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特集/2012年1月号 |
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女性が経営するベーカリー
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店内には、心が和むような心地良い音量のBGMが流れている。多恵子さんが最も好きなアーティストの曲だ。「音楽がないとパンが作れないほどです」 入り口の戸や店前などにワンポイントとして飾られている花や緑は、そのアーティストのファンの集まりで知り合った、花屋の友人によるものだ。また、床にコンクリートを流す作業など、開店準備を手伝ってくれたのも、趣味を通じての友人たちだ。 「体力はある方だと思っています」と言う多恵子さんだが、「友人の協力がなかったら、ここまでできなかったと思います」と振り返る。 土曜日は平日の倍近い来店客がある。日曜日が定休日なのは惜しい気がするが、土日のどちらかは必ず休みにすると決めていた。友人の休みと合わせ、食事に行くなどの接点を大切にしている。また、最近は様々なイベントへの出店要請が増えてきた。それらのイベントは週末に開かれることが多いため、店を閉めることなく、出店できるのだ。 「今日はちょっと疲れているなと思ったときでも、お店を開けて、友人が飾ってくれた花を見ると『よし、今日も頑張ろう』って元気になるんです」 食パンは10本、バゲットは9本などと、1人では多くの量は焼けない。早いときは2時頃に売り切れてしまうときもある。 「せっかく来てもらったのに、パンがないなんて申し訳なくて。自分をだましだまし『あともう少しできるかな』と頑張る毎日です。作れる種類もオープン当初より増えてきました」 開店準備にかかった費用は、およそ600万円。建物が元ベーグル専門店だったため、ガスなどの基礎工事をせずに済んだ。また、床や壁などの工事も、できる限り自分で行った。 「充分な資金があった訳ではないですが、1人でやるからこそ、厨房の環境作りは大事です。多少無理してでも、オーブンやホイロなどは、作業効率がよくなるように、納得のいくものを備えようと 思いました」 挨拶に来る小学生がいるのも、多恵子さんがパンを作る様子が楽しそうに見えるからだ。多恵子さんが自分で納得できるように作り上げた厨房の環境や店のデザイン、BGMなどがサポートしてくれるから、体力的に辛いことがあっても頑張れる。 「自分が楽しくできないと続けられないです」と多恵子さん言った。 ShopData 店名 ブーランジュリー ドド 住所 千葉県千葉市稲毛区黒砂1‐14‐5 電話 050‐1075‐9654 営業時間 午前11時~午後6時 定休日 日・月曜日 品目数 パンは24品目、焼き菓子は約5品目 スタッフ 製造1人、販売1人 店舗面積 売り場2・5坪、厨房 日商 平日は4・5万円、土曜は8万円 |

仕事は自分のために続けるもので、それが同時に誰かのためになる - アーネカフェ | |||||||||||||
宮本麻紀さんと早苗さんの姉妹は、10年間営んだベーカリー「BAGEL」を閉め、2011年8月、東京・杉並区の住宅街に「アーネカフェ」と「ジージョベーカリー」をオープンした。店名に「アーネ」と「ジージョ」とあるように、「姉」の麻紀さんが「アーネカフェ」を、「次女」の早苗さんが「ジージョベーカリー」を切り盛りしている。 「ジージョベーカリー」でのパンと菓子の製造は、早苗さんが1人で行う。同ベーカリーでは売り場は設けておらず、作ったパンと菓子はそこから自転車で5分ほどの「アーネカフェ」に配達。同カフェで麻紀さんが、陳列して販売しながら、モーニングやランチ用に調理しての提供もしている。 10年間続けた「BAGEL」は、「混んでいるときは、5、6人いる販売のスタッフが半分外に出てしまうような、売り場と厨房合わせて10坪もない小さな店舗」(麻紀さん)だったが、常に客足が絶えない人気店で、地元客から愛されていた。手狭になったこともあり、移転を決めた。移転に伴い、カフェを設けた理由について、麻紀さんはこう語った。 「体力的にきつい仕事なので、このまま製造と販売だけを続けていくことに、不安がありました。今は若いからできているのだと思っていましたから」 当時も1人で製造を担当していた早苗さんは、前日の夜10時から昼過ぎまで作業し、寝床に就くのは夕方。睡眠時間は確保できていたものの、昼夜逆転に近い生活。麻紀さんも同様だった。 「無理が続くと、やりたくてやっている仕事でも、嫌になってしまいます。仕事は自分のために、そして生きていくために続けていくもので、それが同時に誰かのためになるものなんだと思います」(麻紀さん) 現在は、規則正しく夜に睡眠がとれるようになった。月に6日の休みも、ショッピングや映画鑑賞などに費やせるようになった。 「パンだけを考えていたときと比べると、視野が広がってきました。