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特集/2010年10月号 |
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各国の料理とパン 第2弾~パンを主食とする国々の料理とパン~
日本の食卓にようやく馴染んできた、フランスパンやドイツパン。その他の国々では、どのようなパンが食べられているのだろうか。パンの楽しみ方の幅を広げるヒントにすべく、チュニジア、マレーシア、チェコ、フィンランド、アラブの5カ国の料理店を取材した。本誌5月号に続く第2弾。
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チェコのライ麦パンを作るのは「週末パン屋」さん | ||||||||||
「キャラウェイがたっぷり入っているのがチェコのライ麦パンの特徴。キャラウェイの香りと、サワー種の酸味、ビールのほろ苦さの相性は抜群」と話すのは、同店で提供しているライ麦パンを作っている須藤さん。 須藤さんはサラリーマンとして勤務する傍ら、「週末パン屋」と名乗り、同料理店にパンを卸している。ライ麦パンのほか、土日限定で同料理店の店頭で販売する「チェコスタイル焼きたてパン」を、金曜の夜から土曜の朝にかけて作っている。会社勤務の合間を縫って、パンを作るというハードな生活だが「楽しんで作っています」と須藤さん。 須藤さんはホテルのベーカリーでマネジメントをしていた経験がある。材料の発注確認をするのに、「どれだけの粉や卵が必要なのか検討が付かない。ならば、一度自分でパンを焼いてみよう」と思い立ったのがパン作りを始めたきっかけ。それから10年間、パーティーなどのイベント用に発注があると、その都度要望に合わせたパンを作り続けている。 土日限定「チェコスタイルパン」のテイクアウトは、客の要望で昨年10月から開始。レストランで提供しているライ麦パンをはじめ、牛乳と蜂蜜で煮たけしの実とクルミを入れたパンや、編みパンの「プレティンカ」(180円)などの菓子パンも揃い、約10種類が店頭に並ぶ。 |

オープンサンドのベースにも最適な「カレリアパイ」-フィンランド | |||||||||||||||||||
東京・代官山に7月中旬にオープンした「FINLAND CAFE(フィンランド カフェ)」のカレリアパイは、ポテトサラダ、ゆで卵、サーモン、タマネギ、ハーブをトッピング。さらに食用花が添えられて、彩りが鮮やか。 「カレリアパイ自体の味がシンプルでボリュームもそれほどないので、オープンサンドのベースとして活用できます。また、さくっとした食感がトッピングのおいしさを引き立てます」と話すのは、フィンランドの伝統的なレシピをもとに、メニュー開発から手掛けた小林敦司シェフ。 「カレリアパイ」(800円)が盛られた皿は、フィンランドのアラビア社製のもので、ブルーやグリーンなど、鮮やかな色味が特徴。この皿の色味を生かし、さらに食用花をトッピングした盛り付けには、フレンチ出身の小林シェフの技が生きている。 「フィンランドの食文化は、寒さが厳しく、小麦粉や野菜が手に入りにくい環境下で育まれてきました。そのままでは見た目も味も素朴。できるだけ華やかに見えるようにと、シェフにオーダーしました」と同店を経営するDUG取締役の飯塚佐恵子さん。同店のオープン前、飯塚さんはフィンランド政府観光局に勤務しており、年に1回、フィンランドをテーマにしたカフェをイベントとして開催。好評だったので店舗としてのオープンに至った。 「ライ麦パンと一緒に、主食として食べられているのはジャガイモ。現地のスーパーに行くと、料理の用途によってジャガイモが陳列されているんです」と飯塚さん。 そのジャガイモを使ったフィンランドの家庭料理が「ヤンソンさんの誘惑」(850円)という名のアンチョビ入りのグラタン。