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| 特集／2019年11月号 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| パネトーネへの想い
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| 本場イタリアが賞賛したおいしさ - Ｐａｎｅ ＆ Ｏｌｉｏ | ||||||||||||||||
６年前にオープンした東京・文京区のベーカリー「Ｐａｎｅ ＆ Ｏｌｉｏ（パーネ エ オリオ）」。シェフの小林照明さんは、パネトーネを中心に据えてイタリアのパンを専門に作る。 「パネトーネをいいサイクルで作れるようになったのは、３年前くらいからですね」（小林さん） 最初の１年間はパネトーネ自体の認知度が低く売れなかった。２年目の暮れ、イタリアミラノで開催のパネトーネコンテストに出場し、本場の有名店を押しのけ準グランプリを受賞、さらに風呂敷を使った包みが、ラッピング部門でグランプリとなり、見事ダブル受賞となった。 パネトーネの最盛期は、本場イタリアに習いクリスマス時期。コンテストで受賞した翌年、すなわち今から３年前のクリスマスから同店のパネトーネの人気は高まっていった。受賞したことは認知度を上げるのに貢献した。 「例年６〜９月の暑い時期は製造中止にしていましたが、今年作らなかったのは７〜８月の正味ひと月くらいです。時期を問わず需要が伸びてきたことや、夏向けのスパークリングワインと合わせて、百貨店の催事で販売するなどして、季節ごとの楽しみ方を提案できるようになってきたのも要因かと思います。パネトーネの出来の良し悪しは、パネトーネ種の状態によるところが大きくて、実際、良くない種で作ると、見た目は違いがわからないほどうまくできたとしても、口に入れたときの口どけが悪くなるときがあります。元気でいい状態の種にするためには、毎日種継ぎをしてチェックしながら、それを使ってコンスタントにパネトーネを作り続けることが大事なんです。そういう意味でもここ３年は作りやすく、いい循環になっています」（小林さん） ９月下旬に東京・新宿の百貨店で催事販売を行った。通常は「パネトーネ（トラディショナーレ）」（税抜３９００円）のホール売りだけだが、同催事限定で４分の１カットを税抜９７５円で用意した。 「カット売りは、お試しで買える気軽さが好評でした。１週間の催事期間中、リピートしてくださった方も多く、その際はホールをご購入された方もいらっしゃいました」（小林さんの妻で販売担当の伊基子さん） クリスマス時期は11月下旬頃から予約販売をしており、多い時は一日30個ほど出る。また、通常はレーズン、オレンジピール、シトロンピールの入った「トラディショナーレ」一種類だが、りんご、クルミ、しょうがを入れたものと、チョコレートとオレンジを入れたものを加え、３種類に増やす。そして今年は特別に、秋に収穫した新麦と、抹茶を配合したパネトーネも用意していくつもりだ。 | ||||||||||||||||
異業種からの転身で、同店の開業に至った小林さんは、イタリア産小麦粉の輸入を手掛ける知人の店で修行した際、「手作りのパネトーネを初めて食べて、そのおいしさに感動した」という。 「それまでパネトーネに関しては、フルーツ入りの焼き菓子としか認識していなかったと思います。日本に輸入されたものはほとんどが、材料が違ったり添加物が使われていたりして、大量生産されたものですから、全く別物ですよね」（小林さん） イタリアに渡った小林さんは、30年以上のキャリアを積むジャンカルロ・デ・ローザ氏から、パネトーネとイタリアパン作りについて学んだ。現在店で使っているパネトーネ種は、ジャンカルロ氏から譲り受け、種継ぎしてきたものだ。 「師匠が行っていたように、パネトーネ種は、パネトーネだけでなくほかのパンにも使っています。少しの量を隠し味程度に使うことで、日持ちがよくなったり、うま味を出せたりする効果があります」（小林さん） イタリアでは、様々なパネトーネを食べ、おいしいパネトーネと出合う難しさも実感したという。 「イタリアでは、ベーカリーではなく主に菓子店が自家製のパネトーネを販売していますが、クリスマスが近くなると、大量生産されたものが、スーパーや駅の売店などにも置かれるようになります。