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お店拝見/2016年6月号 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
お店拝見 特別企画(1)
今回は「お店拝見特別企画」として、リテールベーカリー経営についての4つのテーマを設定して、これまでに掲載されたお店拝見の記事の内容をもとに記事を書いてみました。お店拝見では、これまでおよそ300軒のベーカリーを取材させていただきましたが、改めて記事を読み返してみると、様々なテーマが浮かび上がってきます。
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売り切りか売り残しかの判断 | ||||||||||
リテールベーカリーのオペレーションでよく問題になるのが、閉店直前の品揃えをどうするかだ。客はパンを購入する際に、沢山の種類のパンが並んでいた方がいいと考えるだろう。これは、閉店直前に来店した客も同じことだ。 一方、店にとっては、閉店間際に、客が選べるだけの多くの種類のパンを陳列するということは、多くの販売ロスを出すということを意味する。販売ロスは多いよりは少ない方がいいに決まっている。 お店拝見2009年9月号で、千葉県市川市のサフラン北国分店を取材した際に、小川佳興社長は次のように話した。 「ロスを恐れてはいけないと考えています。閉店前に、売れ残りのパンしか並んでいなかったら、閉店前に来たお客さんは残り物を買わなくてはなりません。閉店前に、売れ筋商品が並んでいない店は駄目です。ロスを減らすために、売れ残ったときにどうするかも考慮して、商品開発をやらなくては駄目です」 また、神奈川県横浜市の「パン ド ウー」(お店拝見2013年11月号に掲載)の営業時間は、朝8時から夜7時までだが、夜の閉店間際に買いに来る人がかなり多いという。そのため、閉店間際まで最低20品目は揃えるようにしているという。 「電車を降りて家路を急ぐ方が寄って下さります。なかでも、仕事帰りに保育園までお子さんを迎えに行く母親が、その途中に寄っていくというケースが目立ちます。近くのスーパーや駅前、駅ナカにも、遅くまで開いているベーカリーがあります。こうした環境の中で、わざわざ当店に寄ってくださるということを考えると、閉店するまでバラエティー豊富に揃えておく必要性を感じます。そのために、ある程度のロスは覚悟しています」と店主の原浩介さんは話していた。 一方で、繁盛店で、「売り切り御免」のお店もある。東京・世田谷区の「アンゼリカ」(お店拝見2015年9月号に掲載)は、約7年前、開店時間を午前10時から午前8時に早めた。 「スタッフは仕込みで早朝から来ていますから、店も早くから開けようということで、2時間早く開けるようにしたんです。閉店は売り切れ次第なので、開店を早めた分、スタッフの帰り時間も早くすることができました」と店主の林ぶ子さん。 朝は、ふんわりした食感の白焼きパンで、同店のロングセラーの「カントリーグローブ」を使ったサンドイッチを、朝の限定メニューとして、サービス価格で販売している。朝の時間帯に客を呼び込むためだった。 東京・小平市の「しょう’S ベーカリー」(お店拝見2016年4月号に掲載)のオーナーシェフ、山粼章さんは「1品目あたりの製造数を少なくして、次々と違うパンを並べていけるようにしています。せっかく来たのに、購入予定のパンがなかった、と思われるお客様もいるかと思いますが、実はそこも良さだと思っています。次また来てみようかと思っていただけたり、その代わりになるようなパンを、そのときどきで新たに見付けていただける機会になればと思っています」と話す。来店する度に違うパンと出合える楽しみも幸いしてか、パンは毎日ほとんど売り切ってしまうという。 午前9時、食パンや惣菜パン、菓子パンを揃えてオープンすると、その後11時半、午後1時、1時半、2時と時間経過とともにパンが焼き上がり、ショーケースに並ぶパンが変化していく。山粼さんがほぼ1人で、1日に70品目のパンを焼き上げる。 こう見てくると、いずれのベーカリーも顧客と真摯に向き合った上で、閉店直前の品揃えを決めていると言える。ベーカリーのオペレーションは、顧客にとっても、店にとってもメリットがあるものでなくてはならないが、その主導権は当然ながら店が握っている。店が描いた顧客との付き合い方や作法に対して、顧客が魅力を感じてついてくるかどうかに、店の繁盛はかかっている。店が描いた顧客との付き合い方や作法は、100店100様で構わないし、それだからこそ、消費者は豊かな消費生活を楽しめるのだ。 |
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