名前の由来は、アンチョビの香りに誘われたヤンソンさんという修道僧が実在したという話からきている。 「ヤンソンさんの誘惑」だけでもボリュームがあるが、これと相性が良いのがライ麦パン。ライ麦パンとカレリアパイは、京都府中京区にある北欧フィンランドのパン専門店「キートス」から取り寄せている。 フィンランドのベーカリーで修行をした経験のあるキートスの店主、土持裕昭さんは、フィンランドのパンについて「トッピングを変えるというよりも、雑穀や粉の配合を変えることでパンのバリエーションを増やしています。重量があるので、近所の方からも配送の要望があります(笑)」と話す。フィンランドカフェでは全粒粉とシリアル入りのパン「トュットゥ ユスタバ」のスライスや、全粒粉とクランベリーや杏の入ったパン「魔女のつえ」を使った「魔女のつえという名のオープンサンド」(1800円)を提供。 |

アラブ | ||||||||||
アラブパンは、同店近くにあるレバノン大使館の料理長から「アラブの家庭料理の味」として、シェフの若林悟さんが教えてもらった。レバノンで暮らす民族のほとんどがアラブ人だ。 「アラブパンは中東出身のお客様に、故郷の懐かしい味として喜ばれています。家庭で作るパンだからか、都内でも食べられる店はほとんどないようです」と若林さん。 アラブパンは、牛乳、水、イースト、砂糖、国産小麦粉、オリーブオイルを合わせて捏ね、発酵をとったら180度Cで10分間わかめに焼く。わかめに焼くのは、提供する直前に再度温める分を計算してのこと。 食感は非常に軽く、ふわふわとしていて歯切れがよい。 「シンプルでクセのない味なので、具材の味を引き立ててくれる」と若林さん。サンドイッチのメニューは常時4種類。アラブパンのほか、コッペパンのような形の「おもち牛乳パン」や「お米食パン」などすべて自家製パンを使用している。 4つのメニューのうち、1品は週変わりで、ヒヨコ豆ペーストをサンドした「レバノンサンド」や、トマトやきゅうり、黒オリーブ、フェタチーズをサンドした「ギリシャサンド」なども登場する。 定番の人気メニューは、「アボカドクリームチーズサンド」。アボカドに、ペッパー、ハーブ、マヨネーズ、レモン果汁などを合わせてペースト状にし、バターをぬったアラブパンに塗る。さらにクリームチーズをサンド。アボカトペーストの滑らかな食感を、ふんわりとしたアラブパンが引き立てる。味だけでなく、フィリングの食感までも生かすことができるのがアラブパンだ。 |
上質なオリーブオイルを味わうパン-チュニジア | ||||||||||||||||
産業の中核は農業で、農作物は小麦とオリーブが大半を占める。東京・品川区のチュニジアレストラン「イリッサ」のオーナー、メリティーさんも農家の生まれ。同店で使うオリーブオイルとスパイスは、自家栽培のものを母親に送ってもらう。 「オリーブオイルが上質なものでないと、おいしいチュニジア料理になりません」とメリティーさん。サラダやスープ、煮込みなどあらゆる料理に惜しげなくたっぷりと使う。 パンにも入れる。小麦粉1キログラムにつき、150CCのオリーブオイルを練りこむ。バターや卵は入れないので、オリーブオイルの風味がそのまま、パンの味になる。これは「タブーナ」という名前のパンで、チュニジアで最もよく食べられているパンだ。同店のタブーナはアニス入りで風味が豊か。 「チュニジアで暮らしていたときも、自家栽培のオリーブから作ったオイルを使って、毎朝母親がパンを焼いてくれていました」とメリティーさん。近所にパン屋はあったが、朝食のパンだけは手作りする家庭が多かったという。 朝食は、タブーナかフランスパンに、甘いペーストの「シャミヤ」や、辛いペーストの「ハリサ」を付ける。それと、ジャスミンの香りのするシロップを入れた温かい珈琲を飲むのが定番だ。 