イタリアでも、見極めなければ、おいしいパネトーネとは出合うことができませんし、菓子店のものでも、活きた種を使った手作りなので、その時々で品質にばらつきを感じることもあります」（小林さん） 同店の製造スタッフは、常時３人ほどいるが、パネトーネ作りは小林さんが一人で行う。厨房で小林さんが、パネトーネ作りの作業を始めると、売り場の販売スタッフにまでその緊張感が伝わるという。 「種を元気にしてあげるのに２日間かけ、３日目に仕込みをして生地を寝かせます。一晩寝かせた生地を、４日目の早朝に見るときはどきどきしますね。夜心配になって、熟睡できていないんじゃないかと思うときもあります。焼成したら縮みを防ぐために一晩逆さにして吊るし、５日目にようやく袋詰めして完成です。工程が多くトータルで時間がかかるので、慣れと集中力が大事ですね」（小林さん） パネトーネ以外にも、イタリアのパンを中心に約60種類のパンを揃える同店には、平日のランチタイムは近隣で働く会社員らが多く訪れる。ランチで好評なのは、様々な具がのった13種類のフォカッチャ。 イタリアのクロワッサンと言われている「コルネット」（税抜２６０円）は、シナモンシュガーやヘーゼルナッツチョコペーストをまいたものなど合計４種類あり、同店の定番商品だ。また、パネトーネだけでなく、同店のほとんどの商品にイタリア産小麦を使用している。原価が高くなるが、イタリア産小麦でしか表現できない独特のうま味と風味があるという。 「パネトーネと同じように、イタリアのパンのおいしさを、もっと多くの人に伝えていきたいと思っています」（小林さん） SHOP DATA 店名：Ｐａｎｅ ＆ Ｏｌｉｏ（パーネ エ オリオ） 住所：〒１１２‐００１３ 東京都文京区音羽１‐２０‐１３ 電話：０３‐６９０２‐０１９０ 営業時間：午前１０時〜午後６時〜午後７時 定休日：日曜、月曜、祝日 品揃え：約６０品目 スタッフ：製造常時２人、販売常時１〜２人 店舗面積：売り場４坪、厨房１０坪 | |||||||||||||
| 国産小麦で作るパネトーネ - パン酵母シーバー | ||||||||||||||||
約40年の長いパン職人歴を持つ椎葉恒春さんは、その大半の35年以上を、パネトーネ種とともに歩んできた。 椎葉さんの店は、神奈川県伊勢原市の「パン酵母シーバー」。店名の酵母はまさに、パネトーネ種の酵母を指している。これほどまでにパネトーネ種に思い入れを持つのは、18歳で入った大手老舗ベーカリーでの経験があるから。 「初めにパン作りを教えてくれた恩師が、パネトーネについて研究していました。当時本場イタリアからの情報はほぼありませんでしたから、空き缶を焼き型に試すくらい、模索していました。そうした、昼夜忘れるほど夢中にされている姿を見て、自分もそうなりたいという強い憧れを抱きました」（椎葉さん） その後志願しパネトーネ製造を担当。チーフを任されるまでになった。イタリアから技術指導を受けるなど交流を図るようになり、本場から運ばれてきたパネトーネ種を譲り受けた。 26歳で初めて自分の店を持った。しかし怪我で店を営業できなくなり、ベーカリーアドバイザーに転身。その間もパネトーネ種の種継ぎは欠かさなかった。 「パン酵母シーバー」は29年前に開業。10年前、市内の別の場所から移転して現在の場所に落ち着いた。パネトーネ作りは、「パン酵母シーバー」の誕生とともに始まった。 「約30年前は知っている人がほとんどいなかったので、店自体を支持してくれた方が、『変わったものがあるな』と興味を持ってくださったんだと思います。また、天然酵母を使っていることと、作るのが難しい上に３日以上もかかるという点が、お客様に響いたのではないかと思いますね。試食を出して食べてもらったりもしました。評判は口コミで広がって、売れ行きも右肩上がりで伸びていきました」（椎葉さん） 現在パネトーネは年中製造しているが、同店ではクリスマス菓子として、シュトレンは11月半ばから、パネトーネは12月に入ってから販売のピークを迎える。 「普段は透明の袋に入れているだけですが、クリスマス時期はリボンを付けて箱に入れます。ある企業から、『お客様へのギフトとして送りたい』と、大量注文を受けたこともあります。約10年前からは、店頭販売よりも電話やネットでの注文が多く、７〜８割を占めます」（椎葉さん） 「パネトーネ」は、直径約15センチのホールが税込２４００円、４分の１カットが税込６００円の２タイプの形状で販売している。 | ||||||||||||||||
