■特集■「クープ・デュ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリー2012」で優勝の日本代表選手のその後 - ブランスリー電子版


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特集/2012年7月号

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■特集■「クープ・デュ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリー2012」で優勝の日本代表選手のその後
優勝の結果発表を受けて喜ぶ日本代表チーム
「クープ・デュ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリー2012」は、フランス・パリで3月に開催された製パン製菓の見本市「ユーロパン」内で行われた。
日本代表チームの制作の様子
ヴィエノワズリー部門で佐々木氏が制作した、丸ごと1個のリンゴをパイ生地で包んだ「ポム・ジュトゥーズ」
 フランス・パリで今年3月に開催されたパンの世界大会「クープ・デュ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリー」で、ポンパドウルの佐々木卓也氏、神戸屋レストランの長田有起氏、同じく神戸屋レストランの畑仲尉夫氏の3人で構成する日本代表チームが見事優勝を果たした。同大会の日本代表最終選考会が行われたのは2009年。それから優勝を勝ち取るまで、3年以上の歳月を経た。3人の選手はそれぞれ、勤務先での通常の業務をこなしながら日本代表の座を勝ち取り、トレーニングを積んだ。そしてその日々の努力が実を結んだのだ。優勝から3カ月が経った現在、周囲への影響や選手自らの変化などについて、佐々木氏、長田氏、畑仲氏の3人の選手に話を伺った。



トレーニングで失敗の経験を積み、応用力が養われた-ポンパドウル企画部製品開発課 佐々木卓也氏
「ヴィエノワズリー」を担当したポンパドウル企画部製品開発課の佐々木卓也氏
ポンパドウル元町本店の店頭にポスターを貼って優勝したことをPRしている。大会そのものを知らない客も多く、ポスターの前に立ち止まってじっくり読んでいく人が多い
ポンパドウル全店で、佐々木氏の優勝作品の「T クロワッサン」(157円)、「T ショコラ」(210円)などを6月から販売。製品名の「T」は、佐々木卓也氏の名前の「T」を表している
「ポム・ジュトゥーズ」は、元町本店などポンパドウルの一部の店舗で6月から販売。価格は1050円。「T クロワッサン」と同様に佐々木氏の優勝作品
Q 優勝したことによって、仕事に変化はありましたか。
A 佐々木 大会に出場する前と同じで、ポンパドウル全店に向けての製品開発をしています。ただ、優勝後はまるで巡業のように、全国の店舗をまわるようになって、忙しさが増しました。先日行ってきた熊本では地元のラジオに出演し、そのラジオスタジオが併設された百貨店で、パンの特別販売をしてきました。
 こうした店頭でのPR活動もしながら、各店舗で製造の技術指導もしています。大会で作った作品を再現したものを、6月から商品化したのですが、これらに使う粉は、通常の商品には使っていない粉です。いつも新製品は2カ月間で8品ほど出していますが、粉はいつも決まった銘柄のものを使っていますので、今回はおそらくほとんどのスタッフたちにとって、初めて扱う粉であったと思います。ですので、今回は、指導は通常以上に丁寧に行う必要を感じていますが、スタッフの技術力のさらなる向上を図るいい機会になると思っています。

Q 大会での優勝について、お客様の反応はどうですか。
A 佐々木 大会に出場する前と同じで、ポンパドウル全店に向けての製品開発をしています。ただ、優勝後はまるで巡業のように、全国の店舗をまわるようになって、忙しさが増しました。先日行ってきた熊本では地元のラジオに出演し、そのラジオスタジオが併設された百貨店で、パンの特別販売をしてきました。
 こうした店頭でのPR活動もしながら、各店舗で製造の技術指導もしています。大会で作った作品を再現したものを、6月から商品化したのですが、これらに使う粉は、通常の商品には使っていない粉です。いつも新製品は2カ月間で8品ほど出していますが、粉はいつも決まった銘柄のものを使っていますので、今回はおそらくほとんどのスタッフたちにとって、初めて扱う粉であったと思います。ですので、今回は、指導は通常以上に丁寧に行う必要を感じていますが、スタッフの技術力のさらなる向上を図るいい機会になると思っています。

