記事の閲覧
| <<戻る | 写真をクリックすると拡大写真が見られます。 |
| 特集／2024年4月号 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| パン屋の販促
|
| 時代の流れの中で販促の形は変わっても、伝えるべき店の価値は同じ - トーホーベーカリー | |||||||||||||||||||
２０２０年から３年ほど続いたコロナ禍による混乱だが、東京・三鷹市のベーカリー「トーホーベーカリー」の場合、その間、一時的に小物商品より食事パンの構成比が高くなるなどの変化はあったが、上位人気の５商品の動きは、そう大きくは変わらなかったという。 上位人気の５商品とは「ＧＯＬＤ塩バターロール」（税別１４５円）、「自家製サクサクカレーパン」（税別２５０円）、「ふんわりとろけるクリームパン」（税別１８０円）、「明太フランス」（税別１本３６０円、ハーフ１８０円）、「ピザパン（トマト・ポテト）」（税別２６０円）の５品だ。 オーナーで店長の松井成和さんは「特に塩バターロールとカレーパンの人気が高いので、販促にも力を入れてきました。しかし、その販促のあり方もコロナ禍を経験した事で多少変化してきました」と話す。 コロナ禍前は、焼きたてまたは揚げたての商品には「焼きたて」「揚げたて」と書かれた紙のポップを添えることが多かったが、今はない。 「もちろん今も販促の基本的な方針は変わりません。リアルタイムで各商品の魅力を伝える販促にこれまで力を入れ大きな効果を上げてきました。だから厨房で焼き上がった商品をスタッフが売り場に運ぶ際に、来店客へ『ＧＯＬＤ塩バターロール、焼きあがりました』などと呼びかけるコールはマスクをつけた状態で続けています。しかし、コロナ禍を機にパンを包装して陳列するようになったため、売り場で焼きたてのシズル感を出す事が以前のようにはできなくなってしまったのです」（松井さん） 売場につけていた「焼きたて」「揚げたて」のポップは、包装している外観の場合、イメージ的に矛盾が生じてしまうので、外さざるを得なかったという。 ｢焼きたて｣以外の価値も訴求 「コロナ禍で外出回数を制限する人が増えたのを機に、客数は減っても客単価はそのぶん増えてきたような気がします」（松井さん） 買いだめして冷凍保存してリベイクする食べ方も広まってきた。そのため同店では、パンの包装形態や売り場での見せ方を工夫することによって、「焼きたて」である事以外の価値をアピールする事も進めていった。 例えば一番人気の「ＧＯＬＤ塩バターロール」は、店のロゴマークを描いた紙の箱に入れた５個セットと、１個ずつ紙袋に入れたものを揃えたが、購入時には中身の商品が見えないようになっている。 紙袋には「Ｉｎｔｅｒｎａｔｉｏｎａｌ Ｔａｓｔｅ Ｉｎｓｔｉｔｕｔｅ（国際味覚審査機構）」で優秀味覚賞である二つ星を受賞した事がわかるイラストを記載。さらに売り場の頭上には「ＧＯＬＤ塩バターロール」の写真と「世界が認めた２ツ星」の文字を印刷した垂れ幕を取り付けた。 しかし「自家製サクサクカレーパン」に関しては、「揚げたてをアピールすることを続けるには中身が見えないのはよくない」（松井さん）と考え、透明の窓が前面についた紙袋をオーダーメイドで用意。同紙袋には店名や商品名のほか、カレーパングランプリでの受賞歴なども表記した。 同様に、揚げたてのカレーパンを真ん中からちぎっている写真と、６年連続でカレーパングランプリを受賞した実績や、２０２２年には同コンテストの２部門で金賞を受賞したことなどを伝える文言を入れた垂れ幕も掲示。 「紙袋に入れる事で逆に、商品の付加価値を伝えられ、ブランディングが進めやすくなった部分もあるのではないかと思います。『ＧＯＬＤ塩バターロール』など中が完全に見えない商品では、見えない事でのワクワク感を感じてもらえればとも思いますね」（松井さん） そのほか根強い人気がある「明太フランス」に関しては、素材の明太子を提供してくれる業者である福岡市の老舗「ふくや」と相談した上で、窓付の紙包装に「博多の老舗ふくや 明太フランス」の文字を入れる形で販売することで合意。また包装袋の裏にはリベイクの仕方を伝える説明も表記した。 | |||||||||||||||||||
