無理せずに客と共に楽しむ感覚で - パンのフェア年間計画 - ブランスリー電子版


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特集/2015年3月号

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無理せずに客と共に楽しむ感覚で - パンのフェア年間計画
 繁盛しいているベーカリーに共通していることのひとつに、年間を通して、フェアを積極的に行っていることがあげられる。「パンのフェア年間計画」と言ってしまうと、敷居が高くなってしまうが、例えば「いちごフェア」であれば、普段から販売しているいちごに関係するパンを一箇所に集めて、ちょっとした飾りをほどこすだけでも、客の心の中にささやかな光を投げかけることができる。「いつもとは違うささやかな楽しみ」を、客に定期的に提供できるかどうかで、客が店に抱く親近感が違ってくるのだ。そして、店の繁盛の度合いは、客が店に抱く親近感の度合いに比例することが多い。



来店客に季節感を伝えたい - ピーターパン石窯パン工房店
「いちごフェア」の真っ最中で、「いちご大福」(税込172円)、「いちごドーム」(税込172円)などいちご関連の商品が多数販売されていた
2月3日の節分に因んだ「恵方巻サンド」(1本税込345円、2分の1本同173円)
「絵馬ラスク」(上段左、税込88円)は、マドレーヌの入った「合格だるま」(上段右、税込540円)などと一緒に売られている
受験生応援企画の定番商品「絵馬ラスク」(税込88円)
人気の「ふなっしー」(税込151円)
受験生を応援する「受験に勝つ!サンド」(税込561円)
 千葉県内にベーカリー6店舗を展開する「ピーターパン」は、季節ごとのフェアやイベントを積極的に行い、多くの顧客の心をしっかりとつかんでいる。横手和彦社長は「フェアは、店に来ることでお客様が季節を感じられるように行う必要があります」と話す。

企画の重要性を伝え全社一丸になる
来店客へストーリーを提供
 千葉県船橋市内にある郊外型の大型ベーカリー「ピーターパン石窯パン工房店」は1月末の取材時、年明け間もなく開始した「いちごフェア」の真っ最中だった。「いちごデニッシュ」(税込248)円、「いちご大福」(税込172円)、「いちごドーム」(税込172円)、「いちごとホワイトチョコのリュスティック」(税込172円)などいちご関連の商品が多数並び来店客の関心を集めていた。
 「今年は100年に一度の『いちご』の年ですからね。これから3月初め頃まで力を入れていきます」と話すのは本店である同店をはじめ千葉県内に6店舗を展開するベーカリー「ピーターパン」の横手和彦社長だ。今年は「2015年」だが、この「15」を「いちご」と読めば100年に一度のいちごの年になるというのだ。
 店内ではそのほか、2月3日の節分に向けた「恵方巻サンド」(1本税込345円、2分の1本同173円)や、受験生応援商品の「絵馬ラスク」(税込88円)などが、一押し商品として華やかに陳列されていた。
 「年間を通じたフェアやイベントは、常に何らかのストーリーと新しさをお客様へ提供できるものでなくてはなりません」と横手社長。
 「例えば居酒屋に入れば、大体3品位定番のものを頼みますが、もう1品は店がおすすめのもの、もう1品は新商品を頼もうとしますよね。いつもと変わらない定番商品を提供し売上をあげることも大切ですが、来店される方は常に何らかの新規性を求めるものです」(横手社長)

