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2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 低温長時間発酵にとことんこだわる - ラ・ブランジュリ カロン |
 倉庫を改装して作った店舗は、天井が高く、ゆったりとした空間だ。 住所：東京都八王子市高倉町64-6 電話：042-682-3757 営業時間：午前10時〜午後7時 定休日：月曜日
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| パン作りだけはうまく出来た |
 オーナーの神林慎吾さん  店内には、こんな楽しげな陳列台もある。  マイナス５度Ｃで１７時間生地を熟成させて作る「氷温熟成フランス」（中央）。左は、「フランス小麦のレトロバゲット」。右は「リュスティック・バゲット」（２００円）  「ヘーゼルナッツといちじく・くるみのパン」（スティック状やなまこ形、ブール形など） 昨年１１月に、東京・八王子市にオープンした「ラ・ブランジュリ カロン」。大きな倉庫を改装した店舗で、同じ店舗空間の中に、洋菓子店の「バーゼル」も入っている。共同店舗の形で、店舗の約５分の３がバーゼルのスペースで、５分の２がカロンのスペースだ。天井がかなり高く、開放感のある空間になっている。 カロンの品揃えはおよそ３０品目。ゆったりとした店内に配された手づくり感あふれる陳列台などに、手づくり感あふれる様々なパンが並んでいる。 オーナーの神林慎吾さんは、この店を出すに当たって、こだわったことがある。それは、低温長時間発酵を思う存分やるための設備を充実させることだった。そのために、約２・５坪のスペースを確保し、冷蔵庫、冷凍庫、ドウコンディショナーを、２台ずつ導入した。 神林さんは「一昔前は、パン生地は冷やすな、と教わったものですが、今は、低温長時間発酵のよさが広く知られるようになりました。私も長時間じっくりと発酵させたパンは味、香りともとてもいいと感じています。しかし、冷蔵庫のスペースの問題で、低温長時間発酵が十分にやり切れていなかったんです」という。現在、カロンのパンは、そのほとんどが低温長時間発酵によるものだという。 神林さんは、大学を中退し、パンの世界に入った。サラリーマンにはなりたくないと考えていて、「夢中になれるものは何か」をずっと探していた。たまたま、アルバイト先のベーカリーで、製造を手伝うことになり、やってみると、自分でもびっくりするほど、うまく出来た。 「もともと不器用で、何をやっても覚えるまでに時間がかかっていたのですが、パン作りだけは、すぐに覚えられたんですよ。その店の出入りのパンの先生に『君はパン屋になるために生まれてきた』なんていわれたりして、『これしかない』と思ったんです。すると仕事が面白くて仕方なくなりました。大学を卒業するまでの時間ももったいなく感じられて、中退しました」 神林さんは、東京・国分寺でもベーカリーを営んでいる。名前は「ラ・ブランジュリ キィニョン」。同店はマルイファミリー国分寺にも店舗を持っていて、１日約１５万円を売り上げる。製造はすべてキィニョン本店で行い、本店の売上もあわせると日商約２０万円だ。 「百貨店に店を構えるようになって、お客様からの質問やクレームの内容がかなりシビアになりましたね」と神林さんはいう。「例えば、『卵不使用のパン』について、『卵を使わないパン専用の製造設備で作ったものですか』という質問を受けました。微量でも入っていては困るということなんですね。もちろん専用の設備を導入することは出来ませんので、『原材料には卵を使用していません』と伝えるしかありません」（神林さん）
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| 借金は、実績が勝ちとった信用 |
 くるみといちじくが入った「ロッケンフォルコン」（右）と「ライ麦パン」（左）  上生地にカルピスバターと滝川養鶏場の卵を使用した「メロンパン」  洋菓子店との共同店舗になっている。イートインのスペースでは、パンも洋菓子も食べられる。  楽しい雰囲気に溢れたベーカリーのスペース。  ラ・ブランジュリ カロンの入り口。向かって左側には、洋菓子店の入り口がある。 今年１０月には、ＪＲ立川駅にオープンする商業施設内にも店舗を構えることになった。日商規模は５０万円前後になるという。そのための製造工場を現在準備中で、さらにカロンからもパンを運ぶ予定という。 「１人で自分が作りたいパンだけをじっくりと作って、店をまわしていくことの良さは十分わかっています。パン作りに集中できるし、その楽しさは捨てがたいものです。しかし、それは、ある意味体力勝負みたいなところがあって、若いうちはいいけれど、年をとったときにどうするのか、ということがあるわけです。やはり、規模の大きさというのが必要になると思うんです。その分借金も多くなるわけですが、それはこれまでの自分の実績が生み出した信用だと思うんです。当然スタッフも多くなり、チームでひとつのことを成し遂げるという楽しさもあるわけです」（神林さん） カロンは、そんな中で、自分の原点となるパンをじっくりと研究し、作る場所もほしい、という願いを実現する「神林さんの城」的な存在にしたいのだという。 カロンの商品は、低温で長時間熟成させることによって醸し出される深い味と香りが特徴のパンがほとんど。 「フランス小麦のレトロバゲット」（２５０円）は、液種を使用し、低温で長時間発酵をとったフランスパン。 「氷温熟成フランス」（２５０円）は、その名の通り氷温（マイナス５度Ｃ）で１７時間生地を熟成させて作るフランスパン。生地が熟成して出る甘味が特徴だ。 「メロンパン」（１４０円）は、メロン皮にカルピスバターと、八王子市にある滝川養鶏場の卵を使用している。「メロンパンを差別化するとしたら、上生地だと考えました」と神林さん。 ライ麦パンにも力を入れている。「ロッケンフォルコン」（ハーフカット２７０円、ホール５４０円）は、くるみといちじくが入ったライ麦パンで、「酸味とコクの面で中々満足できるライサワーが出来なかったのですが、あるライサワーのもとに出会って、納得がいくものができました」と神林さん。
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でしゃばらない深さ
取材メモ 「低温長時間発酵を思う存分やりたかった」とオーナーは言った。同店のパンをいくつか味わってみたが、特に、シンプルなハード系のパンは、明らかに味の違いがわかった。すべてをやさしく包み込むような包容力があって、とても複雑な味わいがした。コクがあるが、それが決してでしゃばらない。味のある食材を練り込んだパンでも、練り込んだ食材の味を背後でやさしく引き立てる名脇役として、パン自体の味わいが、なくてはならない存在になっている。
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