顧客に寄り添う - パン工房カトラン - ブランスリー電子版


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お店拝見/2003年3月号

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顧客に寄り添う - パン工房カトラン

パン工房カトランの外観


ゆったりした雰囲気の店内
 パン職人としてのプライドがあるからこそ、顧客のことを真剣に、そして自然に考えられる――パン工房カトランの高井正文オーナーはそんな感じの人だ。顧客の言うことを誠実に聞き、考え、行動で応える。高井さんは、顧客との信頼関係があって初めて、顧客への提案が意味を持つ、ということをさりげなく教えてくれた。

住所 東京都杉並区下井草3-40-12
電話 03-3301-5455
営業時間 午前10時~午後10時
定休日 第3火曜



地域の人達の信頼を勝ち取る。ベビーカーを押して入れる

高井正文さん 知恵夫人

「上石神井から週に2回ほど必ず玄米パンを買いに来てくれる年配のお客様がいます。散歩する際にウチまで足を伸ばすそうなんです」
高井さんはこう言って目を細めた。
客層は子供から年配者まで幅広い。ほとんどが常連客。駅前商店街を抜けたあたりに位置する住宅街と商店街の中間立地。
「休憩を取るために仕事を抜け出して商店街を歩いていると、『フランスパン3本とっておいてね。夕方取りに行くから』なんて声をかけられることもあるんです。それってとっても大事なことだと思います」と高井さんはいう。
積極的に売り場に出るようにしている。レジに入ることも多い。高井さんの姿が見当たらないと、厨房を覗きこんでくる顧客も多いそうだ。
パンの配達にも積極的だ。特に年配者や小さな子供を持った主婦から「パンを届けて欲しい」という声が多いという。
「決まった曜日に決まったパンを届けることに決まっているお客様もいます。予算だけ指定されて、パンの種類はお任せという人もいます」
パン工房カトランは、今から5年前、現在の場所にオープンした。それまで7年間営業した東京世田谷区砧の店舗があったビルがとり壊されることになり、移転しての新装開店だった。
新しく店を出すに当たって、高井さんは、ベビーカーを押した若い主婦や年配者でも楽に買い物ができる店にしようと考えた。入り口の段差をなくし、店内も顧客が移動するスペースを広く取った。パンの陳列棚は、子供でもパンが楽に取れるように低くして、段数を少なくした。世田谷区砧の店舗は、入り口が急な階段になっていて、ベビーカーを押した主婦などが来るたびに、高井さんやスタッフが手を差し伸べていた。
あらゆる年代の人が来店するため、パンの種類も豊富だ。店内を見渡すと、「これは子どもがほしがりそう」「あのパンは年配者にファンが多いに違いない」といった具合に、どの年代の顧客を意識した商品かがすぐわかる。
高井さんは最初はおやつ系のパンより、食パンやハード系などの食事パンに力を入れようと考えた。しかし、「自分のやりたいことだけではお客様の理解は得られない」と実感した。



商品開発に顧客の声を生かす。顧客の本音を探り出す

思考錯誤の末、商品化された「ラズベリーケーキ」


調理パンなどは顧客の希望があればレンジで温める


子供向けの菓子パンなども多い
高井さんは、顧客の声に耳を傾けることに最大限の注意を払いながら、商品開発にとり組んできた。例えば最近出した「ラズベリーケーキ」(350円)。ラズベリーピューレを練り込んだシフォンケーキだが、ある顧客の「ギフトになるお菓子があったら嬉しい」との声がきっかけでできた商品だ。高井さんは、顧客のその一言から様々に思いを巡らせた。
「そういえば近くに気の効いた洋菓子店がない」「誰もが知っていて見ただけでどんな味かが想像できる製品がいい」「パウンドケーキはどこのベーカリーでもやっている」「油脂分の摂りすぎに注意している人は多いが、本当は思いっきり食べたがっている」
思考錯誤の結果、油脂は、サラダ油ではなく、エキストラバージンのオリーブオイルを使うことにした。1年中安定した材料が入手できるなどの理由から、ラズベリーを練り込むことにした。ギフト専用として訴求するため、ホールのみの販売とした。ギフトとしてそのまま使えるように、きれいなラッピングを施した。
しかし、これで完成ではない。高井さんはこの製品を商品として売り出す前に、試作品として約1カ月間店頭に並べ、常連客に味わってもらった。「ラズベリーの粒々感があった方がいい」との声が多かったため、ラズベリーを裏ごしせずに、そのまま練り込むことにした。
「お客様はなかなか本音を言ってくれない場合もありますから、食べているときの表情などからも判断します」と高井さんは笑う。



