パンの資格 / 正確な情報を伝え、パン食文化を発展させる - ブランスリー電子版


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特集/2014年8月号

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パンの資格

正確な情報を伝え、パン食文化を発展させる
資格を取得するためには自宅での調理実習などの課題も行う必要がある
パンコーディネーターの資格を持つ人らが競うアイデア料理コンテストの様子
日本パンコーディネーター協会代表理事を務める稲垣智子さん
昨年は菓子メーカー、明治の「サクサク香ばしい本格パン風味のお菓子『コパン』」の製作にも協力した
地域のイベント「世田谷パン祭り」で、ワークショップを開いたときの様子。パンや野菜を石窯で焼いて食べるという内容
映画「しあわせのパン」の製作に協力したことを記念して、上映会を行ったときの様子
パンコーディネーター
「売るプロ」になるためには、同時に「食べるプロ」にならなくてはならない

売るプロ、食べるプロを育てる
 「パンのソムリエ」を養成する団体として知られる「一般社団法人日本パンコーディネーター協会」。2007年の設立以来、主に食べ手側に、パンに関する正確な情報を伝え、パン食文化を発展させていく主旨で活動を続けている。最近は、商品開発や自治体イベントの企画、映画製作への協力を行うなど、活動範囲が広がってきた。
 代表理事の稲垣智子さんは、同協会を立ち上げる以前にベーカリーに勤務していたときから、強く思っていたことがある。
 「ベーカリー業における『作る』と『売る』、この2つの基本的な業務のうち、『売る』ことに関するプロの存在の必要性を感じていました。パンを 『売るプロ』になるためには、同時に『食べるプロ』にならなくてはいけません。せっかくおいしく出来上がったパンでも、保存の仕方や食べ方によっては、そのおいしさが台無しになってしまうことがあります。『作るプロ』の作ったパンが、おいしく食べられる状態で食卓に上っているか否かは、『売るプロ』と『食べるプロ』の手にかかっているからです。『作るプロ』を育てる、いわゆるパン職人のための学校はありますが、『食べるプロ』を育てる場は、当時ありませんでした。そして、『売るプロ』は『作るプロ』に対して圧倒的に少ないと思っていました」(稲垣さん)
 パンは、「作るプロ」「売るプロ」「食べるプロ」という、これら3つのプロの受け渡しによって初めてその魅力が発揮されるのだ。同協会は、パンの作り手と消費者の橋渡し役である、「売るプロ」と「食べるプロ」を育てるべく、日々活動をしている。

全国各地でパンの食べ方教室
 同協会の資格は3段階に分かれていて、上位から、「パンコーディネーターアドバンス」「パンコーディネーターエキスパート」「パンコーディネーター」となっている。上位になるに連れて活動できる範囲が広がる。
 設立して7年が経った現在、資格保有者は700人を超えた。そのうち、50人弱が最上位のパンコーディネーターアドバンスの資格を持っている。
 資格をとるためには、東京か大阪のどちらかで、2週間にわたり3日間の授業を受け、自宅での課題を経て試験に合格しなければならない。
 「地方の方にとって、資格取得は決して簡単ではありませんが、まずは取得前に、パンコーディネーターの勉強をしてみたいというお客様もいらっしゃいます。そういった方に向け、今年から資格保有者が自らプレレッスンを開くことができる仕組みをスタートさせます。全国のどこにいても、パンコーディネーターから気軽にパンについて学ぶことができるようになれば、パンの正しい知識とその食べ方や楽しみ方を広めることが出来ると思います」(稲垣さん)
 資格取得を目指す人の目的は様々だ。大きく分けると3パターンあるという。
 一つは、ベーカリーや飲食店、メーカーなどに勤務するビジネスマン。次に、家庭でのパン作りを教える講師。最後に、パンが好きでその趣味をより深めたい人。パンが好きな人はさらに、2パターンに分かれている。あらゆるベーカリーの情報を熟知し、人に紹介できるコンシェルジュ的な人と、パンを取り入れた食事を提案するのが得意な人だ。

視野を広げて次のステップへ
 受講者に接していて感じるのは、好きなものほど、また、長く従事しているものほど、視野が狭くなってしまったり、壁にぶつかっている傾向があることだという。
 例えば、パン教室の主催者からは、「長年教室を続けてきましたが、自分の今までのやり方に不安を感じていました。受講して、正しい知識を改めて学び、新しい情報を得たことでより自信を持つことができました」などという感想を多くもらうという。
 「正確な知識と情報を得ることで、視野が広がり、次のステップに繋げることができるのだと思います」(稲垣さん)