同店はコロナ禍で、営業時間を１時間短縮。さらに店内や店の前で以前行っていた夏まつりやクリスマスプレゼントの配布などのイベントは、昨年夏まではしばらく中止していた。 一方、季節によって変わる売り場でのフェアは続けた。取材当日は２月末だったためチョコレートフェアと苺フェアを絡めた雛祭りの企画商品を並べた売り場が活況を呈していた。 実は同店は、コロナ禍が落ち着いた昨年９月に、試食販売を久しぶりに再開している。その月の強化商品は食パンだったため、６枚切りの「ＴＯＨＯ食パン」（税別３００円）をカットして終日店の前で配り、大きな手応えを感じた。 「来てくれたお客様にすごく喜んでもらえたので、やってよかったと本当に思いましたね。お客様が買い物を終えて店を出ていく際に、買って頂いた食パンを見せて『買ったわよ』と笑顔で言ってくれた時なんかは本当に嬉しかったです」（松井さん） コロナ禍で色々と自粛しなくてはならず、思ったような販促が出来ない時期もあった。 「やっぱりその場でパンを食べてもらって、お客様の生の声が聞ける試食販売って本当にいいね、とスタッフ皆で話していましたね」（松井さん） 製販一丸で商品力を上げていく 実は同店では製販共に各スタッフに意欲的に仕事に取り組んでもらうため、ミーティングを通じ、毎月の「目標」や「強化商品」などを決めている。ミーティングはコロナ禍でも少人数ごとに交代で回数を分けて行うなどして続けてきた。 取材した月の「目標」は「目を見て挨拶しよう。お客様の方を向いてコールする」。その前の月は「気持ちの良い挨拶をしよう」。製販共に同じ目標だが、こうしたことを達成できるよう努める事で、接客が大きく変わってくるという。 「強化商品」は、２月だったのもあり、２種類のチョコを生地にたっぷり練り込んだ「パン・ショコラティエ」（税別２７５円）が選ばれていた。「強化商品」とは、もともと通年での定番品だった商品を行事や季節に合わせて行うフェアなどに絡めて販売強化する事で、改めてその商品の価値をアピールするためのものだ。「パン・ショコラティエ」はバレンタインを意識したチョコレートフェア絡みで改めて商品の販促を強化したことで、通常時の１・３倍の売り上げを達成する事ができたという。 こうした特定の商品の販促強化を行う前には必ず、何らかの形で商品の価値を高めていく取り組みを行う。「パン・ショコラティエ」は製造の方で成形を見直し、裏側の底の部分が綺麗に綴じられるよう改良した。 翌月３月の強化商品だった「ふんわりとろけるクリームパン」については、銅鍋の中に入れたクリームパンのクリームが飛び跳ねるイラストを店中に掲示するなどのアイデアが販売チームの方から発案された。 強化商品についてのコールをする場合は、なるべく商品名の前に具体的な説明を加えるようにしている。例えば「できたてのふんわりとろけるクリームパンはいかがでしょうか」「食べたらクリームたっぷり、びっくりするようなクリームパンはいかがでしょうか」といったものだ。 コールは可能であれば、誰かがコールした後に、次の人がコールを続けるという「やまびこコール」を行うこともある。例えば「食べたらクリームたっぷり、びっくりするようなクリームパンができあがりました」と誰かが言ったら、次の人が「ふんわりとろけるクリームパンいかがでしょうか」と続く。 同店では基本的な販促の柱として、コールには力を入れている。強化商品に対しては特に効果が大きいという。 SHOP DATA 店名：トーホーベーカリー 住所：〒１８１‐００１３ 東京都三鷹市下連雀１‐９‐１９ 電話：０４２２‐４３‐６３１１ 営業時間：午前７時〜午後６時 定休日：日曜、第３月曜、祝日 品揃え：約90品目 スタッフ：製造常時12人、販売常時６人 店舗面積：厨房２５坪、売り場１４坪 日商：平日８５万円、土曜１４５万円 | |||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||
|
|
||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||
|
|
||||||||||