シャミヤは、ナツメヤシとゴマのペーストを合わせて固め、上からオリーブオイルをかけたもの。ハリサは唐辛子をベースに、パプリカやコリアンダー、オリーブオイルを入れたもので、パンだけでなく、サラダや煮込み料理などあらゆる料理に付けて食べる。チュニジアの食卓には必ずある調味料だ。 昼食は、マトンなどの肉と、そら豆やグリンピース、かぼちゃなどをトマトで煮込んだ鍋料理をメインに、タブーナやクスクスを食べる。鍋料理にもオリーブオイルがふんだんに使われていてマイルドな味わいだ。タブーナとの相性も良い。夕食は、パン、スープ、サラダを軽めに食べ、食後にミントティーを飲む。 昼食は、マトンなどの肉と、そら豆やグリンピース、かぼちゃなどをトマトで煮込んだ鍋料理をメインに、タブーナやクスクスを食べる。鍋料理にもオリーブオイルがふんだんに使われていてマイルドな味わいだ。タブーナとの相性も良い。夕食は、パン、スープ、サラダを軽めに食べ、食後にミントティーを飲む。 おやつとしても食事としても食べられている、チュニジアの名物ともいえるのは「ブリック」。作り方は、小麦粉と塩、オリーブオイルを合わせてフライパンに薄くひき、クレープのように焼いて生地を作る。生地が温かいうちに、じゃがいも、ツナ、パセリ、卵を生地で包み、揚げる。卵が半熟のうちに油から引き上げるのがおいしく仕上がるコツだ。春巻きのようにカリッと揚がった生地から、とろっとした半熟の卵が顔を出す。 「チュニジアでは、女の子が男の子に作ってあげます。卵をこぼさずに上手に食べられたら、2人の関係はグッド。好きな男の子には、揚げる時間を多めにとること。そうすれば、卵が固まるのでこぼさずに上手に食べられます(笑)」とメリティーさん。 メリティーさんは26歳のときに来日し、今年で6年になる。料理が好きで14歳のときから、学校に通いながらレストランで働いていたという。05年に愛知県で行われた浜名湖花博では、チュニジア代表として料理を振舞った。 数ある得意料理の中でも「パンを一番勉強しました。母親から、14種類のパンの作り方を教わりましたが、上質なオリーブオイルを入れた手作りのパンが一番好きです」と話してくれた。 |
カレーとも砂糖とも合う「ロティチャナイ」-マレーシア | ||||||||||||||||
「マレーシアでは、朝から外食。海老の出汁がきいた福建海老スープ麺や、ロティチャナイというパンを屋台などで食べます」と、東京・銀座のマレーシア料理レストラン「ジョムマカン」の店長、ウーさん。 ロティチャナイは小麦粉、イースト、卵、塩、水、マーガリンに、練乳を入れて作る、ほのかな甘みのある平たいパン。材料を合わせたら1時間捏ね続け、冷蔵庫で30分間寝かせて生地を休ませる。ピザ生地を伸ばす要領で、回しながら薄く伸ばし、鉄板で2分位焼く。ひきのある食感で、表面はカリッと香ばしく、パイのように仕上がる。 「ロティは朝食や昼食によく食べます。カレーを付けたり、練乳や白砂糖を付けて食べるのが一般的で、多くの人が2枚位は食べます。夕食時も、少し物足りないときに少しつまみます」とシェフのムスキさん。捏ねるのに1時間もかかるが、マレーシアでは家で手作りする人が多いという。 夕食の前に小腹がすいたときは「カレーパイ」を屋台で買って、珈琲と一緒に食べる。また、シンガポールが発祥の地と言われている「カヤトースト」も定番のおやつ。作り方は、卵黄、砂糖、ココナッツに、水を少し入れて弱火で1時間、焦げないように煮る。こうしてできたジャムを、きつね色にトーストした食パンに塗る。 |
マレーシアの若者に人気のオープントースト | ||||||||||
同店は現在マレーシアに20店舗を展開している。 |
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