お米でパンを作るホームベーカリー「GOPAN」の可能性 - ブランスリー電子版


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食のトレンドを追う/2011年3月号

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お米でパンを作るホームベーカリー「GOPAN」の可能性
GOPANの価格は5万円前後。ホームベーカリーの中では高めの価格帯だ
小麦ゼロのお米食パン
日本の伝統的主食であるお米からパンを作ることができるホームベーカリー、三洋電機のライスブレッドクッカー「GOPAN(ゴパン)」。その役割、魅力、能力は、パン業界にとって黒船となるだろうか。



炊飯器の開発担当者の一言がGOPAN実現の要に
GOPANで米パンを焼くことにすっかり慣れたという、広報の寺本さん。「材料に抹茶を加えて『抹茶オレパン』なんていうのも作れますよ」
試食の際に、タイ味噌とブルーベリージャムをトッピング。キンピラやじゃこ、肉じゃがなども合うそうで、新たな和洋折衷の食のあり方を楽しめる
米パン作りの工程(所要時間は約4時間)<1>米のペースト化
<2>こねる
<3>発酵
<4>焼き上げ
 GOPANは、世界初の米からパンを作るホームベーカリーである。昨年10月8日に発売を予定していたところ予約が殺到したため、1カ月延期した11月に発売を開始。当初、同社では月産1万台、半年で5万8000台の販売を目標にしていたが、11月末までですでに6万台という目標をはるかに上回るスピードで注文が殺到した。現在は生産が間に合わず、予約受付を4月まで停止しているほどの状況だ。発売までの数カ月間、東京・表参道に「GOPAN cafe」を開き、GOPANで作った米パンの試食キャンペーンを行うという大掛かりなPR戦略も功を奏した。
 近年、米の消費量と食料自給率は減少している(農林水産省「食糧需給表」)。一方、パンの消費は比較的堅調だ。三洋電機では、日本の食料自給率アップに寄与したいと、2003年に業界に先駆けて米粉からパンを作るホームベーカリーを発売。開発にあたっては、米粉を使ったパン作りが進んでいた新潟からノウハウ学んだ。しかし、一般消費者が米粉を入手しにくいということもあり認知度はイマイチ。それに対して、今回発売されたGOPANは、家庭の中にあるお米から直接パンを作ることができる点が画期的である。
 食の安全に対する意識や手作り志向の高まりなどで、ホームベーカリーの国内出荷台数が右肩上がりの状況という点もヒットの一因だろう。
 「このたび発売したGOPANは、生産コストの高さや流通ルートが限定されていた米粉の課題を解決し、小麦を苦手としている人にも喜んでもらえる商品なんです」(三洋電機広報部・寺本由美子氏)
 開発の大きなポイントは、米を粉状にするのではなくペースト状にして生地を作る点にある。これは、「飯炊きおじさん」と呼ばれている、炊飯器の開発担当者のアドバイスがきっかけとなった。米を米粉にする開発に5年、米をペーストにする製法に2年、合計7年の歳月を経てGOPANは発売された。
 実際に、GOPANで作った米パンを試食してみた。小麦パンに比べて水分が多いこともあり、日本人好みの「しっとり・もちもち感」を強く感じる。米特有の甘みも特徴的だ。すでに和食にも合うという評価も定着しており、欧米化した食生活の中に伝統的食品を取り込む掛け橋としても期待される。「ローカロリーだけどおなかいっぱいになる」「ふりかけなどいろんなトッピングに合う」など、試食した人の反応からは米から作ったパンならではの特徴が見られる。
 1斤の材料費は約148円。従来の米粉を使ったパンの材料費が1斤約336円であったことに比べると経済的なことがウリだが、市販の高級食パンやベーカリーの食パンと比べても、味も価格も負けない、との声もある。小麦パンに比べてアミノ酸スコアが高く、カロリーが低いこともアピール面だ。
 GOPANは、ホームベーカリーの最新機能も併せ持っている。小麦グルテンを材料に含んだ米パン、全く小麦を使わず上新粉とオリーブオイルを使用した小麦ゼロ米パン、小麦粉を使用した通常の小麦食パンやバターロール、天然酵母パン、最近話題になっている雑穀米を使用した「雑穀米パン」や、ナッツやレーズンを入れたパンなど合計22種類ものコースがある。
 製菓学校やカルチャースクールからの問い合わせもあり、男性からの問い合わせも多いという。同社のブランドアンケート調査では、1位の繰り返し使える充電式電池「エネループ」に次いで、GOPANは2番目に認知率が高かった。



米農家には嬉しいブーム。地産地消・食育の役割も
GOPANでは、パンに限らず、ケーキやヌードルなどを作ることができる。黒米を使った黒米食パン
雑穀米を使った雑穀米食パン
米粉ケーキ
ヌードル
 「お米への注目が喚起されて嬉しい」「いろんなお米から作ったパンを味わってもらえるのがいいチャンス」「店頭で、GOPANで作った米パンを試食してもらいたい」など、お米屋さんからの反応が大きかったという。お米の美味しさを楽しむ地産地消の取り組みにもなり、減反政策を強いられている米農家にとっても嬉しいブームだろう。全国の農産物イベントではひっぱりだこで、GOPAN製米パンの試食イベントはひっきりなしに行われている。ユニークな取り組みでは、島根県とJA全農県本部が、GOPAN利用者に県産米「きぬむすめ」を無料で送り、味や感想を尋ねるキャンペーンを行っている。
 昨年10月に開催された、21カ国が参加したAPEC新潟でも、ブース出展を行った。米食文化のアジア圏からの要人が多いだけに「もちもちしていておいしい」「すぐ買いたい」という上々の反応。インターネット上では、料理レシピの人気サイトのクックパッドと共同でレシピコンテストも行われ、「柿ピーGOPAN」「牛丼パン」「おいなりパン」などGOPANを手に入れた消費者が積極的にユニークなレシピを投稿し、盛り上がりを見せている。
 ところが、クックパッドのウェブサイトで「ゴパン」と検索すると、炊いたご飯を材料にして、GOPANではない既存ホームベーカリーでも米パン作りが可能であることがわかった。「GOPANがなくても『ゴパン』が作れる」と、利用者によってさまざまなレシピが紹介されている。大手家電メーカーの最先端の技術のさらに先をいく消費者の好奇心と知恵に驚いた。



業務用GOPANの開発が日本の食料事情を変える?


 家庭で楽しむのに限らず、広く米パンを市場に流通させる「業務用GOPAN」については現在検討中という。米の消費拡大につながり、小麦アレルギーの人もパンが食べられるという点から、学校給食などで利用するのも大きな意義があるだろう。政府も、米(粉)パン普及に乗り出し、現在、鳥取県では学校で米パンが給食に出されることもあるそうだ。
 米を材料としたパン作りを大きく発展させることで、食料自給率の上昇はもちろん、メイド・イン・ジャパンの新たな食の提案を世界に発信できるのではないだろうか。(U)

◆米の利便性を柔軟に取り入れては◆
 ブランスリー編集部の話 パン業界としては、ホームベーカリーの普及や米パンがパンに変わることに対しては楽観的なようだ。実際、GOPANの普及でベーカリーのパンが売れなくなる、という声はあまり聞かない。底辺が広がるという意味で、全体としてはプラスになるのではないだろうか。パン業界の中では米を原料としたパンはまだまだ注目度も浸透度も低く、米粉でパンを作ることに抵抗感のある職人もいるだろう。パンのバラエティーが少し広がった、ぐらいの感覚で、気軽にとり入れてみることも手かもしれない。



原価計算女王
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