油脂を使い分ける / 理想のパンを作るために... / ■ベーカリーに徹底取材 - ブランスリー電子版


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特集/2006年7月号

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油脂を使い分ける
理想のパンを作るために...
■ベーカリーに徹底取材


「油脂」について、ベーカリーのオーナーらに話を聞いた。自分が理想とするパンを作るために必要な油脂を厳選し、製品によってうまく使い分けている姿が浮かび上がった。



油脂はパンの味と香りを決める重要な要素 - トーホーベーカリー
作業性の面で、練り込みにはコンパウンド
 東京・三鷹市、トーホーベーカリー店長の松井成和さんは「バターでもマーガリンでもパンの原価として考えたときに、それほどの差はないので、特にデニッシュに折り込む油脂や、フィリングなんかの材料にする油脂は、フレッシュバターを使っています」と話す。
 同ベーカリーでは、バターは、▽明太フィリングなどに使用するフレッシュバター▽デニッシュの折り込みに使用する発酵バター、の2種類を使っている。メロン皮にもフレッシュバターを使用。
 「油脂は、パンの味を構成する大切な要素なので、できる限りいいものを使うようにしています」(松井さん)
 マーガリンは、主に練り込み用などに3種類を使っている。「食パンなどの食事系のパンには、練り込む油脂の味がそのままパンに出ますから、バターが多く入ったコンパウンドマーガリンを使っています」(松井さん)
 同ベーカリーでは、最初は、使用する油脂のすべてにバターを使っていたという。しかし、パン生地に練り込む場合などは、作業がしづらいことから、コンパウンドマーガリンを使用するようになった。
 ショートニングについては「パンに練り込むとき、バターだけではもっていきにくいときに使用しています。口溶けのよさをさらに出したいときなど、バターだけでは香りが強くなりすぎますから」(松井さん)



小麦粉の風味を引き出すために、オリーブオイルを使用 - パン焼き人

バターの香りが特徴のパンにはバターを使用
 東京・世田谷区、パン焼き人の安井定義さんは「ウチは、パンの材料としては、発酵バターとエキストラバージンのオリーブオイルの2種類だけを使っています」と話す。
 「クロワッサンやデニッシュなどバターの香りが特徴のパンには、バターを使って、それ以外には、オリーブオイルを使います」
 オリーブオイルは、その風味が必要なのではなく、必要とする食感を得るために使っているそうだ。したがって、香りがほとんどしないものを探して、使用している。
 「私は、パンに添加物は必要ないと思っています。マーガリンやショートニングは、どんな添加物が使われているか把握しづらいので使
用しません。オリーブオイルは、小麦粉の味を引き立てるために使っています」
 バター以外の風味がほしい場合は、例えば、ごま油や、紅花油、ウォルナッツオイルなどを使う場合もある。
 「中華風のフィリングを包んだようなパンの場合は、生地にごま油を練り込むと、とてもいい感じになります」(安井さん)



後味のよさが絶対条件。個性が強い油脂は不向き - ベルアルプ

焼き菓子には発酵バター入りコンパウンド
 「油脂を選ぶ最大の基準は、パンを食べた時の後味です。毎日食べるものですから、いくらおいしくても、後味がすっきりしていないと駄目ですね」
 東京・巣鴨の地蔵通商店街のベーカリー、ベルアルプの地引弘道オーナーはこう話す。
 同ベーカリーでは、▽フレッシュバター▽ショートニング▽コンパウンドマーガリン2種(バター入りと発酵バター入り)、などを使用。
 「油脂はパンの味を決める重要な要素なの
で、厳選しています。私の好みなのですが、どんなに上等なおいしさでも、個性が強すぎるものは、小麦粉の味とかち合ってしまうような気がして好きではありません」
 同ベーカリーには、角食が2種類あるが、一方は、外麦粉を使い、ショートニングを、もう一方は内麦粉を使って、フレッシュバターを練り込んでいる。「それぞれ、風味が全く違います。それぞれにお客様がついています」
 デニッシュに使う折り込み油脂は、発酵バター入りコンパウンドを使用している。
 「基本的には、バターロールやブリオッシュなど、油脂の風味がそのまま製品の風味になるような製品には、多くの場合フレッシュバターを使っています。ただ、小麦粉の風味との兼ね合いで、バターの香りが強く出すぎてもいやなので、注意しています」
 焼き菓子類には、発酵バター入りのコンパウンドを使用。また、ピザやフォカッチャなどには、オリーブオイルを練り込んでいる。
 「油脂によって出来上がるパンの風味が全く違いますので、いろいろ試して、自分が納得できるものを使っています。値段もそれなりですが、おいしいパンを作るためですから仕方ありません。安いものは恐くて使えません」