Q 大会での優勝について、お客様の反応はどうですか
A 佐々木 店頭には顔写真入りのポスターを貼って優勝した旨をPRしていますが、私がその横にいても、気付かない人が多いという印象です。元町本店では特にそう感じます。
 でも、ポスターの前に立ち止まってじっくり読んでくれている方も多いので、関心の高さは感じます。また、地方の店舗では、握手やサインを求められることもあります。こうしたことは、元町本店などの都会の店舗ではあまりないことなので、地域性の違いを肌で感じています。

Q ご自身の変化は何かありましたか。
佐々木 製品開発を担当するようになって6年が経ちます。それまでは、神奈川県の店舗で12年間、製造を担当していたので、店頭に出て接客をする機会はほとんどありませんでした。
 今こうして全国の店舗で店頭に出てPR活動をするようになり、直接お客様と触れ合う機会が増えました。大会に出ずに通常の業務をしていたら経験できなかったことだと思っています。
 店舗にいた当時は、この大会のことは知りませんでした。現在の製品開発の部署は業界関係の情報量が大変多く、この部署に異動後初めて大会のことを知り、挑戦してみようと思いました。
 過去にも1度応募したことがあります。そのときは「バゲット&パン部門」で応募して予選落ちしました。2度目の挑戦となった今回、応募する部門を「ヴィエノワズリー」にしたのは、好きだと思うことよりも、得意だと思うことを活かしたかったからです。細かい作業が得意で、手先の器用さには自信があるので、「飾りパン」か「ヴィエノワズリー」ということになりました。そして、「飾りパン」は普段作っていないので、「ヴィエノワズリー」で、手先の器用さを発揮しようと思いました。
 現在、製品開発課では3~4人のスタッフで8品目の新製品を2カ月間かけて開発しています。これに対して、大会では3年間かけて7品目のレシピを開発しました。
 販売用の製品については、お客様が買いやすい価格設定と、作りやすさが必須条件となります。一方、大会用の製品は、使用材料の価格や入手のしやすさは関係ありませんし、見た目を美しく仕上げるための手間も惜しみません。このように、売ることを目的とせずに作品を作るという点で、普段の業務とは違う発想で、製品開発に取り組むことができました。 

Q 主な勝因は何だと思われますか。
A 佐々木 大会当日、どんな粉が用意されるか分かりませんので、いろいろな粉を試して、経験を積んでいきました。1種類ずつの粉について記録を取るようなことはしなくても、たくさんの粉を使っていくうち、「記録より記憶」と言うように生地に触った感触から粉の性質が分かるようになっていきました。今まで、たくさんの製品を開発してきましたが、ここまで粉と向き合うことはなかったと思います。ですので、パンが粉と水とイーストを使って作るものであるということや、どうやって、粉がパンになるのかということなど、パン作りの基本的な事柄に改めて向き合って考えることができました。
 本当に数多くの粉を試しましたが、やはり粉の性質を的中させるのは難しく、たくさん失敗しました。でも、失敗の経験が多いということは、経験値が高いということです。経験値を高めておけば、適応能力が高くなるので、本番で、どんな粉が出てきても、また、使ったことのない機材が用意されていても、ある程度カバーできるようになります。そのために、トレーニング中は使ったことのない粉をどんどん試し、あえて自分に課題を与えていきました。
 実際、大会本番の粉はこれまで使ったことのないもので、状態もよくないものでした。作業中にうまくいっていないことに気付いた時、それが今までに経験してわかっている範囲内のことであれば、微調整していくことができます。最終的な製品を良い品質にできるかどうかは、これまでにどれだけ失敗したかにかかっているのだと思います。

