記事の閲覧
| <<戻る |
| いろいろ、エッセイ／2007年8月号 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 「御意見五両堪忍十両」 - 武市 多美夫(パンを売り続けてきた男)
いろいろ、エッセイ(8)
食肉製造加工会社「ミートホープ」の偽装工作が明らかになった。また食品に対する信頼が失われた。 ４回目の記者会見をテレビでご覧になった方もいらっしゃると思うが、話していることは嘘の繰り返しであった。 あやふやな回答を繰り返す社長に長男の取締役が、偽装を遣ったか遣らなかったかを問い詰めた。 それに対して社長は「心の鬼が身を責めた」のか、偽装の事実を認めた。 事件の本質とは違うが、親子が記者会見で交わしたほんのわずかな会話に、何か言い知れぬ空しさを私は感じた。 話を事実に戻そう。会見に同席した工場長は偽装工作が社長の指示によるのか、自らの意志によるのか、との質問に口ごもりながら蚊が泣くような小さな声で社長の指示であることを明らかにした。 話し終えた工場長の顔に安堵ともとれる表情を見た。そこから組織に生きる男の弱さと強さを私は感じた。 さらに工場長に対して記者の質問が続いた。社長の偽装指示に対して何か言ったのか、との質問に「社長は雲の上の人ですから」と一言。そこには何も言えない、何も言わない、ワンマン体質の「沈黙の組織」があった。 企業がコスト低減を図り利益を求めるのは当然であるが、人を騙し、法を犯してまで利益を追い求め続ける経営者の実態は哀れで悲しい。 ｢信用｣とは、ほんとうだと思うこと・よいという評判・信じて使うこと、「信頼」とは、信用して頼ること、と辞書にある。 この社長も過去には信頼を得るために、一時一時を真剣に誠実に生きた時間があったに違いない。そして「信用」を得て、「信頼」された喜びを噛みしめたこともあったはずである。 焼き肉屋に納品する時はブロックではなくスライスしていたという。顧客のニーズに合わせた商売をして信頼されていた時もあったようだが、不正行為をしたのは長年の経験や過信が大きな原因である、と社長は語った。 食肉偽装は「アメリカで牛肉が止まり、安い原料が入らなくなったから、それに代わる商品を作り始めた」とも説明したが、消費者を騙し、従業員を軽視し、取引先を裏切った罪は重い。 ワンマン経営者は他からの正当な意見を軽視し排除する傾向があると言われる。そんな経営者に私は言いたい。「人の発言に耳を傾けなさい。少なくとも補佐役の言うことに耳を貸しなさい。まずそこから始めなさい」と。 補佐役は人前ではトップを立てて、人がいない時に本音で苦言を言い、トップの弱点をカバーしてくれるのだ。 オーナーおよび経営トップ陣は「御意見五両堪忍十両」を心に留めておくべきである。他人の意見を聞くことや忍耐することは大事なことなのだ。 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