「パネトーネ」のレシピは、本場イタリアから伝授されたものからほとんど変えていない。しかし椎葉さんは国産小麦を使うことにこだわったため、納得のいく出来になるまで約２年、材料の細かな配合や発酵の取り方など、試行錯誤を繰り返した。 「修業時代は外麦で作っていましたから、最初は発酵がうまくいかないとか、ぼそぼそしたり口どけが悪くなってしまうようなことが多かったですね。並行してハムとソーセージを無添加で自家製にすることも進めていました。何でも突き詰めないと気が済まないので、没頭して作っていました」（椎葉さん） 「パネトーネ」の生地は、バターや卵、砂糖が高配合な上、製造時間もかかる。そのため、失敗したときのリスクはほかのパンと比べてもかなり大きい。 「何度も失敗を繰り返して、立ち直れないくらいに落ち込んでしまったときがありました。そんなとき、同業の仲間から励ましの言葉をもらって、『自分にしか作れないものがあるんだ』とやる気を奮い起こしました」（椎葉さん） 「パネトーネ」の製造にかかる日数は種起こしから数えると３日間。中種法や長時間発酵など時間のかかる工程を踏む。 「時間はかかるし、かなりの技術が必要ですから、出来上がったときは達成感があります。また、よそにはないものを作っているという誇りもありますね」（椎葉さん） 中に入っている具は、サルタナレーズン、オレンジ、シトロンだ。これらフルーツなどの具を入れず、砂糖、バター、卵の配合量を若干変え、ほぼ同じ工程で作る「パンドーロ」（税込１８００円）も同店では作っている。具が入っていないほか、見た目で違う点は、形だ。「パネトーネ」は紙でできた丸い型に入れて焼成するが、「パンドーロ」は星形の型を使い、焼成後型から抜く。「パンドーロ」も、税込４５０円で４分の１カットを販売している。 「パンドーロは、黄金のパンと言われているように、カット面の色が卵黄の黄色味で輝くように見えるのが特徴です。パネトーネと比べると、フルーツが入っていない分、素朴に見えるので、ギフト用としての人気はパネトーネの方がありますね」（椎葉さん） また、パネトーネ種は、同店に並ぶほとんどのパンに使用している。 「入れる量はパンによって変えていて、どれも少量ずつですが、パネトーネ種を使うことで、味、品質が安定します。熟成が進み、しっとり仕上がります」（椎葉さん） 中でも、パネトーネ種の良さが発揮されているアイテムは、「天然酵母田舎パン」（税込67円）と「自家製天然酵母食パン」（税込３５０円）だ。 「天然酵母田舎パン」は、生クリーム入りのしっとりした食感が特徴の、テーブルロールのような感覚で食べられるシンプルなパン。「自家製天然酵母食パン」は、土日に遠方から買いに来る人も多いという評判のおいしさの食パンで、同店で最も売れるアイテムだ。 これからクリスマスに向けて、「パネトーネ」作りの繁忙期となっていく。同店では例年、繁忙期は「パンドーロ」と合わせて一週間に３回、30個を焼き上げるペースで製造していくという。 SHOP DATA 店名：パン酵母シーバー 住所：〒２５９‐１１１４ 神奈川県伊勢原市高森１４４４ 電話：０４６３‐９４‐８７６５ 営業時間：午前７時〜午後７時（売切れ次第閉店） 定休日：月曜（月曜が祝日の場合は営業、翌火曜休み） 品揃え：約100品目 スタッフ：製造常時３〜４人、販売常時１〜２人 店舗面積：売り場20坪、厨房10坪 | |||||||||||||
| パネトーネ作りへの情熱が生まれる - コシュカ | |||||||||||||
東京・世田谷区のベーカリー「コシュカ」の店長、秋元英樹さんが、パネトーネの魅力にとりつかれるようになったのは、今から２年ほど前だ。尊敬する知人から本場のパネトーネを貰って食べる機会があり、その時に「今まで食べてきたものと全く違う」と感じ、驚いたという。「いったいどうしたらこのようなものを作れるのか」と思ったが、パネトーネに関しては、日本ではまだ情報が少なすぎる事に気付いた。 「日本ではまだちゃんとしたパネトーネが伝わっていません。だから本場の味を知り、製法から、実際販売されている様子やその文化、伝統的な背景まで、情報は直に聞いて集める必要があると考えました」（秋元さん） そこで秋元さんは、それ以降、２年間で６回イタリアを訪問するという思い切った行動に出る。 