「パン・ド・ミ」は山型と角型の２種類がある。脱脂粉乳の代わりにイタリア産の有名なチーズを使用しているという。
フランスパンのバタール（２４２円、右）とバゲット（同、左）も健在だ。
洗練された雰囲気の店内。奥がレジになっている。
「海の幸のフォカッチャ」（２１０円）や「自家製ソーセージのピッツァ」（同）など。
りんごとさつま芋が入った「リュスティックポムポム」（１３７円）
オーナーの高橋誠一さんは、外資系の広告代理店でテレビコマーシャルの製作を指揮する仕事をしていた。物を作って人を喜ばせることが好きだった。「当時はバブルの全盛期で、世の中は、もっともっと豊かになろうという気分で溢れていました」と高橋さんは振り返る。あるとき仕事で、南米のペルーの奥地に行くことになった。
「原住民の人たちが裸足で、床のないような家に住み、生活している現場を目の当たりにして、『生きることのすべてがここにある』と感じました」と高橋さんはいう。
「汗をかいて仕事をして、人を喜ばせる」。この自分の原点を再認識した高橋さんは、少しずつ自分の中で温めていた計画を実行に移す決心をした。
「広告代理店では、自分がやりたいことができるポジションと肩書きを与えられていましたが、それから後は、どうしても政治的なことがからんでくるし、それは自分としては好ましくないことでした」
高橋さんは、何店かの都内の有名ベーカリーで仕事をし、レストランでも修業を重ねた。そして、１９９３年にパンドコナをオープンした。高橋さんは、パン業界ではまったくの一匹狼。自分の美意識を貫いている。
高橋さんのテーマは「シンプル＆デリシャス」だ。「例えば、おばあちゃんがふと食べて、『美味しいわ』、それだけなんです」と高橋さんは言う。
一方では、テレビＣＭ制作時代に培ったコンセプチュアルな思考を実践する。地域の人々の属性を踏まえ、それに対してどのようなコンセプトの商品を提供したらいいかを丹念に考えながら商品開発を行ってきた。「これだけはいっておきたい。わたしがコンセプト開発をするときの軸は、単に商売ということではありません。正確に言えば、私のコンセプト開発の軸は、私の美意識なんです」
使用する材料や製法も、こうして導き出された商品を実現するために、納得がいくまで考え抜く。そうしているうちに、おのずから、「いい材料」「安心・安全」な材料へと絞り込まれていく。
しかし、高橋さんは、使用する材料や製法などについてあまり語らない。語った言葉だけが一人歩きして、「天然酵母使用」とか「無添加パン」などとして、様式化してしまうことがいやだからだ。
一時、渋谷のデパートに店を出したこともあったが、現在は、本店での営業一本に絞る。「原点に帰って、地域のお客様の声をもう一度一つ一つ聞いて、店のよい点はさらに伸ばし、改善すべき点は改善していこうと考えています」と高橋さんは話した。
