東京スカイツリー開業、変わる街並み、変わらぬ伝統 - ブランスリー電子版


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レポート/2012年9月号

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東京スカイツリー開業、変わる街並み、変わらぬ伝統

 東京・墨田区に5月22日開業したばかりの東京スカイツリー。高さ634mを誇るスカイツリーのお膝元には、昭和を色濃く残す向島がある。かつて花街として賑わったこの街は、スカイツリー開業で大きく変わった。新しいカフェやギャラリーなどが次々とできて、店の数は10倍に増え、若いアーティストが注目する街となった。変化していく街並みの中で、50年以上も前から続く老舗、季節の生ジュースとくるみパンの店「カド」がある。現在は二代目マスターが店を営む。先代の味を守りつつ、それを活かし、進化させていく二代目の心意気。幼少の頃から見てきた街の変化やスカイツリーが及ぼす影響などについての二代目の本音に迫る。



どこにも属することのない異空間
季節の生ジュースとくるみパンの店「カド」の二代目マスター、宮地隆治さん。身に付けている帽子、シャツ、ズボンはすべて宮地さんの手作り
昭和ノスタルジーを誘う外観に足を止める人が多い
時代を感じさせる装飾の数々が店内の雰囲気を盛り上げる
 京成電鉄や東京メトロなどの共同使用駅、押上(スカイツリー前)駅から徒歩10分のところにある「カド」は、1958年(昭和33年)、向島界隈の料亭の客を相手にする喫茶店としてスタートした。昭和30年代の客は、政治家や官僚、企業経営者が多かった。「だからこういう内装なんですよ」と語るのは、二代目マスターの宮地隆治さん。店内は、昭和ノスタルジーの空気感を漂わせるが、大正時代のモダンさも兼ね備えていて、どこにも属することのない異空間が広がる。先代が好きだったという人物画が壁いっぱいに飾られ、上を見上げれば、懐かしさと温かさが入り混じるデザインを施した、照明や壁の細工に目を奪われる。若い芸術家などが店を訪れることも多いという。
 店のデザインは志賀直哉の弟の志賀直三。施工などは東京藝術大学の学生が施したそうだ。50年という時の経過で建物は傷み、内装の修繕は多少しているが、ほぼ原形を保っているという。先代の写真が飾られているカウンター越しの食器棚も当時のままだ。
「当時の向島には、料亭が500軒ほどありました。今でも16軒ほど残っていて、芸者衆もまだ100人くらいはいるんじゃないかな。開店当初からのお客さんはもうほとんどいませんが、二代目、三代目のお客さんも珍しくありません」と宮地さんはいう。
 さらに「スカイツリーの影響で若いアーティストが経営するカフェなどが増え、リノベーションをした店が流行っているみたいだけど、私にはよくわからない。下町ブームとかで外から来る人が増えましたが、そういう一過性のブームで下町を語られると、違和感を感じます。うちもたまにリノベーションと勘違いされるけど、それは違う。今はコピペ文化で、私の考えとしては、それは恥ずかしと思ってしまいます。手を替え品を替え流行りに踊らされてばかりいると、お客さんをばかにすることになってしまう気がしますね。子供の頃から先代の働く後姿を見て、自然に染みついたスピリットがある。だからこそ自信を持って店をやっていきたい」。



ただ体にいいものを作り続けること
人気のセットメニュー「活性ジュースとくるみブルーベリーパンのなすとモッツァレラサンド」(750円)
志賀直哉の弟、志賀直三がデザインした店内には、先代が好きだった人物画が壁いっぱいに飾られている
 生ジュースの店として知られている「カド」だが、くるみパンも美味しいと評判だ。「活性ジュースとくるみブルーベリーパンのなすとモッツァレラサンド」(750円)は、人気のセットメニューで、活性ジュースには、蜂蜜、アロエ、セロリ、グリーンアスパラ、フルーツなどが入っている。
 くるみパンのテイクアウトもできる。くるみパンは種類が豊富だが、シンプルなものが売れると言う。一番人気は「くるみレーズンクリームチーズ」。
 「先代の頃は、パンは仕入れていましたが、生ジュースに合うパンを追及した結果、自家製のくるみパンにたどり着きました」と宮地さん。
 手作りのくるみパンは独学で学んだ。店に来る客は高齢者も多いので、柔らかく噛みやすいパンを作ることにもこだわった。パンを店で作るとなると、機材などの投資費用もかかるため、母親と喧嘩したこともあったという。しかし、いくら費用がかかってもパンにはこだわりたかった。
 「先代との喧嘩はつきものですよ。二代目は先代と比べられ、風当りが強いのも事実です。二代目はみんなそうだと思いますよ。親は頑固ですし。先代のこだわりは、体にいいものを作るということでした。ただそれだけです。その意志だけは継いで、自分なりに変えていくんです。変えたことで、来なくなる人もいますが、新しい人もやって来きます。二代目がうまく進化させることが使命だと思っています。二代目がやるべきことを怠ってしまったら、そこでおしまいだと思うので」



よそから来た木でしかない
グラハム粉を使った焼きたてのくるみパン。もっちりとした食感で、年配者でも食べやすいやわらかさ
店から少し歩いたところには、5月22日に開業したばかりのスカイツリーがすぐ目の前に姿をあらわす
 宮地さんはスカイツリーができたことによる影響について次のように語ってくれた。
 「スカイツリーは、よそから来た木としか思えないですね。まわりの住民もそう思っている人が多いと思いますよ。スカイツリーが下町の木になるには少なくとも10年以上はかかるんじゃないかな。実際、スカイツリーができたからと言ってそれほど変化を感じてはいません。外国人などの観光客が来て、店に立ち寄る人は少しは増えたとは思うが、店をやっていく上であまり大きな影響はないですね。ただ、最近は中国の方が多く、中国人のマナーの良さに驚かされます。文化度が高くなっているなと思いますね」
 美術館巡りと自転車が好きだという宮地さん。店を継いでから長期の休みを一度も取ることなく働き、週に1日しかない休みを利用して、仕事への鋭気を養う。 「自転車を早く走らせるより長距離を走る方が自分にはあっている」と宮地さんは言う。「カド」は50年余り、数々の時代の風雪に耐えてきた。人や街の流れが変わろうと、先代からの伝統を守り、これから先の時代も変わらず二代目は走り抜けていくのだろう。

SHOP DATA
店名:カド
住所:東京都墨田区向島2-9-9
電話:03-3622-8247
営業時間:午前11時~午後9時
定休日:月曜日



原価計算女王
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