ポンパドウル概要
全国に直営の82店舗を展開。すべての店舗がスクラッチ製法。
本社 神奈川県横浜市中区元町4‐158‐1
創業 1969年
従業員数 722人





 「クープ・デュ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリー」は、フランスのMOFらが設立した手作りパン振興会が主催して、1992年から始まった。12カ国が参戦し、各国選手団は3人で構成される。「バゲット&パン」「ヴィエノワズリー」「飾りパン」の3部門を、3人が1部門ずつ分担して担当する。2012年大会の結果は、1位日本、2位アメリカ、3位台湾、4位スウェーデン、5位フランス。



パンの出来を見る目が厳しくなった
長田氏がチーフを務める神奈川県の神戸屋レストランキッチンルミネ藤沢店。「日本チーム優勝!!」と書かれた大きなポスターも、集客に効果を出している
4月のフェアで、長田氏と畑仲氏が考案したパンを販売。長田氏が考案したのは写真右奥の「ブリオッシュ・レザン・アマンディーヌ」(357円)。畑仲氏が考案したのは写真左手前の「北海道大納言と宇治抹茶のペストリー」(357円)。このほか、同社の歴代の日本代表が考案したものも合わせて、計8種類を販売した
「バゲット&パン」を担当した神戸屋レストランキッチンルミネ藤沢店チーフの長田有起氏
「飾りパン」を担当した神戸屋レストランキッチン横浜店副店長の畑仲尉夫氏
長田氏の制作したライ麦を40%配合した「パン・オ・セーグル」
畑仲氏の制作した飾りパンは、羽ばたこうとする鶴の姿が表現されている。「曲線美を出すのに苦労した。線を細くすることを心がけたので、強度の調整が難しかった」(畑仲氏)
Q 優勝したあと、店に変化はありましたか。
A 長田 売上げが明らかに上がり、来客数は約15%増えました。優勝した直後、そのことがテレビで全国放送された影響も大きいと思います。
 駅ビルのテナントである当店は、周囲にひしめく商業施設内のベーカリーと競合しています。毎日あ
ちこちの店に行くというよりも、決まった店に行くお客様が多いようです。駅は南口と、当店のある北口とに別れているのですが、普段南口しか通らないという方から、「今日初めて来たのですが、テレビで優勝の報道を見て、それでお店がここにあることを知ったんです」と言われました。
 たくさんの人が行き交う立地とは言え、お客様それぞれの動線は滅多に変わりません。ですので、新規客を獲得するきっかけをつかむのに苦労します。こうした意味では、今回の優勝がかなりいい影響をもたらしてくれていると思います。
 また、藤沢地区のタウン誌で取り上げてくれていたことの影響も大きいですね。3年前、日本代表に決まったときから、トレーニングの様子などを私の顔写真入りで掲載してもらっていました。お客様は、新製品の紹介などよりも、こうした内容の方が興味深く読んでくださっていたようです。
 店舗では、チーフとして製造と接客、販売のすべてを行っているのですが、店頭に出ると、お客様から「頑張って」と声をかけられるようになりました。タウン誌の効果です。このように、常連のお客様や地元の方からは、大会前から顔を覚えてもらって、応援していただいていました。そして、応援してくださる方が増えるのと同時に、売上げが徐々に上がってきていたという実感があります。

A 畑仲 私が副店長を務める横浜店は、テナントとして入っている商業施設のリニューアルと同時に開業し、今年で6年目になります。当店が開業する前は、横浜駅周辺に神戸屋レストランキッチンがなかったので、6年かけて少しずつ知名度が上がってきたと実感しています。今回の優勝も、横浜駅周辺の方々に、神戸屋レストランキッチンを知ってもらういい機会となりました。
 地下鉄の改札に近い立地であることを考えると、朝の通勤途中の方の需要が多いことを想定していましたが、実際営業してみると、朝の需要はそこまでなく、帰宅途中の夕方以降が、最も混み合うことがわかりました。1日の売上げの半分を占めるほどです。
 当店は間口が広いので、集客には商品の棚揃えの良さが重要となってくるのですが、売上げの波を考えると、閉店時刻が迫ってきても、棚揃えは気が抜けません。
 店頭には、優勝したことを伝えるポスターを貼り出しています。普段は通り過ぎるのが日課となっているお客様が、足を止めてくださるきっかけになればと期待しています。実際、立ち止まって読んでくださる方も多くいらっしゃいます。