顧客の食生活に深く関わる。探求心は、人一倍強い

塩について語る高井さん。左下が「天外」
高井さんのこうした努力が身を結びつつある。顧客の方から食生活について相談してくることも多くなったという。ある顧客は「いつも普通の食パンを買っているが、休日の遅い朝食に何か違ったパンを食べたい。ウィークデイは、朝、家族が揃うことはないが、休日は全員揃う」と声をかけてきた。
その時、高井さんは「水を得たさかな」になった。松の実などが入った小型のライ麦パン「力の実セーグル」(250円)をまず薦めた。「薄くスライスしてトーストして、いろいろな惣菜をのせて食べてください」という言葉も添えた。さらに高井さんは、その顧客の「子供たちは自分でいろいろはさんで食べたがる」という相談に対して、「ドッグパンやバンズがいいですよ」と提案した。
顧客との信頼関係があって初めて店からの提案が意味を持つ、という当たり前のことを高井さんは身を持って教えてくれる。
高井さんはパン職人としてのプライドと探求心も人一倍強い。「手を抜かずに地道に作っていくしかありません。各工程での細かなことの積み重ねが製品のでき映えという結果となって現れるわけですから」と話す。
つい最近まで、製パン材料のひとつ、塩にのめりこんでいた。十数種類の塩をひとつひとつ試して、結果を吟味した末に、内モンゴルの岩塩から作った「天外」など3つの塩にたどり着いたという。高井さんは「『天外』は粒子が細かく、まろやかな味がするんです。フランスパンや果汁を練り込んだパンなどに使っています」と教えてくれた。
次は水だ。すでに、福島県小野町の花崗岩を多く含んだ地層から涌き出る水に注目し、その水を使って製パンテストを繰り返してきた。近くその地層の成分を通して水をろ過する浄水装置を購入する計画だ。

子供から年配者まであらゆる年代層を意識する

カトランの版画を飾ったイートインのスペースもある セルフのコーヒーも販売
玄米食パン オレンジブレッド

カトランの看板商品のひとつが炊いた玄米を練り込んだ「玄米ブレッド」(1・5斤250円)。ハチミツを練り込んで穏やかな甘味を出した。
以前は玄米をハード系の直焼きパンに練り込んだ商品を製造販売していたが、より多くの人に食べてもらおうと、プルマン形の食パンに切り替えた。ハチミツを配合することで、食べやすい玄米パンになったという。
このほか、ブレッド類では、仕込み水にオレンジの果汁を使った「オレンジブレッド」(ワンローフ500円、ハーフカット250円)などが人気という。同製品は、仕込み水にオレンジの果汁だけを使って作る。高井さんは「『パンの形をしたオレンジ、果物なのにパン』がコンセプトです」と話す。オレンジが自然からエネルギーを得て作り出したエッセンスをパンという形でたべてもらうのが狙いだという。
「ブルーベリーブレッド」(ホール450円、ハーフカット225円)は、仕込み水にブルーベリー果汁だけを使ったカンパーニュ形のパン。「パンの形をしたブルーベリー」がコンセプトだ。
「スペシャルランチ」(160円)は、パン生地に、卵サラダ、ベーコン、プチウインナーをトッピングして焼き上げた焼き込み調理パン。子供や中学生などに人気を集めているという。
「キーマカレーパン」(140円)は、キーマカレーフィリングをトッピングして焼き上げたあと、目玉焼きをのせた商品。平台の中にあってひときわ目を引く。