異業種とのコラボレーション
 資格保有者は皆、パンが好きという思いは共通だが、持っている能力はそれぞれ違い、活動も多岐にわたっている。
 最近は、パン祭りなど地域のイベントにも協力している。また、菓子メーカーや映画製作に協力するなど、異業種とのコラボレーションも増えてきた。
 「異業種とのコラボレーションによって、パン単体では取り込めなかった新規顧客層を巻き込んでいくことができるようになってきています。そうすることで、パンの新たな魅力が発見できると期待しています」(稲垣さん)
 いろいろな市場をみてきたなかで、パンを食べる機会そのものの広がりが、まだまだだということを改めて感じているという。
 「当協会は、パンを食べる側からの視点に重きを置いているので、おいしい食べ方の追求に注力していますが、パンが好きな方たちだけで共有するのではなく、これからはもっと広くあまねく、一般に向けて発信していくことが求められていると感じます」(稲垣さん)
 同協会はこれからも、様々な視点を持つ資格保有者たちの多岐にわたる活動によって、パンの市場の拡大に務めていく。



パンの資格

パンの世界の「案内人」を目指す
パンシェルジュ検定合格認定カード
パンシェルジュ検定合格認定バッヂ1級(左)と2級(右)
第9回パンシェルジュ検定は、2014年9月7日に行われる。申し込み期限は8月6日。団体の申し込み期限は7月30日。
第8回パンシェルジュ検定の会場には、多くの受験者が集まった
パンシェルジュ
奥深いパンの世界を迷うことなく案内できる幅広い知識を持った人

パンが趣味の人からパンのプロまで
 パンシェルジュ検定は、2009年11月の第1回検定以来、2014年3月の第8回までで約2万8300人が受験。運営は日本出版販売(東京・千代田区)が主な実務業務を担うパンシェルジュ検定運営委員会が行っている。「パンシェルジュ」とは、「パン」と「コンシェルジュ」(もてなしをする案内人)を組み合わせた造語で、同委員会は「奥深いパンの世界を迷うことなく案内できる幅広い知識を持った人」と定義している。
 入門編である3級から難易度が一番高い1級まであり、出題される問題は、パンの歴史や文化、材料、器具、マナー、衛生環境などの基本的なことについてから、マーケット、トレンドなどを加えたより実践的な内容について、栄養学、未来学、サービス学などを加えた専門的な内容についてまで、多岐にわたっている。告知は公式サイトでの案内のほか、全国の書店でのポスター掲示やリーフレット配布などを実施。また全国に点在する約60のサポーター店のベーカリーが、同様の告知を行うと同時に、合格者への割引サービスも行う。
 「パンを作ることや食べることが趣味の人から、パン作りを仕事にする人まで多くの方に、検定受験を楽しんでもらいたいと思っています。公式テキストで勉強すれば合格できる検定です。趣味の範囲でも楽しめるよう、受験料もあまり負担をかけない額にしました」と話すのはパンシェルジュ検定運営事務局である日本出版販売検定事業課の古田亜紀さん。
 「気軽に楽しみながらパンの世界に精通でき、パンの専門家のみならず、一般のパン好きの人も勉強しやすいようです。こうした理由から、パンシェルジュ検定は急速に人気が高まってきています」

パンの文化から店鋪運営まで
 パンシェルジュ検定の問題は、パン教室などの運営で知られるホームメイドクッキング(東京・新宿区)が監修している。問題は全て4択の選択式。楽しんで受けられる要素が強いという。
 例えば、まず「明治時代に天皇に献上され、日本を代表するパンとなったのはどのパンか(3級、「コッペパン」「メロンパン」「カレーパン」「あんぱん」から選択、正解=あんぱん)」「2006年~2009年平均でパンの消費量が日本で一番多い人口5万人以上の都市は次のどこか(2級、「京都市」「横浜市」「大阪市」「広島市」から選択、正解=京都市)」といったパンの文化や市場などに関する問題。
 一方、「パンの老化を遅らせる働きのあるレシチンは、卵のどの部分に含まれているか(3級、「卵黄」「卵白」「カラザ」「卵殻膜」から選択、正解=卵黄)」、「全く油脂を加えないで作るパンは次のうちどれか(2級、「メロンパン」「フォカッチャ」「バゲット」「ブリオッシュ」から選択、正解=バゲット)」といったパンの基本材料、科学的な部分に関する問題もある。
 また「一般にライ麦パンや、オレンジやレモンなど柑橘系のパンに合うとされるワインの種類は何か(2級、「赤ワイン」「白ワイン」「ロゼワイン」「スパークリング」から選択、正解=白ワイン)」「フレンチのコース料理でのマナーで、基本的にパンを食べるタイミングはいつがよいか(3級、「デザートの後」「メインディッシュの後」「スープの後」「前菜の後」から選択、正解=スープの後)」といった食べ合わせやマナーに関する問題も散見される。
 1級になると、より専門的な内容となり、店鋪経営や接客面などに関する問題も出題されるようになる。パンの世界を奥深く案内するために必要な多方面の知識が要求されているといえそうだ。