Q 勝因は何だったと思われますか。
A 長田 トレーニング期間が長かったのが幸いしました。日本代表に決まった後、歴代の選手の方々は、短い場合だと1年もないときがありましたが、私たちは約3年間ありました。日本は今回シード権がなく、アジア予選を通過しなければならなかったからです。まず、アジア予選に出る日本代表を決める一次選考会が2008年秋に行なわれましたので、日本代表に決まってから本選まで3年間かけてトレーニングができました。
 そして、アジア予選を経験できたことは結果として、本選で戦い抜くための基礎体力づくりに役立ちました。アジア予選当日に使った粉や水、機械は想定よりかなり状態が悪かったため、作品の出来もいいとは言えませんでしたが、日本は1位の評価で韓国と共にアジア代表を勝ち取りました。材料や環境の違いに耐え、公開競技として8時間やり通せたことが貴重な経験となりました。それがあったから、本選でも動じずにすんなりと競技ができたんだと思います。

Q ご自身の変化は何かありましたか。
A 長田 歴代の代表選手たちで結成された実行委員の先生方に指導していただけたので、トレーニングしていくに連れて自分のレベルが確実に上がっていったのを実感していました。
 そして今感じていることは、パンに対する見方が変わったということです。今まで気付けなかったことに気付くことができるようになりました。パンの出来を見る目が厳しくなりました。「この仕上がりでは店頭に出せない」という、パンの出来をチェックするときのボーダーラインが上がったんです。自分のパンに求めるレベルが高くなったということです。
 今後は、立場的に考えても、後進の指導に、一層力を入れていくこととなります。今回得ることができた技術や知識を、若手社員にいかに伝えていくかということが課題になると思っています。自分のパンを見る目が厳しくなったからと言って、そのまま強く言ってしまうのではなく、相手に合わせた言い方を考え、正確に伝えていけるように努力していきたいと思っています。

A 畑仲 日本が初優勝を飾った2002年の大会の代表選手であった渡辺明生さん(現在大阪府吹田市のミル・ヴィラージュオーナーシェフ)と、当時同じ店舗で働いていました。トレーニングする姿を身近で見ていたその頃から、自分も具体的に大会を目指すようになりました。
 国内最終予選は、過去2回落ちています。今回3回目にしてようやく通過でき、日本代表として初めてトレーニングを受けました。実行委員の先生方に毎月、作品のプレゼンをします。そのときいただいたアドバイスを忠実に守っていき、力を付けていきました。 
 当社には、この大会を目指す社員が常におり、10年以上前からこの状態は続いています。ですので、これまでに蓄積してきたノウハウは会社としても持っているので、普段の業務では作らない飾りパンも、抵抗なく挑戦することができました。
 代表に決まってからは、デザインが最も大きな課題でした。歴代の作品を参考にすることも大事ですが、その時代に合った形というのは明確にあります。デザインについては、とまどいや迷いがありましたが、実行委員の先生方のアドバイスと、自分の思いを融合させて作り上げていきました。
 これまで実行委員の先生方をはじめ、たくさんの方から力をいただいてきました。育ててもらった恩返しとしてできることは、後進の育成や、次回の大会を目指す人に協力していくことだと思っています。

神戸屋レストラン概要
関東、東海、関西地区に直営で40店舗を展開。業態は、ベーカリーレストラン、ベーカリーカフェ、ベーカリーのテイクアウト専門店など。
関東事業本部 神奈川県海老名市杉久保南1丁目2番1号
創業 1975年
従業員数 316人

原価計算女王
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