年間計画を軸にレベルアップ
 家族連れの多い郊外型大型店である「石窯パン工房店」は、土日など多い日では、来客数は1800人を超えることもあり、2001年にオープンして以来、郊外型大型店の成功事例として業界内でも注目を集めてきた。2013年にオープンした同県習志野市の「奏の杜店」など他店舗も盛況で、6店舗合計で「ピーターパン」の年商は15億円を超える。
 そんな「ピーターパン」では集客の一環として、年間のフェアやイベントと連動させた形で販売のサービス向上に力を入れてきた。販売専門のチームもあるが、フェアを主導する企画担当のスタッフもいる。 
 企画担当は、季節に応じた商品を一定の期間販売するフェアのほか、「母の日」や「明太子の日」などの記念日のイベントも企画する。こうしたフェアやイベントの計画は、同店オープン時から、毎年年間計画表を作り、それを軸に実施してきた。
 「フェアは店に来ることでお客様が季節を感じられるように行う必要がありますが、商品そのものとディスプレイ、双方から演出を行います」(横手社長)
 季節感を出すものである以上、大まかな流れを年間計画で立てメリハリをつけることは大切で、計画をもとに準備は3カ月ほど前から行うという。
 「ただし、突発的に浮かんだアイデアで急きょ予定が変わることもあります。可能な範囲で流動的な対応が必要になってくるのですが、計画した内容にこだわり過ぎてもよくないと思っています」と横手社長は話す。
 フェア企画担当である横手敦子さん(32)は「大まかなフェアやイベントの流れは毎年変わりませんが、ちょっとずつ改善点を見つけ進歩していくようにしています」と言う。横手社長の長男の妻である敦子さんは、3年前から販売企画リーダーとしてフェア企画を主導するようになったが、今は月に一度、フェアやイベント企画に関するミーティングを行い、各店舗から担当の社員を集め情報交換を行っている。
 昨年を例にあげれば、「七夕フェア」の企画が成功したと手応えを感じている。一昨年までは、店に作って欲しい商品を子供が短冊に書いてリクエストするというものだったが、全員の願いを叶えるのは難しいという問題が浮上。そこで昨年は、七夕の天の川(ミルキーウェイ)を連想させる商品「ミルキーフランス」(税込151円)の包み紙に当たりくじが入っていたらもう1本プレゼントするという企画を実施した。これが大きな反響をよび、同商品の売上を通常時の2~3倍にまで伸長させた。

フェアをきっかけに成長する
た、フェアをきっかけに思わぬ人気商品となったものもある。今では平日で1日150個、土日で300個ほども売り上げる「ふなっしー」(税込151円)はもともと、一昨年の七夕フェアの際に子供のリクエスト商品としてあがったもので、千葉県船橋市の人気ゆるキャラ「ふなっしー」をモチーフに同店が梨ジャムとヨーグルトクリームを入れた菓子パンを開発。当初は一カ月ほどの限定販売だったが、その後、話題をよび、船橋市内の大型商業施設や地域情報誌などからも要望があり、復活させることとなった。「フェアのねらいの1つとして、新商品などの定番ではない商品を盛り上げることがあります」(横手社長)。
 末広がりの88円(税込)で販売する「絵馬ラスク」は、ラスクに「必勝」「合格」などの受験生を応援する言葉をチョコレートで書いた商品で、今ではすっかり受験シーズンの定番商品となっている。
 こうしたストーリー性のある商品のアイデアは「今何がはやっているかなど何気ない情報からふっと思いつくことが多いですね」と横手社長は話す。
 実は同店の定番人気商品「元気印のメロンパン」(税込140円)は、3年前に「千葉元気印企業大賞」(千葉県の森田健作知事が県内の活力のある企業を表彰するもの)を同社が受賞したことを機に、受賞記念フェアを実施。ここで販売した「元気印のメロンパン」が、好評で定番となった。「元気印のメロンパン」は現在「石窯パン工房店」の売上2位の商品となっている。
 一方で、まだ課題もあるという。
 「企画側と販売スタッフとの連携が課題ですね。販売の現場も様々な問題を抱え多忙な中で、企画の重要性を伝えていかなければなりません」(敦子さん)
 この頃は企画側からの熱心な働きかけもあり、徐々に変化も起きている。昨年の夏祭りのイベントの時は、一度、商品の品切れを起こしそうになったが、店長が自主的に動いて商品の補充に奔走してくれた。年明けに開催した『明太子の日』のイベントも団結できた実感があるという。
 「接客では、お客様への声かけやアイコンタクトを増やそうといったことなども話し合っています。今後も全社一丸となってフェアやイベントに取り組む姿勢を育てていきたいですね」(敦子さん)



「ピーターパン石窯パン工房店」の外観
横手和彦社長(右)と販売企画リーダーの横手敦子さん



季節ごとのテーマでフェアを手軽に - M’s企画の三浦千佳子代表に聞く
三浦千佳子氏 マーケティングコンサルタント。大学を卒業後大手製粉会社に入社、企画、広報、顧客対応を経験。その後、製粉部門で営業支援を担当。生活者の視点からのマーケティング開発や情報誌、ウェブコンテンツの企画・執筆などを行い、講演も多数実施。退職後はその経験を活かし、フリーのコンサルタントとしてマーケティング開発や講演活動、執筆活動を続けている。

