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| お店拝見／2023年2月号 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 常連客と共に守っていくロングセラー商品 - アンセン | |||||||||||||||||||
東京・杉並区のＪＲ西荻窪駅北口から続く商店街を抜けた先にある「アンセン」。看板には店名とともに「パンの店」と「ＰＡＴＩＳＳＥＲＩＥ」という言葉が書かれている。そして入口横にある黒板には「50周年」の文字。同店は50年前、現在の場所から少し離れた駅前の地で創業した。 「昔はパンだけでなくケーキもあって、それぞれ担当する職人さんがいました。今より店はかなり広くて、喫茶もやっていたんですよ」 店主の渡邉歩さんの母で販売を担当する佐智子さんは創業当時をこう振り返る。 「創業10年の頃、経営母体の不動産会社が閉店を決めました。それで夫とほかの職人さんらで、不動産会社から商号やオーブンなどの機械を受け継いだんです。そのままの駅前立地では経営は難しく、神奈川県藤沢市の商店街に移転しました。移転後西荻のお客様から当店のパンが食べたいという主旨の手紙をいただき、西荻の駅近くに販売店を設けました。トラックにパンを積んで移動販売をしたりもしました。藤沢では約25年営業し、西荻のビルオーナーから誘いを受けて２００１年、以前と全く同じ場所ではないのですが、西荻の現在の地で再開できることになったんです」（佐智子さん） 創業から10年後に神奈川県藤沢市に移転して、西荻に戻るまで約25年。しかしその間、移動販売などの甲斐もあり同店の存在を西荻の人たちは忘れなかった。再開後間もなく以前の客は戻り、新規客も増えていった。 「待っていてくださったお客様がたくさんいらっしゃって。もうすぐ１００歳を迎えるというおばあちゃんもいましたし、親子二代、三代で来てくれる方もいます」（佐智子さん） 西荻で再スタートを切ってから21年、売り上げは順調だ。現在の店主の歩さんが店を継ぐ目的でパン作りを始めたのは今から19年前、当時店主だった父の孝夫さんが体調を崩したのがきっかけ。歩さんが20歳の頃で、同店が西荻に戻った２年後だった。孝夫さんの下でパン作りを学ぶこと７〜８年、今から７〜８年前に代替わりした。孝夫さんは５年ほど前に現役を退き、現在は窯を担当するスタッフと歩さんの２人体制で製造を行っている。 「私は昔の西荻時代を知らないので、お客様から色々と教えていただいています。また、お客様にとって店主のイメージは父で、私はその息子で弟子なんだと思います。それもあってか皆さん忌憚なく意見を言って下さって、それが心強く有難いですね」（歩さん） 創業時からの商品に常連客の熱い支持 売り場に並ぶ商品は一日約40〜50種類で、そのうちデニッシュやドーナツなど菓子パン類が半分以上を占める。ケーキを作っていた昔の流れを汲んでいる。デニッシュの「オレンジカスター」（税込２１６円）に使用するアプリコットジャムや、「クリームパン」（税込１９４円）のカスタードなども、創業時のケーキ職人によるレシピを変わらず受け継いでいる。 販売は店売りだけでなく、中学・高校の購買部や、近所の保育園への配達も行っている。配達は歩さんが製造の合間に行う。 「配達は父の代のときから行っていて、その量は近年少し増えています。保育園への商品は、乳製品アレルギー対応のため、油脂をバターの代わりにラードにしています。来店されるお客様の中にも同様の商品を求められる方がおり、保育園用に作ったときにお分けする形で、提供させていただいております」（歩さん） 同店の商品は、創業時からほぼ変わっていないレシピのものがほとんどだ。中でも、昔からの常連客にとっての定番は、食パン類と、焼き菓子の「マドレーヌ」（税込２７０円）、ブリオッシュ生地を使った菓子パンの「メレンゲ」（税込２３７円）の３アイテムだという。 「これらの商品は父が退いた後、私だけで作れるかどうか、お客様から心配されたくらいなんです。当店のパンが長く続いているのは、お客様の支えがあってこそですね」（歩さん） 食パン類で最も人気なのは「大型食パン」（税込４１０円）。耳は厚めでパリっとして、中はふんわりとした食感だ。食べるとまず、耳の香ばしさが口いっぱいに広がり、噛んでいくと甘味やバターの風味がじんわり感じられる。 「『大型食パン』の最大の特徴である香ばしさは、ガス窯の強い火力で焼き上げて出しています。ただ、この窯は創業時から使っていてかなり傷んでいます。それで買い替えを検討し、他のオーブンで試し焼きをしたのですが、この味は出ないんです。困っていたらお客様を通して、この古い窯と同じものを持っているお店と知り合えたので、しばらくはなんとかなりそうです」（歩さん） 「大型食パン」と同じ生地を使った食パンはほかに５種類揃えている。成形や使用する焼き型、焼成の仕方などを変えることで、食感や風味にそれぞれ特徴を持たせている。 「それぞれの味の特徴は『大型食パン』を基準に説明しています。例えばしっとり食感がお好みであれば、厚みのある型を使った焼き色が薄めの『グルメ食パン』（税込５１８円）をお勧めするといったようにですね」（歩さん） | |||||||||||||||||||
ほぼ変えていないレシピの中で唯一変えたのは、使用する油脂だ。15年ほど前に、マーガリンとショートニングを排除し、バターのみにした。 「変えた時期は、世の中でトランス脂肪酸の危険性が話題になったときです。当店のパンは、価格競争では大手に敵いません。お客様に安心安全だと思えるパンを作っていくことが、町のパン屋としての当店の使命だという思いからですね」（歩さん） 毎日午後１時30分から４時30分まで、「おやつＴＩＭＥ（タイム）」と名付け、菓子パン類の10円引きセールを行っている。近所の子どもたちに食べてもらう機会を増やそうと、３人の小学生の子どもを持つ歩さんならではの発案で昨年の夏から始めた。 「目的はもう一つあって、夏外に出たくない暑さのときでも、このセールが来店するきっかけになればと思ったんです。夏で終わりにする予定だったのですが、続行希望のお客様がいらっしゃったので続けています。宣伝効果はありそうですし、このまま続けていってもいいかと思っています」（歩さん） SHOP DATA 店名：アンセン 住所：〒１６７‐００４２ 東京都杉並区西荻北３丁目２５−１ 電話：０３‐５３８２‐８６６０ 営業時間：午前９時〜午後６時 定休日：不定休 品揃え：４０〜５０品目 スタッフ：製造常時１〜２人、販売常時１〜２人 店舗面積：厨房約１２坪、売り場約６坪 日商：平日約４〜８万円、土曜、日曜８〜１２万円 | |||||||||||||
| この記事の読みどころ
●東京・西荻の地で創業し、神奈川に移転後も、西荻の人たちと繋がり続け、再び創業の地に戻った。
●創業時から使い続けるガス窯で焼く食パンが５０年間、客をひきつけている。 ●毎日午後１時30分から行う「おやつＴＩＭＥ」で菓子パン類を１０円引きで販売。 |
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