現地ではミラノ周辺で、秋元さんが実際に食べておいしいと感じたもしくは現地の職人から情報をもらったパネッテリア（パン店）やパスティッチェリア（菓子店）に飛び込みで片っ端から何十店も入り、「パネトーネに関する話を聞きたい」と申し出て回ることから開始。 何人かの職人からパネトーネに関する貴重な話を聞き出し、情報を集めながら現地の職人とのつながりを深めていった。 その際に、まず秋元さんが驚いたのは、イタリアで販売されるパネトーネの数は想像以上に多く、一店の一日あたりの製造量も一家族が買う量も日本とは桁違いに違っていたということだ。 クリスマス前４週間の待降節にそれぞれの家庭で食され、親しい知人や親族などにも配る習慣があるパネトーネは、近年では年中通して販売していこうという動きがイタリアでもあるとはいえ、やはりクリスマス時期から正月明けにかけて多く出回る。 その時期には、朝食を中心に各家庭で大量のパネトーネが消費される。 「例えば、現地では一度に８〜10個のパネトーネをぽんと買う人の姿も目にしました。１キロ位のパネトーネを自家用で１個買って１家族で２〜３日かけて食べ切るようです」（秋元さん） 友人などへの贈答用としては特別に気に入ったパネトーネが贈られる事が多い。自家用、贈答用を含めイタリアでは毎年かなり多くの数のパネトーネが販売されている事に驚きを隠せなかったという。 | |||||||||||||
ただこうした大量のパネトーネが流通する中、本場イタリアでも最近は、職人の卓越した技術で作られるパネトーネと、工業製品として大量に作られるものとは区別がされてきており、価格も日本円で１０００円以上は違う。 熟練した職人は、「リエヴィト マードレ」と呼ばれるパネトーネの親種を精魂込めて管理し種継ぎし、パネトーネの製造は何日もかけて、仕込み、成形、発酵、焼成に至るまでの作業を行う。一つ一つが真剣な匠の技で、完全な修得には10年かかるとも言われている。 「パネトーネ種は北イタリアのコモ湖周辺由来のリエヴィトでないと培養できない」と日本では言われているが、それも少し違う事がわかってきたという。 例えばもとは他の地域から伝わったルヴァン種由来の種であっても、厳密に管理し育て上げることによって、酵母と乳酸菌が共存する理想的な環境を実現させることはできるという。 「大切なのは、多少環境が変わっても、パネトーネ種をいかに愛情深く管理し、育て上げられるかです。そのためには定期的に何回もリフレッシュし、コンタミ（異物汚染）を避けながら種継ぎをしていく必要があります。発酵させるまでには大変手間がかかりますが、それをやるという情熱がイタリアの職人には凄まじいまでにあると感じましたね」（秋元さん） 「その情熱はどこから生まれるのか」の問いに対して、秋元さんは、「本物のパネトーネの味を知っているかどうかですね」。 秋元さん自身も純粋にその味を知って、自分しか作れない本物のパネトーネを作ってみたいと考えた。だからまだ未完成だが、イタリアで出会い色々と教えてくれた職人たちへの恩返しの気持ちもあり、期待に応えられるような納得できるものを作りたいという。 秋元さんは現在クリスマスに向けて懸命に店で販売するパネトーネの試作品を作っている。去年は苦戦しながら試作品を作り上げたが、どうしても納得がいかず販売はやめてしまった。だから今年はどうしても納得し店頭に出せるようなものを作り上げたいと考えている。 パネトーネ元年が来て欲しい 「日本でもパネトーネに興味を持つ人が増えるのは良いことだと思います」と秋元さんは話す。 伝統的な製法に対して敬意を払った上での理解や基本的な知識など、正しい情報がいかに伝わっていくかという問題もあるが、パネトーネに興味を持ってくれる人が職人側でも消費者側でも少しでも増えることで、業界が活性化するればと考えている。 これまで製法の修得が難しいなどの理由で敷居が高く、クリスマス菓子としての広がりは日本ではまだ限られていたパネトーネだが、今年は、ミラノ発の人気イタリアンベーカリー「プリンチ」の日本上陸といった動きもあったが、秋元さんは、パネトーネが注目を集めるきっかけになれば好ましいと考えている。 秋元さんは、今年はこれから待降節に向けて、今までにないくらい大きな動きを起こせればと考えている。 「２０１９年は日本の『パネトーネ元年』だったと言えるように最善を尽くしたいですね」 SHOP DATA 店名：コシュカ 住所：〒１５８-００８１東京都世田谷区深沢５-23-１ 電話：０３-３７０３-５７７１ 営業時間：午前10時〜午後７時 定休日：：日曜、月曜 品揃え：約80品目 スタッフ：製造常時２〜３人、販売常時１〜２人 店舗面積：売場６坪、厨房12坪、バックヤード４坪 | ||||||||||||||||