 季節の変わり目は、人々の感受性が普段より豊かになる。四季の変化に富んだ日本では、季節ごとに様々なイベントがあって、ベーカリーのフェアは、そのテーマに事欠かない。そんな四季折々のフェア開催をベーカリーに提案するマーケティングコンサルタントの三浦佳代子さんに、「パンのフェア年間計画」のテーマで話を聞いた。

日常の中にささやかな楽しみを提供

お客様に喜んでもらうために
 これから春になると、ひなまつりやホワイトデー、卒業、入学など様々な行事が目白押しです。そんな時期、洋菓子店や和菓子店に行くと、ピンク色で店内が装飾されていたりして、春を感じたり、楽しい気分になったりしますね。こうした、季節感を感じたりできるような演出は、春に限らず、年間を通じてよく目にするようになりました。ベーカリーよりも菓子店の方が、盛り上がっているのが現状ではないでしょうか。
 菓子店は、誕生日などのお祝い事や、季節の行事があるときなど、何か特別なことがあるときに利用する人が多いと思います。言い換えれば、何かイベントごとがなければ、売る機会を得るのがなかなか難しいのです。ですから、いつ行っても、季節の行事などに因んだ催しを行っている店が多いと思います。
 一方ベーカリーは、主食を買いにいく場ですから、特別なことがなくても、利用されます。ベーカリーはお客様にとって、日々の生活に根付いた日常の場ですよね。
 日常の場であるがゆえに、また、毎日のパン作りの作業の忙しさもあり、ベーカリーは、菓子店のように催しを行うことを、忘れがちになってしまっているのではないかと思います。
 しかしそれは、毎日決まった生活を送っている主婦などのお客様も、同じことなのではないかと思います。
 ですからぜひ、何か催しを行うなどして、ベーカリーがお客様にとって、日常の中に少しでも、楽しみを見出してもらえる存在となっていただければと思っています。皆さんのお店のお客様は、スーパーだけで買い物を済ますのではなく、わざわざベーカリーに足を運んでいるのです。そういった方々は、生活を楽しもうという、気持ちに余裕がある人たちですから、何か催しをすれば、きっとそれに応えて、喜んでくださります。

イベントはちょっとしたことでもできる
 日常の場としてのベーカリーで行うイベントは、その時々の季節に因んだものがいいですね。どんなお客様にも受け入れやすいですし、主催する側としても、考えやすく、容易にできるからです。
 また、季節は移り変わっていきますから、テーマを立てるのに苦労することなく、一年を通して絶えず開催していくことができると思います。
 季節はまず、大きく区切ると、春夏秋冬の4つですが、1年を52週間あると捉えると、イベントのテーマは立てやすいと思います。 3月は、第一週はひな祭り、それが終わるとホワイトデー、その後は卒業、入学、または春本番、桜、など細かくテーマを立てていくことができます。
 こうして母の日までは、順調に決めていくことができると思いますが、それ以降夏休みまでが難しいという話をよく聞きます。また、父の日が盛り上がりに欠けるとも言います。
 父の日は、例えば、似顔絵を描いたパンを販売してはいかがでしょうか。メガネをしたお父さん、優しい顔をしたお父さんなど、何パターンかをチョコペンなどで描くだけでいいと思います。
 お客様には、その中からご自分のお父さんに似た顔のパンを、楽しんで選んでいただけると思います。大がかりでなく、普段の商品をちょっと変えてできることで十分だと思います。また、特別な商品を作らなくても、陳列方法を変えるだけで効果はあります。
 例えばバレンタインなら、普段作っているチョコを使用したパンすべてを、一カ所に集めるだけで、「バレンタインコーナー」ができあがります。
 また、100円ショップも便利です。バレンタイングッズを買ってきて、それを一緒にディスプレイするだけでもいい雰囲気が出ると思います。

