スタッフの上手な使い方 - ブランスリー電子版


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特集/2003年1月号

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スタッフの上手な使い方

 スタッフとどう向き合っているかについて、ベーカリーを取材した。オーナーのパンに対する思いをスタッフに伝えるにはどうしたらいいか、生き生きと働いてもらうにはどうしたらいいか、などについて試行錯誤を重ねている姿が印象的だった。(前編)



女所帯で10年やってきた。「甘え」が気になりだした。 - パン工房HANA

店のために鬼になる
 「ベーカリーを開業して10年間、2年前まで女所帯でずっとやってきました。主婦であり、子供がいて、仕事もするという同じ境遇からか、仲間意識が生まれ、よい面は確かにありました」
 東京・日野市のベーカリー、パン工房HANAオーナーの田村洋子さんはこう話す。
 パン工房HANAは、田村さんが、12年前にオープン。パン教室を開ける場所を探していたところ、たまたま格安の広い物件を借りられたことから、パン教室に加えて、ベーカリーも開くことになった。
 「2年間はベーカリーにかかりっきりで、パン教室はできませんでしたね」と田村さんは振り返る。
 「女性だけでやっていた最初の10年間は、ある意味で充実していました。しかしある時点から、女所帯特有というか、変なセンチメンタリズムが気になりだしたんです。例えばパートのスタッフが3人いて、そのうちの1人が仕事がよく出来るとします。経営者としては、その仕事が出来る人を多く使いたいわけです。しかし、実際には『あの人はこういう事情でもっと働きたがっている』といった理由でローテーションが決まることも結構ありました。情に流されていたという面もあったと思います。ある意味で『甘さ』があったように思います。割り切るところは割り切って、店の運営のことを優先して考えなければならない、ということだってあると思ったのです。事実、女所帯だった10年間は、外からは繁盛しているように見えましたが、コストもかかっていて、利益はあまり出ていませんでした」

自分のパンへの思いを伝えたい
 田村さんは2年前、男性のパン職人を採用した。
 「プロ意識があるというか、仕事をスピーディーにこなしてくれます。以前だったら、大ききな注文が入っても、こなせるかどうか不安があったので、お断りせざるを得ないことも多かったのですが、今はほぼ100%こなせるようになりました。何より店の都合を優先して仕事をしてくれます。職場の雰囲気も以前に比べて甘えが少なくなったというか、仕事を優先させる厳しさが出てきました」
 しかし、それまで多くのなじみ客から支持を得てきたパン工房HANAのパンをどうしたら新しい職人に理解してもらえるか悩んだ時期もあった。
 「自分のパンに対する思いを一生懸命伝えて、理解してもらうことが大事だと思いました。連絡帳を作って、やりとりしていたこともあります。『前と味が変わった』とか『フィリングの量が減った』とかお客様からいろいろと、指摘されたこともありました。お客様から、パンについての意見があったときは、あとで職人さんに伝えるようにしました。どうしてもこれはHANAのパンではないと思ったときは、その職人さんの前でパンを捨てたこともありました」
 「お客様からのお褒めの声は、その場ですぐに職人さんに伝えるようにしました。お客様から『あのパンはおいしかったですよ』と言われたら、その場で厨房の職人さんに『パンおいしかったってよ』と大きな声をかけました。お客様も職人さんも、パートのスタッフも、私自身も、みんなで喜び合うような雰囲気を作るようにしているんです」

包み隠さず向き合ってきた
 人の気持ちを理解しようとする意識が少しでもある相手なら、本気で話せば必ず理解してもらえる、と田村さんは考えている。また、店のことについて出来る限りオープンにして、欠点も含めて出来る限り自分をさらけ出すことが、自分流だと考えている。
 「100%自分が思うように働いてもらおうとすると、どうしても無理があると思います。自分のいいところも悪いところも隠さずに向き合えば、必ず理解してくれると思っています。それと、ウチの職人さんの場合は、いろいろな職場を経験してきているので、大人というか、ものごとがわかっているというか、割り切ってやってくれているところもあると思います。うまいところで折り合いがついているといったらいいのでしょうか」
パン工房HANAは、利益率が向上。現在は、新しいパン職人にパンの製造の多くを任せている。田村さんは、パン教室に精を出し、レジに積極的に立って顧客と接し、パンの味と表情を確認しながら、丁寧に陳列棚に並べ、店内の飾り付けに気を使って、店の経営に奮闘中だ。



パートはアイデアの宝庫。人柄が採用の唯一の基準 - ベルアルプ

スタッフからの提案は否定しない
 「スタッフに生き生きと働いてもらうためには、スタッフが提案してくることを絶対に否定しないことです」
東京・巣鴨のベーカリー、ベルアルプの地引弘道代表はこう話す。
 「例えばスタッフが、新商品についてのアイデアを持ってきたら、たとえ自分としては『難しい』と思っても、とにかくその製品を作らせてみるのです。実際に作ってみてだめだったら、その時点で初めて、『それはちょっと難しかったね』と言います」
 ベルアルプのスタッフは、地引代表以外すべてパートとアルバイト。地引代表は仕込みから、1次発酵までを担当し、分割以降、焼成までをパートとアルバイトが分担している。パートスタッフらははつらつと楽しそうに仕事をしている。スタッフの定着率はかなりいいという。
 子供に人気がある様々なキャラクターパンの多くは、パートスタッフらが考案するという。
 「あるとき、ある映画のキャラクターパンを作ろうということになって、1人のパートスタッフが、主人公とは別のキャラクターのパンを作りました。私だったら、まず主人公のパンを作ろうと考えますが、そうではないんです。何かとても新鮮でした」と地引代表はいう。
 「パートスタッフは、一歩外へ出たら、お客様になると考えています。自分とは感性も味覚も違うわけですから、最も頼りになるモニターだと思っています」
 「あるコーヒーの会社が紙カップ入りのコーヒーを売り込みに来たとき、パートスタッフの1人が、ドリンク用の冷蔵ショーケースではなく、サンドイッチが入っている冷蔵ショーケースに入れて『サンドイッチの隣に置いても面白いですね』と言うんです。そのコーヒーは8角形の紙カップに入っていて、おしゃれな感じがしました」

失敗は気にしろ、でもしょげるな
 地引代表はスタッフに口をすっぱくして言っていることがある。「失敗は気にしなくてはだめだ。でも、失敗したからといってしょげてしまってはいけない」
 失敗してもケロッとしているのは困るが、失敗を恐れて萎縮してしまったら、進歩がないというわけだ。
 ベルアルプでは、新人が入ってくると、まず窯を担当させる。同ベーカリーの場合、店全体の仕事の流れが、最もよくわかるのが窯のポジションだからだ。
 最初は先輩についてもらって、覚えてもらう。ある程度覚えたら、次は生地に直接触る成形の工程にまわる。
新たにスタッフを入れる際は、人柄だけを見る。
 「ウチの職場に入ってちゃんとやっていけるかどうかは、その人を見ればすぐにわかります。製パンの経験があるかどうかは採用の基準にはしていません」
 地引代表は「ミキシングから発酵までをスタッフに担当させるときは、隠居のときだ」と考えている。
 「すべての仕込みについて、あとでどんな顔のパンになるかのイメージがはっきりと頭の中にあります。どんなパンになるかは発酵までの工程が決めてしまう度合いが高いので、どうしても自分が直接かかわっていたいんですよ」





原価計算女王
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