自分を育てていくことは、カフェの仕事には欠かせません。お客様とはよく会話をします。そして、『ここでの時間を楽しんでもらう』ということを第一に接客をしています」 麻紀さんは接客が好きで、早苗さんは職人肌でものづくりが好きだという。姉妹で店を持ったのは「たまたま、パートナーが身近にいたから」(麻紀さん)で、それぞれの得意分野が生かされた形となった。 パンを通して西洋の文化を伝えたい 「パン屋になりたい」と思って「BAGEL」を開業し、「パン屋になろうとしている状態」で10年続けた。今は「パン屋という仕事を通して、何を伝えていきたいか」を考えている。そこに至るまで、やってみないと分からなかったことがたくさんあったという。 「ベーカリーは、自分の生まれた場所、すなわち住宅街でできる仕事だと実感しました。そしてその面白さに気付きました。ベーカリーは女性が買いに来る店というイメージでしたが、実際は老若男女を問わず、あらゆる方が来てくれます。それは、遠くから来る人でなく、近所の人ばかりで、そして何度も来てくれます。ベーカリーはリピーターしか来ないんだと思いました」 震災後、常連客が頻繁に来店した。麻紀さんは「店の存在を、顧客の普段の生活の一部として、安心できる場所にしていきたいと強く思った」という。 プライスカードは、製品名と価格しか書かれていないものがほとんど。 「製法や原材料へのこだわりをアピールし過ぎてしまうことが、かえってパンへの敷居を高くしてしまうと思うからです。パンは削ったらパン粉になるとか、バターを塗って食べるとか、まずはそういうところから、伝えていけたらいいなと思っています」 食べ方を聞かれたときは、客の好みを考えて提案する。楽しみ方を限定したくないからだ。 カフェで提供するメニューは、「クロックムッシュ」(240円)や「フランスパンのハムチーズサンド」(250円)、「クランペット」(280円)など、シンプルなものが多い。そこには、「西洋の文化としてのパンを伝えたい」という麻紀さんの思いがある。 麻紀さんは、同カフェをオープンする前、米国で女性の経営するベーカリーを数軒訪れた。パンを販売するだけでなく、接客や店舗のインテリアなどに十分気が配られていて、入りやすく、居心地の良い店が多かったという。 「女性、特に主婦にとって、衣食住の仕事は身近なもので、ベーカリーはその中の『食』に関わる仕事です。女性は生活に根差した仕事が向いていると思います。ショッピングや流行を取り入れるのが好きなのも女性です。季節感を持たせた店の飾りつけも、楽しみながら自然とできてしまうんだと思います」(麻紀さん) |

パンの種類は「BAGEL」のときより減らし、30アイテムに絞った。たくさんの種類を作ることに疑問を感じていた。 「ジャムを添えたり、スープをセットに付けたり、食べ方次第でパンの味が変わります。カフェならそのことが提案しやすいんですよ。パンの品目を増やすのではなくて、パン一つについて、食べ方がいろいろあることを追求し、伝えていきたいです」(麻紀さん) また、常連客のほとんどが大抵同じパンを選んでいくという。 品揃えは、リュスティックやカンパーニュなどがメインで、菓子パンのような甘いパンはほとんどない。 「甘いものは菓子として用意しています。また、イベント性や季節感は、パン自体というよりも、菓子で表現したり、サンドイッチの具を旬の食材にするなどして演出します」(麻紀さん) パンの品揃えは変えず、定番品を提供し続けながら、パンのいろいろな楽しみ方を1年通して客に伝えていく。 ホームページは、「来店したときの驚きを楽しんでもらいたい」(麻紀さん)という理由から、設けていない。 店でのライブ感を大事にし、顧客が実際に来店してもらったときに初めて、新しい商品に気付いてもらいたいのだという。 「スーパーでも、生産者の顔が見える果物や野菜が人気です。来店してもらって顔を合わせれば、間違いなくここで作ったものだと伝わります。ベーカリーは作った人の顔を見てもらえる店なんですね」 「BAGEL」は小さな店舗で対面販売だった。客との距離が短く、必ず会話があった。「アーネカフェ」でも適度に会話が交わされている。 「カフェは滞在時間が長いところだから、完全に接客業だと思っています」(麻紀さん) 親子で来店した子どもが、いつも食べているお気に入りのパンの、ソフトフランスにミルクジャムをサンドした「ミルク」(180円)を頬張っていた。 麻紀さんはいつものように小さくカットして提供していた。人によって、パンの食べ方は様々あるのだと実感できる空間だ。 ShopData 店名 アーネカフェ 住所 東京都杉並区梅里1‐7‐2LUNA101 電話 03‐3314‐3234 営業時間 午前8時~午後6時 定休日 火曜・第2・4水曜 品目数 パンは約30品目、焼き菓子は約20品目 スタッフ 2~4人 店舗面積 売り場2・5坪、厨房7・5坪 日商 平日は4・5万円、土曜は8万円 |
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