油脂の役割を明確にイメージして使用する - プーフレカンテ

ショートニングには乳化作用がある
 名古屋市のベーカリー、プーフレカンテでは、▽無塩の発酵バター▽有塩のバター▽無塩のバター▽ショートニング▽ラード▽オリーブオイル、などを使っている。
 オーナーの狩野義浩さんの油脂に対する考え方は明確だ。角食などのそのまま食べることもあって、ソフト感が特徴の食パンについては、無塩バターを練り込み、イギリスパンなど、トーストして食べることが多いものには、有塩のバターを練り込んでいる。
 「焼き込んで食べる場合は、ほんの少しだけ、塩味が強い方がいいかなと思うんです。それと、イギリスパンは吸水が少し多いので、その分、塩をプラスするという意味合いもあります。また、ミキシングの最後に入れるバターといっしょに入った塩が、バターの風味を引き出してくれるような気もしています」(狩野さん)
 発酵バターは、デニッシュやクロワッサンなどに使用している。比較的発酵時間が短いため、味の深みを出すためだそうだ。 発酵バターは、ルバン種を配合するパンにも入れている。
 「ルバンは、もともとパンに味の深みを出すために入れるのですが、発酵バターも入れることで、相乗効果が出て、さらに味の深みが出ます」(狩野さん)
 ショートニングは、菓子パン生地などにバターと共に練り込んでいる。
 「ショートニングは乳化作用があって、生地を安定させてくれます。冷蔵庫に入れたときに、冷蔵障害が出にくくなる効果もあります。また、表面が乾きづらくなります」
 ラードは、フォカッチャなどイタリアのパンに練り込む。オリーブオイルと共に練り込むと、独特の深い味わいが出るという。
 「日本の場合はイーストを入れて、一気に発酵させるため、味の深みが出づらいのですが、ラードを入れることで、イタリアのフォカッチャとも一味違った深い味わいが出ると私は考えています」

油脂を多く練り込むときは低水分バターを使用する - ル・クール

毎日食べるパンには香りの強くないバター
 千葉市緑区のベーカリー、ル・クールでは、▽無塩バター2種類▽無塩の低水分バター▽ショートニング、などを使用。
 無塩バターのひとつは、バターロールや角食パンに練り込む。
 「毎日食べるパンですから、バターの香りが強すぎて、飽きられてしまうようではいけません。小麦粉の味とかち合わず、ほのかにバターの香りがする程度がベストです。練り込む際の作業性の問題は、練り込む量がそれほど多くないので、少し工夫をすれば何の問題もありません」(オーナーの菅井悟郎さん)
 一方、もうひとつの無塩バターは、マドレーヌなどの焼き菓子に使用している。
 「こちらの方のバターは、脂肪球が粗いバターです。『生に近いバター』というか、あまり加工をしていないバターで、味がとても濃いのが特徴です。焼いたときに膨らみすぎず、バターの香りが製品の中に閉じ込められて、しっとりとしていて、どっしりと重い焼き菓子ができます」(菅井さん)
 無塩の低水分バターは、クロワッサンやブリオッシュなどに使っている。「このバターは、物理的な力を加えても傷みづらいのが特徴です。ミキサーでたたかれても、温度が多少上がっても、溶けにくく、延ばしたときに、その形を保持する能力に優れていて、生地に大量に練り込む場合や、生地に折り込む場合などに適しています」(菅井さん)
 ショートニングは、純植物性の無添加のものを使用。ソフトな食感が必要だが、バターの風味は必要ない場合に用いる。パン・ド・ミなどに使っている。

原価計算女王
原価計算女王
作りたいパンに合わせて、様々な油脂がある。 - ミヨシ油脂

鈴木一史・食品事業本部技術部ソフト開発チームリーダー(左)と平川芳郎・企画部リーダー(右)
 油脂の基本的な事柄について、ミヨシ油脂の鈴木一史・食品事業本部技術部ソフト開発チームリーダーと平川芳郎・企画部リーダーに話を聞いた。
 鈴木 マーガリンやショートニングは、その目的に応じて様々な原料油脂を選べるという利点があります。原料油脂には、なたね油、大豆油、パーム油、ラードなどがあり、精製、硬化、脱臭の処理を施します。
 マーガリンは、原料油脂を加熱し、乳化剤などを加えてよく混合し、さらに、水を加えて攪拌し、乳化させます。味を付加する場合は、水に食塩や香料を溶かし込みます。
 ショートニングは水分を添加せず、多くの場合、窒素ガスを混入させます。白色で無味無臭の油脂です。
 マーガリンの優れた点は、作ろうとするパンのイメージに合わせて、例えばミルク風味のものや、バター風味のものなど様々な種類の製品が用意されているということです。作業性の面で、伸展性を向上させたものや、食感の面で、口溶けをよくする効果を高めたものなどもあります。
 価格とのからみもありますが、大きな流れとしては、「マーガリンの利便性を保持しながら、味はバターに近いもの」が一貫して求められてきたような気がします。バターをブレンドしたコンパウンドマーガリンはそのひとつの答えです。
 平川 近年は、乳化剤などの添加物が入っていないマーガリンが求められる傾向にあります。私どもは、こうしたニーズにお応えするため、新たな技術開発に取り組み、食品添加物を一切使用していないマーガリンも製造いたしております。
 一方、ショートニングは、無味無臭ということで、小麦粉などの味を最大限に引き出したいパンなどに使用されます。
 リテールベーカリーでご使用いただく油脂は、練り込み用に1~2種類、そして、マーガリンの付け売りなどを行っている場合は、スプレッド用に1種類というのが多くのケースだと思います。当社では、より多くの油脂を製品によって使い分けていただけるよう、小型ピロー包装の純製ラードをご提供しています。
 また、粉末油脂は長期保存が可能で、複数の油脂を使い分ける場合は便利です。粉末油脂は、1ミクロンの油脂をたんぱく質や糖質などで包み込んだ粉末状の食品素材で、どんな素材とも混合でき、水にも均一に分散します。
 パンのソフト化機能をもった粉末油脂もありますので、ご利用いただければと思っています。


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