| 一人ひとりの客に寄り添った販促でネットワークを 広げていく - ボーダーブレッド | |||||||||||||||||||
東京・三鷹市上連雀のベーカリー「ボーダーブレッド（Ｂｏｒｄｅｒ Ｂｒｅａｄ）」は、以前、同市井の頭１丁目にあった「いのいちベーカリー」が２０２０年に移転リニューアルした店だ。 井の頭線、三鷹台駅の南口から出て徒歩１分の場所にあった「いのいちベーカリー」は８年半営業していたが、手狭になってきたため、同じ三鷹市内で４キロほど離れたこの場所へ移転した。駅前ではなく、最寄りのＪＲ三鷹駅または武蔵境駅からはバスに乗って、いくつか停留所を通り過ぎた先に辿り着く場所だ。 「移転した事で厨房が広くなったので、以前作れなかったものも作れるようになりました。また駅前の店ほど慌ただしくないので、パンを作る量も絞り、自分の労働時間も２時間ほど減らす事ができたのもよかったですね」と店長の神田恵一郎さんは話す。 神田さんの目標は、必要以上に売り上げを伸ばし店の規模を大きくする事ではない。無理がない範囲で働いて営業し、20年、30年と、なるべく長く店を続ける事が目標だ。しかし、移転したことによって、主に立地の面から生じる新たなデメリットを感じるようになったという。 「交通の面では不便な場所なので、どうしても目的買いで来てくれるお客様が中心になります。だから半径１キロの範囲で来れるお客様を対象に営業しているのですが、パンが売れる量はどうしても天候によって左右されてしまいます。多く作りすぎないよう製造量の調整にはいつも苦労していますが、難しいですね」（神田さん） 不便さを乗り越えていく パンが余った場合は、妻の仁美さんが担当している店のインスタグラムで購入者を募り、常連やパン好きの人達に買いに来てもらう事が多いという。 その際は主に冷凍の「おまかせパンセット」と銘打って、１４００〜１５００円相当のパンの詰め合わせを、税込１０８０円位にして販売。インスタのコメント欄を通じて購入希望者を募るが、反響は大きく、希望者はすぐ集まる事が多い。コメント欄を通じてもらえる感想も好意的なものが多く励みになるという。 同店の目の前には調布市から西東京市まで南北に続く武蔵境通りが走っており、駅からは遠い閑静な住宅街となっている。綺麗な町並みで、目立った商業施設は見当たらない中を通り沿にを歩くと、鮮やかな赤と青のペンキで塗られた建物が見えてくるが、右側の青い部分に入居しているのが同店だ。 「物件を契約したのは工事前でしたが、新築で綺麗な建物に入れそうだった事が、決め手になりましたね」（神田さん） ただ、新たな環境で店の事を知ってもらえるよう販促を行うのは、いくつか難しい点もあった。 「物件の所有者である大家さんからは、建物に直接看板を取り付けてはいけないと言われているんです。壁に穴を開けて欲しくないというのが理由のようです」（神田さん） そのため、入り口の上に取り付ける横長の大きな看板を出すことはできない。結局、入り口の自動ドアのところに白い文字で「Ｂｏｒｄｅｒ Ｂｒｅａｄ」という店名を入れたのと、店の前の歩道と店の間にある小さなスペースに、小さな立て看板を置くのみになった。自動車で目の前の大通りを通った人からは、ここがパン屋だとは気づかれにくい外観だ。 「だから大掛かりな販促は出来ませんでしたね。でも前の店で常連だった人や、インスタを見たり口コミを聞いた人達が自転車で来てくれたりして随分と支えられたという感じです」（神田さん） | |||||||||||||||||||
主に販売を担当する妻の仁美さんのアットホームな接客にも随分助けられた。 「『いのいちベーカリー』の頃は、店が狭くて対面式の売り場でした。駅前なのでそこに人がどんどん入ってくるとなかなか落ち着いた接客ができなかった感じでした。でも今は、トングとトレーで選べるセルフ式で、店内もゆったり広いので、ちょっとした雑談をしながらパンの説明をしたりもできます。お客様一人ひとりに向き合った落ち着いた接客ができるようになった点はとても良かったですね」（仁美さん） また「いのいちベーカリー」の頃には売り場の反対側の壁に何点か雑貨を置くなどしていたが、新しい店ではあまり商品以外のものは置いていない。そのため、売り場は随分とすっきりした感じがある。 入り口が大通りに面して広いので、朝は売り場も明るく爽やかだ。