パンシェルジュ検定のオリジナル商品購入サイトで好評だった志賀シェフ考案の「オリジナルレシピ&小麦粉セット」
パンシェルジュ検定公式テキスト(3級)
パンシェルジュ検定のオリジナル商品購入サイトで好評だった志賀シェフ考案の「オリジナルレシピ&小麦粉セット」
「販売の仕事で役立っている」
 古田さんはこれまで合格者からの反響の声を多数聞いてきたという。その中で多かったのが勉強した内容がパンの販売の仕事で役立っているという声だという。
 「お客様とコミュニケーションをとる際に話が膨らみやすいのだそうです」(古田さん)
 パンの販売では、主にワインやチーズなど他の食材との組み合わせや食べ方提案に関することが役立つことが多いというが、併せてパンの文化や原材料などについての「知識の引き出し」から、ちょっとしたことを話すだけで話題が広がっていくのだという。
 1級合格者で、ボランティアで障害を持った子供達とパン作りをしている人がいたというが、「面白がってもらえそうなストーリー的なものがあると教えやすいんです。パンシェルジュの知識がすごく役に立ちました」と言っていたという。
 また最近の傾向について「男性の受験者が増えてきていることがありますね」と古田さんは話す。
 第1回の頃はほとんどが女性だった受験者も、回を重ねるごとに男性も増え、第8回では第1回の2倍ほどにもなったという。男性の場合、将来自分の店を持ち、自分の作ったパンを提案したいなど明確な目標を持っている場合が多いそうだ。実際事務局のほうで受験者の男子を何人か取材したところ、パンに関わる仕事をしている人が多かったのだという。
 「団体受験の枠があるのですが、著名なベーカリー専門店の方達が揃って受けられたりしています。ベーカリーなどの社員教育として、パンシェルジュを利用していただけると嬉しいです」(古田さん)
 実は、運営委員会が受験者にとったアンケートでは、日常的に自宅でパンを作る人の割合(「頻繁に作る」「時々作る」の回答)は半分近くに上ったという。
 「自分がパンを作って楽しむだけだった人が、その世界を他の人にも伝えられるようになりたいと考え始めているようです。そこにパンシェルジュ検定の需要があるのかも知れません」(古田さん)

3者で「ウィン・ウィン」の関係
 パンシェルジュ検定では受験者とオフィシャルサポーター、そして事務局である運営委員会の3者の関係を大切にしているという。受験者へは、フェイスブックやブログ、ツイッターなどの公式サイトから情報発信している。
 「運営側としてはとにかくパンの文化を楽しむ人を増やしていきたいですね。そのためサポーター店は随時公式サイト上で募集していますし、今後も増やしていきたいと思っています」(古田さん)
 現在、パンシェルジュ検定にはベーカリーやパン教室などから構成される44のオフィシャルサポーターと19のサポーターが全国各地にいる。サポーターに関する情報はパンシェルジュ検定公式サイトやブログに掲載。ネットを使用した相互コミュニケーションの活性化を目指している。また、検定以外にもオリジナル商品などを企画し、受験者にパンを楽しんでもらっている。第8回検定開催時には、サポーター店で、東京・三宿のベーカリー「シニフィアンシニフィエ」の志賀勝栄シェフが厳選した小麦粉とオリジナルレシピのセットを公式サイトで販売し好評だったという。
 パンシェルジュ検定は、単に試験を実施して合格者を出すだけでなく、その中で作られる様々なコミュニティーで身近なパン文化を盛り上げてもいるのだ。
 「運営委員会、サポーター店、受験者の3者が相互に『ウィン・ウィン』の関係を作ることが理想です。それが結果的に『日々の生活をもう1ランクアップさせ楽しみたい』という気持ちに応えられるものになればと思っています」(古田さん)

資格名:パンシェルジュ検定
主催:パンシェルジュ検定運営委員会
協力:?ホームメイドクッキング
開催頻度:年2回
受験会場:全国8エリア
受験料:3級4200円(3990円)、2級5460円(5145円)、1級7350円(6930円)カッコ内は団体割引料金、その他3級と2級の併願割引もある
問い合わせ:検定運営事務局(電話03-3233-4808)








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