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続・パン屋さん手帖/2004年10月号 |
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第2章 ありのままのパン人生 | |
今回は東京製菓学校を辞め、10月に有限会社レーヴを
設立して、現在に至るまでについて書きたいと思います。長い間ブランスリーに書かせて頂きましたが、今回が最終回になります。東京製菓学校を退職してから色々な方にお仕事のお誘いをいただいたのですが前回書いたように、少し家にいることにしました。 パン屋さん手帖(18) 橋本泰之(ベーカリーコンサルタント) 1956年横浜生まれ。新宿の専門学校を卒業後、銀座レストランみかわやに就職。その後センチュリーフーズ、モンタボーなどを経て、1996~2001年、東京製菓学校教師。2001年10月、有限会社レーヴを設立、現在に至る。 |

温泉地のベーカリーの立ち上げにじっくりとかかわった。
家族で韓国旅行に出かけた。
実際仕事をしていたときは、のんびりとした時間がとれなかったので、色々なことにもチャレンジしました。庭いじりにはじまって、野菜や果物も作ってみました。これが意外に楽しくて、少しはまってしまいました。この時期が一番自分自身に対して素直になっていた時期だと思います。 夏休みも近づいて家族で韓国旅行に行きました。思ったよりも会話がすすみ、楽しい旅行になりました。韓国人の教え子に案内を頼み、ショッピングや食事をしました。娘も楽しそうに過ごしていました。ある人からのアドバイスで、「一緒に旅行すると明るくなるよ」って言われたのですが、少し分かる気持ちになりました。旅行から帰ってから以前よりも娘との会話が多くなり、この頃から次の仕事について少し考え出しました。 温泉の石窯のあるベーカリー その頃修善寺に温泉を作るという話があって、そこに石窯のパン屋をオープンしたいと話がきました。「責任者として来ないか」という話でした。修善寺は遠いし、その気持ちもなかったのでお断りしました。すると「月に3日間でもいいから来てほしい」と言われ、家庭も落ち着いてきていたので、受けることにしました。 修善寺の大仁にある温泉の敷地内の手作り工房の中に位置する石窯のパン屋で、おみやげ屋の一環のような店舗でした。ここで今までやってみたかった冷蔵発酵のシステムをとり入れました。作業性、それにパン本来のうまさを追求した製法のスタートになったと思います。製品の約60%以上が冷蔵発酵で(ストレート・70%中種を取り入れて)それにオーバーナイトのレーズン・レモン種・焼き菓子などを加えた店舗を開店しました。 温泉の敷地内だったのですが、温泉のある場所からは遠く、お客様の流れが少なくて、開店当初は苦労しました。しかし徹底した試食と商品説明を繰り返すことにより、売上も年々上がっています。修善寺の町でも実際ハード系が売れています。ドイツパンなら食べ方提案の一環でスライスの仕方や食べ方を説明しています。そうすることで、販売員も自信を持ってしっかりと販売が出来ています。 私は店舗に行った時は3時間くらいは対面ケースの前で商品説明と試食を繰り返してきました。私が自ら実践し、販売員はそれを見て売り方を理解し、同じように販売が出来るようになりました。山本五十六の「やって見せて言って聞かせてさせてみてほめてやらねば、部下は動かない」という言葉がありますが、その通りです。 初めにこのようなゆっくりとした時間をいただいて出来る仕事にめぐり合ったことにより、自分自身のスタートがうまく切れたように感じます。よいスタッフにも恵まれました。オープン当初はスタッフがそろわずに苦労しましたが、東京製菓学校の卒業生にも助けられ、しっかりとしたスタートが切れたと思います。 接客の大切さを理解し、売ろうとする意志がなくては、商品は売れないと思います。自分たちで作った製品は大切にします。そしてそのことがさらによい商品を作り出します。私は、自分が作った商品は大切にするし、売れなかったらその理由を考えます。 本当に売れないなら、改良して販売します。お店の棚に並べたら販売員よりも気にかけます。それによって販売員も並べ方、売り方、そしてパンの説明が出来るようになります。その流れがあって初めてヒット商品が出来るのです。その信念はどこの店舗に行っても変わりません。 温泉のパン屋さんを立ち上げてからメーカーでの商品開発の仕事も頂き、家庭の方も落ち着いてきたので、9月から本格的に仕事を始めることにしました。 |

自らが手本を示して従業員の意識を向上させる。
根本から変えないと、よくならない。
初めは月の半分くらい仕事で埋まれば良いと思っていました。コンサルタントにお金を出すということは大変なことです。初めは店から言われるままに新商品を開発することがメインの仕事でした。 しかし、それだけではコンサルタントの仕事は長くは続きません。新商品を出しただけでは、余り売上には貢献出来ません。 自分がやっている店舗ではないので、月に2回程度行っているだけでは、従業員の意識は変わりません。 お店のシステムから変えるようなコンサルティングをしないと店は変わりません。 先ほど書いた商品の販売の仕方が特にそうです。私が開発し提案した商品は、私には思い入れがあります。しかし従業員にはありません。気持ちの入っていない商品は出来映えも悪いし、売り方も粗雑です。だから売れないということになります。 仮に売れても、お客様は店舗に買いに来る時にはある程度の金額を決めてきています。ですから私が提案した新商品を買ったら既存の商品を買え控えます。その結果売上は変わりません。 私自身が店長をしていれば変えられますが、実際はオーナーや店長が行います。そこの意識の教育がコンサルタントの全てだと感じました。 現在は、コンサルティングを頼まれると、まず朝から晩まで店に入って、その上で報告書を出します。その報告書を元に改善計画を立てます。 その時に店側が余り興味を示さなかったり、「ウチには難しい」と言うような話があったりしたらそこでお断りします。根本から店舗を直せないのなら良いお店にはならないからです。 従業員の意識が最も大切。 店は技術力で確実に良くなります。でも店の従業員の意識がもっと大切です。そこが変われば売上は必ず上がります。 去年は冷夏で売上が良かっと思いますが、今年はどこの店も大変苦しんだと思います。ある店で今年の夏前にチーフが辞めて人が入れ替わりました。 実際にその店では販売員の意識が変わって(商品も多少は変わりましたが)、「形の悪い商品は売りたくない」と情熱を持ってオーナーに言ってきました。「私は販売に命をかけています」というくらい真剣にやるようになりました。 今年その店舗は夏の売上が前年対比で120%位いっていました。その数字からも販売員の売ろうとする意識(お客様に喜んで貰おうとする気持ち)が高いと売上は上がることが分かると思います。 暑い夏に売れないとぼやくのではなくて、何をするかが大切なのです。カスタマーサティスファクション(顧客満足)が大切ですね。 さらに販売員だけではなく、製造員の意識も高くなると必ず売上は上がります。そして仕事が楽しくなります。楽しんで仕事をすることが一番大切なことだと思います。 夢を与えられる仕事がしたい コンサルタントの仕事をはじめて、3年が過ぎようとしています。 3年間すべて順調ではありませんでした。大変なことも沢山ありました。 しかし、悩んだ時や大変な時に相談出来る仲間がいたことがとても大きかったように思います。それと自分自身を信じることが大切だと思います。 確かに勉強もしなくてはいけないし、やらなくてはならないことはいっぱいあります。でも人の店舗で仕事をするのがコンサルタントなので、手を抜かず一軒一軒大切に、そして夢を与えられるような仕事が出来れば幸いだと思います。社名のレーヴはフランス語で『夢』という意味ですので。 またいつかお会いしたいと思います。ありがとうございました。 |

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