| イタリアに憧れ、独学で試行錯誤 - ドゥエトゥレ | ||||||||||||||||
東京・八王子市のベーカリー「ドゥエトゥレ」は、店長の川崎泰之さんのイタリアに対する憧れもあって、イタリア語で数字の２を意味する「ドゥエ」と３を意味する「トゥレ」を連ねて店名とし、２００６年にオープンした。開業当初からしばらく２、３年位はイタリアのパンも含め、ハード系から日本の文化に長く馴染んだソフトなパンまで様々な商品を販売していたという。特にイタリアのパンに関しては「知っている限りであらゆる種類のものを出した」（川崎さん）という。 ただ地域性と合わなかったのか、その多くは売れず、結局、販売をやめてしまった。今は卸売もしている食パン類の商品がかなり地元で評判が良く、売り上げの中心を占めている。カレーパンやあんパンなどの日常に馴染みやすい商品も売れている。 その一方でイタリア系の商品も一部は残った。チャパタやビスコッティ、そしてパネトーネだ。 パネトーネは創業した２００６年からずっとクリスマス前の時期になると毎年作っている。当時は日本国内に本社がある某メーカーのパネトーネ種を使用。しっかりした味で評判は悪くなかったが、段々と他のパン同様、同店らしさを出すため、自家製の天然酵母を使用したものに変えられないかと考えるようになった。 そんな時、３年前の２０１６年、とある講習会でヨーグルト酵母を種継ぎして作るパネトーネの話に出合う。会で学び取った内容を元に、試してみると、日持ちとふわふわ感が全く違うものになっていた。 | ||||||||||||||||
３年前から自家製のヨーグルト酵母を種継ぎして作るようになったパネトーネは、製造の手間を考えると多くは作れないため、１年で60個ほどの限定数で製造。 ２年前の２０１７年にはクリスマスだけではなく夏に、地元・八王子市の名産であるパッションフルーツを混ぜ込んだ「パッションフルーツのパネトーネ」も販売。名産を盛り上げるため八王子市がクラウドファウンディングをしていた企画に依頼を受けて参加したものだが、反応は上々で満足する結果に終わった。 ２０１８年のクリスマス前には酵母の発酵が足りず生地が腰折れしてしまい、販売をあえなく断念することになってしまった。反省点として、ヨーグルト酵母のリフレッシュと管理に失敗し、発酵力が身につかなかったことがあるのではないかと考えている。 自家製酵母を使う方法を導入してからは、いつもパネトーネ製造の難しさを感じているが、具体的には、ミキシングし本捏した後の生地がドロドロで成形が難しく、本当に膨らむのかと不安を感じながらいつも作っている。 これまで同店では、人気の食パン類などで自家製酵母の商品を精力的に販売してきたが、特別な指導を受けるより独学で学ぶ道を選んできている。川崎さんは結果的にそれで自分の店らしいものができるようになったのではと思っているが、ただ技術的に必須のところはしっかり押さえて、今年のクリスマスに出すパネトーネは失敗しないよう、買う人に喜んでもらえるようなものを作りたいと考えている。 「自分一人で酵母を育てているので、忙しい時に種継ぎを怠らないようにしなくてはと思います。長く育てて、いずれは自分の息子（９才）へこの店と一緒に引き継いでもらえるような種にしていきたいですね」（川崎さん） SHOP DATA 店名：ドゥエトゥレ（Due Tre） 住所：〒１９３-０８３５ 東京都八王子市千人町２-13-８ モナーク西八王子103 電話：０４２-６８２-５０６６ 営業時間：午前７時〜午後７時 定休日：月曜、第１、３火曜 品揃え：１００品目 スタッフ：製造５人、販売３人 店舗面積：売場４坪、厨房12坪 日商：平日30万円 土日40万円 | ||||||||||||||||
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
