたてであることを声に出すか出さないかで、売上げが変わるということを、よくスタッフに言っています」と話す。





原価計算女王
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