梅雨から夏の間も様々な商品を提供
 母の日が終わって梅雨に入る前は、新緑がきれいで外に出るのにいい時期です。ピクニックをイメージして、サンドイッチなどを強化するのもいいと思います。そして6月、外に出るのが億劫な梅雨を迎えますが、旬のブルーベリーのフェアをやってみたり、「雨の日フェア」と題して、雨天時にプチパンをプレゼントしてもいいと思います。
 また、雨天時や、夏の猛暑時など、客足が少ないときは、商品開発に力を入れてもいいと思います。試作品は、雨天や猛暑時にも関わらず来てくださったお客様に、プレゼントしたらきっと喜ばれます。「梅雨を一緒に乗り切ろう」という思いで、お客様にサービスしてください。
 夏期は、夏休みの子どもを意識したイベントや、スパイシー系や、レモンなどの柑橘を効かせた爽やか系の商品のフェアを行うといいと思います。
 また、パンを冷たく冷やして提供するのも、近年人気が出てきていますね。ブリオッシュ生地を使えば冷やしてもパサつかずにおいしく食べられます。ブリオッシュ生地に、生クリームを配合した濃厚なカスタードクリームを詰めたパンを冷凍し、すべて解凍せず、途中の半解凍状態で食べると、シューアイスのようにアイス感覚で食べられます。それに、パンなので、シューアイスよりもお腹にたまりますから、子どものおやつに最適です。冷凍で保存が効きますから、猛暑時の保存食として勧めるのも面白いと思います。
 盆が過ぎれば、暑さは少し和らぎます。少し早めに8月後半から、「味覚の秋を先取り」などと題して、ぶどうなど秋の食材を使った商品のフェアをしてもいいと思います。先駆けて提案すれば、まだ秋の訪れに気付いていなかったお客様の心が動いて、食欲も沸いてくるかもしれません。
 秋は食材が豊富です。販売のスタッフにも、「八百屋さんをのぞいてみて」などと声をかけてください。そうすれば、普段の行動の中でも、意識が変わっていろいろなものに目がいくようになると思います。オーナーが一人で企画を立てるのではなく、スタッフみんなを巻き込むようにしてアイデアを募ってください。

ストーリー性のある商品は積極的に紹介
して冬、代表的なイベントはクリスマスですね。当日はやはりケーキにはかないませんが、スタッフがサンタの格好や帽子を被るだけでも、「このお店楽しいな」と思ってもらえると思います。また、ケーキは1日だけですが、シュトレンは長い期間販売できます。「本場ドイツでは毎日少しずつ、スライスして食べながら、クリスマスを待ちます」などと紹介すれば、1カ月前くらいから購入していただけます。
 シュトレンは、近年で大分定着しました。一度購入していただければ、翌年も予約してくれる確率が高いようです。また、シュトレンのようにストーリー性のある商品は好まれます。ぜひ、ドイツで発祥したことや、食べ方などについて紹介してください。「へー、そうなんだ」と、まずお客様に関心を持ってもらうことが大事です。紙に書いて掲示してもいいですし、チラシにして渡してもいいと思います。書くときは、手書きだと思いが伝わりやすいですね。
 シュトレンが終わったら、ぜひガレットデロアを販売してください。ガレットデロアもストーリー性の高い商品です。シュトレンほど、まだ普及していませんが、かなり売上を伸ばしているベーカリーもあります。
 また、春のイースターも、まだ普及していないのが残念なところですが、ストーリー性が高いイベントです。これから普及していくのではと期待しています。イベントの象徴が卵なので、ベーカリーにとって、取り入れやすいイベントだと思います。卵サンドやクリームパン、卵をトッピングした調理パンなどを一カ所に寄せるだけで、「イースターコーナー」ができあがります。卵のイラストを描いた紙を飾るだけでもいいですね。イースターは、またの名を、「復活祭」という縁起の良い行事です。明るく楽しい雰囲気で、イベントを開催できると思います。
 ベーカリーは、毎日作業が多くて大変だとは思いますが、「お客様と一緒に楽しもう」という気持ちで、イベントを行ってみてください。菓子店より、圧倒的に来店頻度の高いベーカリーは、お客様の日常を楽しくさせる場としての役割が大きいと思います。ささやかでも、お客様の日常使える範囲内のお金で楽しみを提供できるのが、ベーカリーです。大がかりなことではなくても大丈夫です。ぜひ、ちょっとしたことから工夫して、行ってみてください。




卵サンドやクリームパンなど、卵を使った商品を集めるて陳列すると、イースターに因んだ卵コーナーが出来上がる(東京・国立市のベーカリー「プチ・アンジュ」)
「シュトレン」はその歴史や食べ方などを紙に書いて紹介。(神奈川県横浜市のベーカリー「ベッカライ徳太郎」)
子どもたちが行った卵の塗り絵を掲示してイースターを盛り上げる(東京・国立市のベーカリー「プチ・アンジュ」)
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