パン工房カトランは、西武新宿線・下井草駅下車徒歩約3分。駅前商店街を抜けたあたりに位置する。店名のカトランは、フランスの版画家、ベルナール・カトランからとった。
店舗面積は、製造スペース、売り場ともにおよそ12坪。スタッフは、高井さんと知恵夫人のほか、社員が女性2人、ハートが女性2人の体勢。知恵夫人は販売のみで、他は全員製造と販売の両方に関わる。
店内には、カトランの版画が飾られている。イートインのスペースもあり、コーヒーメーカーを置き、セルフサービスのコーヒーを150円で出している。
ブルーベリーブレッド スペシャルランチ
キーマカレーパン

残ったパンなどを乾燥させて作るパン粉を配合

ファーブルトン
ファーブルトン
 残ったパンなどを乾燥させて作るパン粉を配合。ファーブルトンとは仏ブルターニュ地方の菓子で、「ファー」はおかゆ、「ブルトン」はブルターニュを意味する。
【配合グラム】
全卵 5個分
牛乳 500
バター 70
くるみ 50
レーズン 70
モーンペースト 50
パン粉 200
バニラエッセンス 適量

【作り方】
(1)バターを湯煎して、溶かす(溶かしバターにする)
(2)バター以外の全材料と[1]をよく混ぜ合わせ、一晩冷蔵庫でねかせる
(3)天板にバター(分量外)を塗り、[2]を流し入れる
(4)[3]の表面を平らにならす
(5)[4]を上火180度C下火200度Cのオーブン(フジサワ製固定窯使用)で50分焼成する

※やや低めの温度で長い時間じっくりと焼き込む。

原価計算女王
原価計算女王
フランスパンの残り生地を利用して作るライ麦パン

くるみとイチジクのセイグル
くるみとイチジクのセイグル
 発酵時間を長くとり、じっくりと発酵させる小形のライ麦パン。フランスパンの残り生地を利用。
【配合%】
イーグル(強力粉) 80
フランスパン用粉粉(エスポワール) 20
ライ麦粉 10
老麺種 50
砂糖
1・8
ハチミツ
コンデンスミルク
モルト 0・5
マーガリン
ショートニング
クルミ
イチジク 40
60~64

【工程】
ミキシング(カントーミキサー製縦型30コート使用) L5分MH3分(油脂投入)L3分MH3分(くるみ、いちじく投入)L3分、
発酵 2時間40分(1時間30分の時点でパンチ)、
分割 150グラム、
ベンチタイム 1時間、
成形 クッペ形、
ホイロ 28~30度C76~80%45分、
焼成(フジサワ製固定窯使用) 200度C30分(スチーム注入)

※老麺種は、フランスパンの残り生地を使用。

缶詰のコーンとシロップを配合するパン工房カトランの看板商品

コーンパン
コーンパン
 コーンの缶詰のコーンとシロップを配合する。生クリームも30%配合する。独特の味と食感に仕上がっていて、評判を呼んでいる。
【配合%】
ライラック(強力粉) 100
生イースト
全卵
生クリーム 30
上白糖 10
塩(天外=内モンゴルの塩)
発酵バター
コーン(コーンの缶詰) 30
コーンシロップ(コーンの缶詰) 28

【工程】
ミキシング(カントーミキサー製縦型30コート使用) L2分MH5分(発酵バター投入)L3分MH3分(コーン投入)L1分、
捏ね上げ温度 25~26度C、
発酵 1時間~1時間5分(45分の時点でパンチ)、
分割 80グラム、
ベンチタイム 20分、
ホイロ 28~30度C76%30~40分、
焼成(フジサワ製固定窯使用) 上火200度C下火200度C15分

※ミキシングでコーンを投入した後は、ミキサーのフックを少しまわして止め、手で生地をもみほぐす作業を1分以内に5回程度繰り返す。コーンが、つぶれない状態で生地中に均一に散らばるようにする。
※ホイロは、やや乾き気味の方がいい。
※ホイロ後、上面にはさみでカットを入れ、バターをトッピングする。
※コーンの缶詰は、砂糖が入っていないものを使用する。実際にはアメリカ製の「イグルー」という商品名のものを使用。


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