しかし西側に面しているため昼過ぎは西日が入り売り場が見えにくくなる事もある。そのため日除けをつけたり、売り場向こうのレジ側からダウンライトをつけるなどの工夫もしている。商品を置く棚の位置もオープン当初はもっと中央よりだったが、途中でなるべく西日の影響を受けにくい右側に変えた。 たまに違う事をして変化をつける 「確かに立地的に不便な点は多々あります。ただしお客様には落ち着いた環境で買い物をしてもらえるようになったし、パン作りの面では広さも設備も充実したので前の店では出来なかった色々な事ができるようになりました」（神田さん） 例えば今の店では月１回の頻度で一日中ベーグルしか販売しない「ベーグル屋さんＤＡＹ」を設定。普段は定番のパンを中心とした売り場作りを行う同店だが、たまに違う事をすることで、常連の人に楽しんでもらえるし、店側にとっても良い刺激になるという。 日替わりで練り込み素材を変えるリュスティックも前の店では週末限定でしか作れなかったが、環境が変わって色々と冒険ができるようになった。リュスティックは神田さんが修行先で試作品を作る際に、熱心に取り組んだ思い出があり、かなり思い入れの強い商品でもあるので、売り場では目立つ場所に置くなどして積極的にアピールしている。取材当日は「かぼちゃとお豆のリュスティック」（税込２３０円）を販売していた。 販売の仕事の合間に焼き菓子を作る仁美さんも、新しい店ではマフィンやスコーンを、フレバーを変えながら週３回ほど出せるようになった。 さらに、こうした日替わりで変化をつける商品の情報をインスタなどで発信する事によって、新規で来てくれる人が増えたり、常連客からの口コミで来てくれる人のネットワークが広がったりするという。 半径１キロ以内の濃密な関係 昨年からは地元地域に密着したマルシェなどのイベントにも参加。近隣の幼稚園のバザーにも参加した。 「幼稚園など人が集まるところでは口コミを広げてもらいやすいですね。保護者の方にはよく来店していただいているし、そこの幼稚園出身の高校生がうちにパートに来てくれたりもしています。隣の理容室の方達にもたくさん来て頂いていますし、アットホームな環境を生かしてネットワークを広げていければと思っています」（仁美さん） 店には朝や昼にかけてだけではなく、夕方頃にぽつぽつと会社帰りの人や男性客などが一人で来ることもある。そのため夜は暗くても店の姿がよく見えるよう、入り口前にランタンを設置。 入り口前にちょっとした観葉植物を置いたり、ポストにスヌーピーのイラストを貼ったりして、なんとなく入りやすいような雰囲気を作り、新規の人も呼び込めるようにしてきた。 販売のパートスタッフの接客に関しては、ある程度本人達に任せ、日替わりの限定商品以外の販促では、スタッフ自身が好きで本当におすすめしたいと思う商品を売ってもらうようにしている。 移転の時に面接して採用したスタッフが、そのまま続けてくれていたりして、金属期間が長いスタッフが多いので、信頼して任せやすいという。 「前の店と違ってこちらから情報を出していかないと注目を集めにくい環境ですが、情報はとにかく半径１キロ以内に住む人達を対象に集中して出し、とにかく１度来て食べてもらいたいと思っています。食べてもらったら、また来てもらえる自信があるので、範囲を広げるのは難しくても、その分密度を濃くしていきたいですね」（神田さん） SHOP DATA 店名：ボーダーブレッド 住所：〒１８１‐００１２ 東京都三鷹市上連雀７‐31‐25 電話：０４２２‐２６‐７１４２ 営業時間：午前10時〜午後６時 定休日：日曜、月曜 品揃え：約40品目 スタッフ：製造常時１人、販売常時１人 店舗面積：厨房５坪、売り場２.５坪 日商：平日６〜７万円、土曜日11万円 | |||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||
|
|
||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||
|
|
||||||||||||||
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
