老舗ベーカリーが華麗に転身‐カフェ・ド・クルー北久里浜本店 [記事の閲覧ブランスリー電子版]

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お店拝見／2011年7月号

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老舗ベーカリーが華麗に転身‐カフェ・ド・クルー北久里浜本店

カフェ・ド・クルーの外観。右は併設のレストラン

ゆったりとした店内。壁際にもおいしそうな商品が並ぶ。２階には購入したパンと飲み物が楽しめる２０席のイートインのコーナーがある

　神奈川県横須賀市にあるカフェ・ド・クルーの前身は、１９２４年（大正１３年）に設立されたホウトーベーカリー。創業時は軍隊にパンを卸していた。戦後は学給パンに移行したが、１９７５年を境に、米飯給食の導入もあって、パン給食の食数が減少し始めた。横須賀もかつては週５回のパン給食であったが、今では週２・５回に半減した。工場の稼働率は下がり、パン給食の復活は望むべくもない。森勇人社長は学給パンから市販パンへの転換を決意した。社長自身が軽井沢の浅野塾で学び、１９８９年（平成元年）５月に現在地にオープンした。今年創業８７年を迎えた老舗ベーカリーの大きな転身だった。

差別化が地産地消に結びつく

左から、新人女性の小松さん、細井チーフ、堀サブチーフ、森専務、新人の佐々木さん

「全国ご当地パン祭り」で第一位になった「よこすか海軍カレーパン」

　カフェ・ド・クルーのキーワードは「差別化」だ。「他店と差別化して生き残るには」と考えたことが、ヒット商品の「よこすか海軍カレーパン」誕生のきっかけとなったからだ。
　カレーパン誕生の最初のきっかけは、３年前に平塚のベーカリーが横須賀で「玄斎カレーパン」として１日に２０００個も販売していたことだ。
　「驚きでした。まさか『横須賀海軍カレー』というブランドがそれほどすごいものとは思わなかった」と森柾人専務は話す。
　カフェ・ド・クルーでも、カレーパン作りに取り組むことになったが、既に「よこすか海軍カレーパン」は、５～６軒のベーカリーが製造・販売をしていた。
　同店がカレーパンの特徴を出すには差別化を考えねばならない。そこでとられた方法が、国産小麦（内麦）の使用と米粉の利用だった。米粉は内麦対比で２０％配合した。米粉といっても、海老名市の酒造会社が吟醸酒を作る際にでる白ぬかのことで、つまりは酒米粉だ。この酒米粉を使うことで、もちっとしてサクサク感のある特徴的な生地が出来上がった。
　カフェ・ド・クルーだけが使えるオンリーワンの酒米粉だが、あくまでも醸造過程で出来る副産物で、二次利用を考えてはいない。製粉企業が挽く米粉とは異なり、品質にバラつきがあるため、製造に当たっては、毎回吸水に気を使わなくてはならない。「うちの技術者でないと使えません」（森専務）。商品化には苦労が伴ったが、日々の努力が実って、開発に成功し、１個２１０円で販売を始めたのが、２年前の５月。
　そして、昨年１０月に開催された「第１回日本全国ご当地パン祭り２０１０」で、「よこすか海軍カレーパン」は１位となった。
　１１種類のスパイスを調合した特製カレーと、特徴のあるパン生地、それに、夏季には横須賀で収穫される玉ねぎ、人参、じゃがいもといった地場の農産物を使用することも評価の対象になったのではと思われる。「差別化」が地産地消にも結びついたのだ。

内麦パン作りから資源リサイクルへ

「横須賀おみやげコンテスト」で銅賞を受賞した「よこすかメロンパンラスク」。後を引くおいしさに、ヒットする理由がわかる

看板商品の「よこすかメイプルメロンパン」（１４７円）。メイプルソースがたっぷりと入っている

中央の棚には、菓子パン類や調理パン類が並ぶ

　他にも内麦を利用したヒット商品がある。「よこすかメロンパンラスク」（１袋３１５円）は、地元で収穫された内麦をメロンパンの皮生地に使用し、香ばしさとともに皮のサックリ感を生み出した。カリッとした食感と甘さが後を引く旨さだ。昨年１２月に発売し『第２回横須賀おみやげコンテスト』で銅賞を受賞した。
　この商品に使用した内麦は、カフェ・ド・クルーが市内の農家と契約栽培しているもの。一昨年、森専務は、小麦を自家栽培する三浦市のベーカリーに刺激をうけ、内麦を試験栽培中の地元農家から手に入れ、試験焼きを行なった。昨年は、つくばの研究所が関東向けのパン用小麦として開発した「ユメシホウ」を農家に依頼して作付けた。２アールの休耕田に種をまいた。「内麦は収量も品質も安定させるのが難しいので不安もありますが、地元産の小麦でパン作りを進めたいと考えています。１０～１５年かかっても本格的な地産地消に取り組みたいですね」（森専務）
　契約栽培する農家の畑には、自店舗から出る生ごみをリサイクルして畑にまく。食品資源再生機器を使って生ごみを１日で堆肥に変えて畑にまいている。
　この堆肥を他の地元の野菜農家にも使ってもらい、そこで収穫された野菜を店で使用。生ごみを堆肥として再生し、土を生かし、農産物としての野菜を育て、それをまたパンに商品化するという、自然にやさしい仕組みだ。

企業努力を地域活性化に

カフェ・ド・クルーの食パン作りの基礎となるはちみつたっぷりの「グルメ食パン」

無添加で素材の味を生かした「クルー食パン」

６種類の食パンのスライスをセットにした「バラエティー食パン」（２３１円）

生クリームと牛乳で仕込んだ濃厚な味わいの「美味食パン」

　将来は、食事系のパンにも内麦を利用したい考えだが、今、その中で人気の商品といえば、やはり食パン類だ。
　店の食パンの技術的な基礎となるのが「グルメ食パン」（１斤２３１円）。はちみつがタップリ入っているうえに、通常の強力粉に加え、小麦の表皮が入った粉を混ぜている。そのままでも甘くておいしいが、トーストすると香りが立ってくる。天然酵母を使用した「クルー食パン」（１斤３１５円）は風味があり、表面はパリッとして中はふんわり。無添加なので素材そのものを味わえる。「美味（うま）食パン」（１・５斤５２５円）は、水を一切使わず、生クリームと牛乳だけで仕込む。濃厚で味わい深い商品。「チョッピリ高級志向」も満足させられる。これらは柔らかで甘さを好む地域の嗜好に応えた商品といえる。
　学給パンから市販パンへと大きく舵をきった老舗ベーカリーが求めた「差別化」は、自分たちだけではなく、地域の生き残りにも貢献しそうだ。

SHOP DATA

店名　カフェ・ド・クルー北久里浜本店
住所　神奈川県横須賀市根岸町３－２－４
電話　０４６－８３５－６５５５
営業時間　午前９時～午後６時
定休日　水曜日
品目数　８０品目
店舗面積　販売スペース２０坪、厨房４０坪
スタッフ　製造社員４人、パート延べ２５人
日商　約２０万円

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